老人

フェイジョアと独居老人の生活

フェイジョアと独居老人の新たな日々

小さな庭に立つ数本のフェイジョアの木々。その青々とした葉が風に揺れ、独特の甘い香りが漂う中、70歳の岡田隆は毎日丹念に世話をしている。彼の手で育てられたフェイジョアの果実は、月々1万円の副収入をもたらし、彼の生活に少しの潤いを与えている。

隆がフェイジョアを育て始めたのは、退職後しばらくしてからのことだった。妻とは早くに離婚し、子供たちも独立して遠くに住んでいる。孤独な日々が続く中で、庭いじりに救いを求めた。

「何か新しいことを始めないとな。」

そう思い立ち、隆はインターネットで調べたフェイジョアの苗木を取り寄せてみた。最初は数本の苗木だったが、次第にその数は増えていった。毎日の水やり、剪定、施肥。隆の一日はフェイジョアの世話で始まり、フェイジョアの世話で終わるようになった。

フェイジョアは、南米原産の果樹で、その果実はトロピカルな風味と栄養価の高さで知られている。生で食べるのはもちろん、ジャムやジュース、スムージーにしても美味しい。その特性を活かし、隆は自家製のフェイジョアジャムを作り始めた。これが近所で評判となり、少しずつだが売り上げが上がり始めた。

最初は知人へのお裾分け程度だったフェイジョアジャムも、やがてインターネット販売に踏み切ることとなった。ネットショップを立ち上げ、SNSで宣伝。隆は新しいことに挑戦することで、生き生きとした毎日を取り戻していった。

毎月1万円の収入があることで、隆の生活には少しのゆとりが生まれた。新しい趣味や興味を持つことができ、近くの図書館で園芸やネットビジネスに関する本を借りて読むのが楽しみになった。また、時折行われる地域のマーケットにも出店し、フェイジョアジャムを販売することも増えた。

ある日、市場で出会った若い女性、加藤さんが隆のブースを訪れた。

「岡田さん、このジャム、本当に美味しいですね。どうしてこんなに素晴らしい味になるんですか？」

加藤さんの問いに、隆はにこりと笑って答えた。

「フェイジョアには愛情を込めて接することが大事なんだよ。毎日話しかけて、水やりも適度に、日当たりのいい場所に置いてやること。それだけで、この木たちは応えてくれるんだ。」

隆にとって、フェイジョアの世話はただの趣味や収入源以上のものだった。それは、孤独な時間を埋め、新しい目標を持つことで生きる喜びを見出す大切な存在だったのだ。

時折、庭の隅に設けたベンチに腰掛け、フェイジョアの木々を眺めながら、隆は過ぎ去った日々を思い返す。

「お前たちのおかげで、毎日が充実してるよ。」

そうつぶやきながら、彼は静かに微笑んだ。

フェイジョアの果実が風に揺れ、まるで隆の言葉に応えるかのように、優しくささやくようだった。彼の孤独な心に、フェイジョアの木々は静かに寄り添ってくれていた。そして、その果実は彼に小さな喜びと収入をもたらし、日々の生活に彩りを添えてくれていた。