老人

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
193 / 316

箍が外れる

しおりを挟む
「箍が外れる」

マンションを解約し、公共料金の支払いもなくなった。生活費が減る分、貯金ができるはずだと期待していた。しかし、現実はそう甘くなかった。息子の翔太は、母親と暮らし始めてからというもの、いつもお金が足りなくなるのを感じていた。

「翔太、今月もちょっとお金貸してくれない?」母の頼みは日常的だった。年金で足りない分を補うためだと言うが、その額はどうにも大きすぎる。翔太は母の無心に応えるたび、心の中で何かが崩れていくような感覚を覚えた。

母との生活は、思ったよりも簡単ではなかった。母は年金暮らしだが、ちょっとした贅沢を好む。外食や趣味の旅行、孫へのプレゼントにいたるまで、支出は増える一方だった。「今まで苦労してきたんだから、少しぐらいは楽しみたい」という母の言葉に、翔太も理解を示そうとは思うが、それにしても際限がないように感じられた。

一方で翔太の収入は安定しているが、母の金銭感覚はどこか狂っているように思える。節約するつもりが、いつの間にか浪費に走り、借金の返済に追われる。翔太はその負担を一身に背負わされているようだった。

「またか……」翔太はため息をつきながら、母に渡す現金を手にしていた。彼は母の言いなりになっている自分を責めた。これが愛情なのか、親孝行なのか、それともただの搾取なのか。頭の中でぐるぐると考えが巡り、答えは見つからないまま、手元の財布からは次々とお金が消えていく。

「いい加減、どうにかしないといけないな。」翔太はつぶやいた。けれども、母の頼みを断ることはできない。いつも笑顔で「ありがとうね」と言われると、翔太はそれ以上何も言えなくなってしまうのだ。母の笑顔を見るたびに、心の中の箍が外れていく感覚に陥る。まるで自分の意志がバラバラに崩れていくように。

ある日、翔太は母とテレビを見ていた。ニュースでは年金不足や高齢者の貧困問題が取り上げられていた。翔太はふと、母に問いかけた。

「母さん、今の生活に満足してるのかい?」

母はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと答えた。「そうね、贅沢はできないけど、翔太と一緒にいられるから幸せよ。」

その言葉に翔太は少しだけ救われた気がした。しかし、その一方で母の無心は止まらない。翔太は心の中で何度も問い続けた。「俺は搾取されているのか?それとも、ただの親孝行なのか?」

その疑念が頭から離れず、翔太はますます自分を追い詰めていく。母と暮らすことで節約できるはずだった生活費は、いつの間にか母のための出費に消えていく。自由を求めて箍を外したはずなのに、今度は別の枠にはまってしまったような気がしてならなかった。

母の無心が続くたびに、翔太の心は少しずつ蝕まれていった。彼は家を出て独立することを考えたが、それを言い出す勇気もない。母との繋がりを断つことが怖かった。母に対する愛情と、それに縛られる自分自身の狭間で、翔太は揺れ動き続けた。

ある晩、翔太はベッドに横たわりながら、ふと母の寝顔を思い出した。子供の頃、夜遅くまで働き、疲れ果てて帰ってきた母の姿。その頑張りがあったからこそ、今の自分がある。そう思うと、翔太は母を責めることができなかった。搾取されているという感覚と、母を助けたいという気持ちが交錯し、彼は答えのない迷路の中にいた。

「母さんにとっての幸せは何だろう?」翔太はそう考えながら、いつの間にか眠りに落ちていった。

朝が来ても、状況は変わらない。母の頼みが続く限り、翔太の苦悩もまた続くだろう。けれども、彼は決して母を見捨てることはしない。心の箍が完全に外れるその時まで、翔太は母のために働き続けるのだ。

翔太の中での葛藤は、これからも続くだろう。けれども、彼は少しずつでも前に進んでいく。母の笑顔のために、そして自分自身のために。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...