いとなみ

春秋花壇

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First Love

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First Love

彼女が初めて恋をしたのは、秋が深まる少し前のことだった。街はまだ残暑を感じさせる陽気が続いていたが、空気には秋の気配が漂い始めていた。古びた駅舎に降り立ち、薄暗いプラットホームに足を踏み入れると、あの頃の記憶が一瞬で蘇ってきた。

名前は彼の名前は「祐輔」。彼と出会ったのは、中学校の三年生の秋だった。運命的な出会いではなく、ただの隣の席同士の出会いだったが、彼との時間は、まるで別世界に踏み込んだような不思議な感覚を与えてくれた。

「今日は何か面白い話がある?」

授業の合間、彼がふと話しかけてきたときのことを覚えている。最初は少し照れくさくて、どう返していいかわからなかった。だって、彼はクラスでも目立つ存在だった。背が高く、スポーツも得意で、いつも笑顔を絶やさない。そんな彼に声をかけられたことが、私には何よりの驚きだった。

でも、話してみると、意外にも彼はとても素朴で、周りの期待に応えようとするタイプの男の子ではなかった。むしろ、私にとっては未知の世界だった彼の真面目な一面に触れるたび、次第に心が引かれていった。

その頃、私は自分の気持ちをうまく整理できていなかった。恋というものがどういうものか、よくわかっていなかったし、ただ彼と一緒にいると楽しくて、安心する。その気持ちが恋だと気づいたのは、遅かったかもしれない。気づいた時には、すでに彼と過ごす時間が何よりも大切になっていた。

「祐輔、今度一緒に映画でも見に行かない?」

ある日、勇気を振り絞って言ってみた。彼は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔で答えてくれた。

「いいね、じゃあ、土曜日に行こうか?」

その一言で、私の心は完全に彼に引き寄せられた。次の土曜日、私たちは映画館で初めて二人きりで過ごす時間を持った。何気ない会話の中で、心がどんどん近づいていくのを感じた。そして、映画が終わった後、夕暮れの街を一緒に歩いた。

「今日は楽しかった。ありがとう。」

彼が言った言葉に、私は一瞬ドキッとした。心の中で「ありがとう」を言うのが精一杯だったけれど、彼のその言葉に、もう一つ何かを伝えたくてたまらなかった。

その後、何度も彼と過ごす時間が増え、やがて私たちは付き合うことになった。告白の言葉は、お互いに照れくさいものだったけれど、あの時の微妙な空気の中で交わされた言葉が、今でも鮮明に覚えている。

「好きだよ。」

彼のその一言で、私は初めて自分の気持ちが正しいことを確信した。その瞬間から、彼と一緒にいることで感じる幸せは、私の世界を豊かにしてくれた。

しかし、恋愛が深まるにつれ、私たちは次第にお互いに求めるものが異なっていった。最初は一緒にいることがすべてだったが、だんだんとそれだけでは満たされなくなった。彼はどんどん忙しくなり、私との時間が取れなくなった。そして、私は次第に不安を感じ始めた。

「ねえ、どうして最近忙しいの?」

その問いかけに、彼は少しだけ戸惑ったように見えた。あの笑顔が少し曇り、彼の目が少し遠くなるのを感じた。

「ごめん、忙しくて…。でも、俺は変わらず君を大切に思っているよ。」

その言葉を聞いても、私の心は晴れなかった。どこかで、彼との距離を感じていた。私たちの関係は、ゆっくりと変わり始めていた。それでも、まだ私は彼を手放すことができなかった。初めての恋だったから、その気持ちを簡単に諦めることなんてできなかった。

時間が経ち、私たちは別々の道を歩むことになった。それは自然な流れだったのかもしれない。私たちが出会った時と同じように、別れることもまた運命の一部だと、今では思う。

しかし、あの日、初めて彼に告白された時のことは、今でも私の中で大切な記憶として残っている。彼と過ごしたあの時間が、私の心に温かい思い出として刻まれている限り、私の中で「初恋」はずっと色褪せることなく、輝き続けるだろう。

あの頃、私は知らなかったけれど、初めて恋をしたことが、これからの人生においてどれほど大きな意味を持つのか、少しずつ理解していくことになる。そして、あの初恋が私を形作り、成長させてくれたことを、心から感謝している。






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