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春秋花壇

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最後の約束

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「最後の約束」

病院の白い天井が、静かに見つめ返してくる。祖母のゆっくりとした呼吸に合わせて、時が刻まれているかのようだった。私は祖母の手を握りしめ、その温もりを感じながら過去の思い出が脳裏に浮かんでいた。

子供の頃、祖母の家で過ごした夏の日々を思い出す。庭で遊び回り、手作りのクッキーを一緒に作り、夜には絵本を読んでもらった。その全てが、今ここにいる私の原点だった。

「おばあちゃん、覚えてる?」私はそっと尋ねた。

祖母の目がかすかに動き、かすれた声で「覚えてるよ、夏美」と答えた。その瞬間、涙がこぼれ落ちそうになったが、私は必死にそれを堪えた。

「今日は特別な日だね、おばあちゃん。」私は続けた。「今日は、あのクッキーを作った日のことを思い出してるんだ。」

祖母は微笑みを浮かべ、目を閉じた。「あのクッキー、特別だったね。」

祖母の病状は悪化の一途をたどっていた。医師からは「余命はあとわずかです」と告げられていた。私は祖母と過ごす時間を一瞬たりとも無駄にしたくなかった。毎日、仕事の後に病院に通い、祖母と話をしたり、本を読んだりした。看取り介護という言葉は、私にとって祖母との最後の時間を大切に過ごすことだった。

ある日、病室に入ると、祖母が小さな箱を手に持っているのが見えた。「夏美、これを持ってきたのよ」と、祖母は箱を私に差し出した。

箱を開けると、中には古い写真や手紙、そして祖母の宝物が詰まっていた。その一つ一つが、祖母の人生の断片であり、私たちの思い出のかけらだった。

「これ、全部私の宝物よ。でも、今はあなたに託したいの」と祖母は言った。

私は言葉を失い、ただ頷くだけだった。写真を一枚一枚見ながら、祖母との思い出が鮮明によみがえった。手紙には、祖母が私に伝えたかった言葉が綴られていた。「愛してるよ、夏美。あなたがいてくれて、本当に幸せだった。」

その夜、私は祖母のそばに寄り添いながら、箱の中の宝物を一緒に見た。祖母は疲れていたが、微笑みながら私に話しかけてくれた。「夏美、ありがとう。あなたがいてくれて、私は本当に幸せだったわ。」

「おばあちゃん、私もだよ。おばあちゃんがいてくれて、本当に良かった。」

次の日の朝、祖母の容態が急変した。医師たちが駆けつけたが、私はただ祖母の手を握りしめていた。祖母の呼吸が徐々に弱くなり、やがて静かに止まった。

涙が溢れ出し、私は祖母の手を強く握りしめた。「おばあちゃん、ありがとう。ずっと忘れないよ。」

葬儀の後、私は祖母の家を訪れた。庭にはまだ、あの夏の日の思い出が息づいていた。祖母が大切にしていた花々が風に揺れていた。私は祖母の遺品を整理しながら、箱の中の手紙を再び取り出した。

「夏美へ。あなたが私のそばにいてくれて、本当に幸せだった。あなたの未来が輝かしいものでありますように。愛を込めて、おばあちゃんより。」

その手紙を読みながら、私は祖母の愛を再び感じた。祖母が最後に託してくれた宝物は、ただの物ではなく、愛と記憶の象徴だった。

その後、私は祖母の意志を受け継ぎ、看護師になることを決意した。祖母が私に教えてくれた愛と優しさを、他の人々にも伝えていきたいと思ったからだ。看取り介護という仕事を通じて、私は多くの人々の最後の瞬間を見守り、その一人一人に寄り添い続けた。

祖母が私に残してくれた最後の約束。それは、愛と記憶を未来に繋ぐこと。その約束を胸に、私は今日も誰かのそばに寄り添っている。

この小説は、看取り介護の中での愛と記憶の大切さを描いています。家族の絆や大切な思い出が、どれほどの力を持っているのかを示す物語です。
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