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一瞬の輝き

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一瞬の輝き

秋の夕暮れが町を染めていた。冷たい風が吹き始め、木々の葉は鮮やかな紅に染まりつつある。こんな日は、少し寂しさを感じるものだ。それでも、夕日に染まる風景はどこか美しく、ふと足を止めて見入ってしまう。私はいつものように、家路をたどりながらその景色に目をやった。

この年になると、人生に大きな期待など抱くことはない。かつての夢は遠い過去のものとなり、日々の暮らしの中で少しずつ磨り減っていった。若い頃には、未来に無限の可能性があると信じていた。けれど、年を重ねるごとに、希望は薄れ、現実がその重みを増してきた。

日々は同じことの繰り返しだ。朝が来て、仕事をして、帰宅して、また夜が訪れる。そんな生活を、ただ淡々とこなしていくだけ。特別なことは何もない。誰もが同じように生きていると思い込むことで、やり過ごしているに過ぎない。

そんな日々の中で、何も変わらない生活に何の意味があるのだろうと、自分に問いかけることもある。答えはいつも見つからない。それでも、一つだけわかることがある。瞬間瞬間を生きること、それが今の自分には唯一できることなのだと。

ある日、仕事帰りに立ち寄った小さな公園でのことだった。日が沈みかけた空は紫色に染まり、遠くの山々がシルエットとなって浮かび上がっていた。ベンチに腰掛け、ただぼんやりとその風景を眺めていた。何の意味もなく、ただそこに座っているだけだったが、不思議と心が落ち着いていくのを感じた。

公園には、子どもたちの声が響いていた。走り回る姿や、笑い声が風に乗って耳に届く。その無邪気さに、自分の幼い頃を思い出してしまう。何も考えずにただ遊びに夢中になっていたあの頃。人生にはまだ希望が溢れていた時代だ。

ふと、一人の子どもが私の近くに寄ってきた。彼は大きなシャボン玉を作り、それを眺めていた。シャボン玉は、夕日に照らされて虹色に輝いていた。彼の目には、その一瞬の美しさが映っていたのだろう。何の計算もなく、ただ純粋にその輝きを楽しんでいる姿に心が和んだ。

「きれいでしょ?」

突然声をかけられた。振り返ると、子どもの母親が微笑んで立っていた。彼女もまた、そのシャボン玉の輝きを見つめていた。私は何と答えていいかわからず、ただ頷いた。言葉はいらなかった。その瞬間、彼女と私は同じ美しさを共有していたのだから。

その瞬間、ふと考えた。もしかしたら、人生はこうした一瞬の輝きを積み重ねていくものなのかもしれないと。大きな希望や夢を持つことがすべてではない。時には、その一瞬一瞬の中にある小さな喜びを見つけることが、生きる意味なのかもしれない。人生のすべてが素晴らしいわけではないが、時に訪れるその一瞬が、人生を彩るのだ。

シャボン玉は風に乗ってゆっくりと舞い上がり、やがて消えていった。母親と子どもも手を取り合って去っていく。私はその背中を見送りながら、自分もまたその一瞬の美しさに心を打たれていたことに気づいた。特別なことではない。ただのシャボン玉。しかし、その一瞬の輝きは確かに私の心を揺さぶった。

家に帰る道すがら、これからも瞬間瞬間を大切に生きていこうと心に決めた。大きな希望はないかもしれないが、それでも人生には時折、こんな美しい瞬間が訪れる。それだけで十分ではないか。希望がなくても、一瞬の輝きを感じることができるなら、まだ生きていく価値はあるのだろう。

秋風が頬を撫で、木々の葉がざわめく音が心地よく耳に響く。家路を急ぐ足取りは自然と軽くなり、何かを期待するわけでもなく、ただその瞬間を味わっていた。人生は、何も大きなことを望む必要はないのだ。ただ、一瞬一瞬を生きること。それが、私にとっての生き方だと感じた。

その夜、ふと窓の外を見た。夜空には星が輝いていた。大きな星も、小さな星も、それぞれが瞬きながら空を彩っていた。その光は、遠い昔からずっと続いているものだろう。それぞれが一瞬の輝きを放ちながら、夜空を照らしている。

私もまた、そんな一つの星のように、一瞬の輝きを見つけながら生きていけばいい。明日がどうなるかはわからない。それでも、時折訪れる美しい瞬間を楽しむために、これからも瞬間瞬間を大切にしていこうと心に誓った。その決意は、小さくも確かな希望の光となり、私の胸に灯り続けていた。









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