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春秋花壇

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奇跡の朝焼けとどこでもドア

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奇跡の朝焼けとどこでもドア

田中颯真(たなかそうま)、70歳の独居老人は、静かな田舎町で一人暮らしをしていた。日の出が一番早い時期だという今日、彼は早朝の薄明かりに目を覚ました。長年使い続けた古い掛け時計が、ちょうど5時を指していた。

颯真はゆっくりとベッドから起き上がり、カーテンを開けて朝の空気を吸い込んだ。窓の外はまだ薄暗かったが、東の空は少しずつ明るくなり始めていた。その光景を見ていると、ふと昔の記憶が蘇ってきた。若い頃、妻の恵美子と一緒に見た海辺の朝焼けの美しさを思い出したのだ。

「もう一度、あの美しい朝焼けを見たいな…」

そう呟いた瞬間、颯真の部屋の片隅に見慣れないドアが現れた。真っ白でシンプルなデザインのドアには、「どこでもドア」と書かれていた。夢でも見ているのかと疑いながらも、颯真はそのドアに手を伸ばした。

「本当にどこでも行けるのだろうか…」

半信半疑のままドアノブを回すと、ドアの向こうには広がる海岸の風景が見えた。青く広がる海、砂浜、そして少しずつ明るくなり始めた空。颯真の心は一気に弾んだ。

「本当に、あの海だ!」

颯真は興奮しながらどこでもドアを通り抜けた。足元には柔らかい砂が広がり、耳には波の音が心地よく響いていた。朝の冷たい空気が顔に当たり、彼は深呼吸をした。

「なんて素晴らしいんだろう…」

彼は砂浜を歩きながら、目の前に広がる美しい光景に見惚れていた。空が少しずつ赤みを帯び、海面には朝日の光がキラキラと反射していた。そんな景色を見ながら、颯真は自然と涙がこぼれてきた。

「恵美子、君も見ているかい?」

心の中で亡き妻に語りかけながら、颯真は砂浜に腰を下ろした。波打ち際に足を浸し、朝日の光を全身で感じた。その瞬間、心の中に暖かい感情が溢れてきた。

「ここで一緒に朝焼けを見ていた頃を思い出すよ…」

若い頃、恵美子と共に何度も訪れたこの海。手を繋ぎながら見た美しい朝焼け、二人で笑い合いながら歩いた砂浜の思い出が蘇ってきた。彼の心は、その懐かしい思い出で満たされていった。

ふと、颯真は自分の隣に誰かの気配を感じた。驚いて振り向くと、そこには若かりし頃の恵美子が座っていた。彼女もまた、朝焼けを見つめながら微笑んでいた。

「颯真さん、朝焼けがとても綺麗ね。」

恵美子の柔らかな声が、颯真の心に深く響いた。彼は夢中で彼女の手を握りしめ、その温もりを感じた。

「本当に綺麗だよ、恵美子。君と一緒に見ると、なおさらだ。」

二人はしばらくの間、黙って朝焼けを見つめていた。空がますます赤みを帯び、太陽がゆっくりと顔を出す瞬間、颯真の心は喜びと感動でいっぱいだった。彼はこの瞬間を、永遠に忘れることはないだろうと思った。

時間が経つにつれて、恵美子の姿は少しずつ薄れていった。彼女は微笑みながら颯真に別れを告げた。

「颯真さん、ありがとう。また会える日を楽しみにしているわ。」

颯真は涙をこらえながら頷いた。「また会おう、恵美子。」

恵美子が完全に消え去ると、颯真は立ち上がり、再びどこでもドアの方へと歩き始めた。彼はもう一度、あの部屋に戻らなければならないと感じていた。

ドアを通り抜けると、再び自分の部屋に戻っていた。窓の外はすっかり明るくなっており、新しい一日が始まっていた。颯真は深呼吸をし、心の中に残る温かい感情を感じながら、静かに微笑んだ。

「ありがとう、どこでもドア。そして、ありがとう、恵美子。」

その日以来、颯真の心にはいつも朝焼けの美しい記憶が刻まれていた。彼はどんなに孤独でも、その記憶を胸に抱きながら日々を過ごしていくことができた。

颯真は毎朝、日の出と共に目を覚まし、窓の外に広がる空を見つめるようになった。彼にとって、その瞬間が一日の始まりであり、恵美子との再会を思い出す特別な時間だった。

彼の生活は以前と変わらず静かだったが、心にはいつも希望と温かさがあった。それは、どこでもドアと奇跡のような体験が彼にもたらしてくれたものだった。

颯真はこれからも、毎日を大切に生きていくのだろう。心の中にある美しい記憶と共に、彼は静かに、しかし確かな足取りで前に進んでいく。そして、いつかまた、恵美子と再会できる日を夢見ながら。








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