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春秋花壇

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グンマー前橋で『1995年オープン!bar moon shine dock』『巨峰のサイドカー』です。独居老人の癒しのひと時。

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グンマー前橋で『1995年オープン!bar moon shine dock』『巨峰のサイドカー』です。独居老人の癒しのひと時。

前橋市の一角に、ひっそりと佇む小さなバーがあった。その名も『Bar Moon Shine Dock』。1995年にオープンして以来、地元の人々に愛され続けてきた。木製のドアを開けると、ほの暗い店内にはジャズが静かに流れ、アンティークの椅子やテーブルが時代の風合いを残している。カウンターの奥には、無数のボトルがずらりと並び、店主の厳選した酒たちが輝いていた。

その夜、70歳の独居老人、川島重雄(かわしま しげお)は、このバーに足を運んでいた。毎週木曜日の夜、彼はここに来て、特別なひとときを過ごすのが習慣になっていた。若いころは仕事や家庭に追われて、こうした贅沢を楽しむ余裕はなかったが、今や妻も亡くなり、子どもたちもそれぞれ独立している。重雄にとって、このバーはひとりの時間を豊かに過ごすための癒しの場所となっていた。

「いらっしゃいませ、川島さん。いつもの『巨峰のサイドカー』ですか?」店主のタカシが、カウンター越しに穏やかな笑みを浮かべて声をかけた。

「そうだな、いつものを頼むよ。」と、重雄は少し疲れた笑顔を返す。長い一日を終えて、このカクテルを味わうことが、彼にとってのささやかな楽しみだった。

「巨峰のサイドカー」はこの店のオリジナルカクテルだ。巨峰のフレッシュな甘さとヘネシーの芳醇な香りが絶妙に絡み合い、飲む者を心地よい酔いへと誘う。タカシはいつものように手際よく、8粒ほどの巨峰を選び、ブレンダーにかけて潰し、滑らかなピューレを作る。その中にヘネシーを1.5ozと巨峰リキュールを0.5oz加え、シェイカーでリズミカルにシェイクする。細かく濾された液体がグラスに注がれると、完成だ。

「はい、どうぞ。特製の巨峰のサイドカーです。」タカシがグラスをカウンターにそっと置いた。

重雄はグラスを手に取り、淡い紫色に輝く液体をじっくりと眺めた後、ゆっくりと口元に運んだ。最初の一口はいつも新鮮だ。巨峰の甘さが口いっぱいに広がり、ヘネシーの深い味わいが続く。このバランスの良さが彼を何度もこの店に引き寄せる理由だった。

「ふぅ…やっぱりこれだな。」重雄は満足そうに一息ついた。

「川島さんがこれを飲むとき、いつもいい顔してますよ。何か特別な思い出でも?」タカシがカウンターの向こうから聞いてきた。

「まあ、特別ってわけじゃないが、妻と一緒に巨峰狩りに行ったことを思い出すんだ。あの頃は若かったなあ…」重雄は遠い目をして、しばし思い出に浸った。

彼の妻、京子とは50年以上も連れ添った。二人は一緒にたくさんの場所を訪れ、様々な思い出を作ったが、晩年の二人にとって特に楽しかったのが、秋に毎年出かけた巨峰狩りだった。京子が巨峰好きで、重雄もその笑顔を見るのが楽しみだった。二人で取った巨峰を家に持ち帰り、ワインやデザートにしたものだ。

「京子が亡くなってからは、なんだか寂しくてな。でも、このカクテルを飲むと、少しだけあの頃に戻れる気がするんだよ。」重雄は静かに言葉を続けた。

タカシはそれを聞いて、無言で頷いた。言葉がいらない瞬間があると彼は知っていた。重雄がこのバーに通い続ける理由を、タカシは長い付き合いの中で理解していた。

しばらくの間、二人は静かに過ごした。店内には心地よい音楽と、グラスを置くわずかな音だけが響いている。重雄はカクテルをゆっくりと味わいながら、少しずつ日常の疲れを癒していった。

「そういえば、川島さん。今度、新しい巨峰のデザートを試作するつもりなんですけど、よかったら感想を聞かせてもらえませんか?」タカシがそう持ちかけた。

「それは楽しみだな。君の作るものなら何でも美味しいに違いない。」と、重雄は笑顔を見せた。

いつもの夜、いつものカクテル。だが、そこには重雄にとって特別な意味が込められている。月に一度、このバーに来て、思い出の味を楽しむ時間が、彼の生活にささやかな彩りを与えていた。

そして、カクテルグラスの底が見えてきたころ、重雄はそっと立ち上がり、タカシに一言感謝を述べて店を後にした。

「また来るよ、タカシ。来月も頼むな。」

「もちろんです、川島さん。またお待ちしてます。」

夜風が心地よい前橋の街を歩きながら、重雄は少しだけ軽くなった心で、これからの季節の移り変わりを感じていた。






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