いとなみ

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
1,119 / 1,193

界隈

しおりを挟む
「界隈」

大学生の頃から、私はいわゆる「オタク界隈」の仲間たちとSNSを通じて交流していた。推しのアニメやゲーム、声優の話題で盛り上がり、時には一緒にイベントに参加したり、聖地巡礼をしたりもした。そんな日々の中で出会ったのが、彼——アイコンにはゲームキャラのイラストを使い、「燈(あかり)」と名乗る少し寡黙なユーザーだった。

彼とはとあるチャットルームで出会った。最初は「この人、ちょっと近寄りがたいかも」と思ったが、やり取りを重ねるうちに、その奥にある優しさや面白さが伝わってきた。燈は自分の意見を率直に言いながらも、他人を傷つけることはない。コメント一つ一つに温かさを感じた。

ある日、燈が「リアルで会ってみない?」と誘ってきた時、少しだけ心臓が跳ねた。ネットの仲間とは言え、顔も知らない相手だ。けれど、彼となら大丈夫だという妙な安心感もあった。そして、何度かやり取りをしているうちに、私たちは一緒に都内のカフェで会う約束をした。

指定されたカフェに行くと、そこに彼がいた。思ったよりも背が高く、少し寡黙そうな雰囲気がリアルでもそのまま表れていた。自己紹介をし合い、ぎこちないながらも会話を進めると、次第にSNSで話していた時の感覚が戻ってきた。

「やっぱり、君って想像通りだね」彼が笑顔でそう言ったとき、少し照れくさくて頬が熱くなった。彼も、私のことを少しでも気にかけてくれているのかもしれない——そんな小さな期待が膨らんだ。

その後も何度か彼と会う機会があり、イベントや飲み会にも一緒に行くようになった。気づけば、私は彼のことが気になっていた。けれど、彼の本心はわからない。表情があまり変わらないし、冗談を言う時も真面目な顔でさらりと流すから、どこまでが本気なのか読み取れないのだ。

ある日、私が彼に連絡をしようとスマホを手に取ったとき、突然「燈さんって、彼女いるの?」という友達からのメッセージが届いた。驚いて返事を打とうとしたが、指が止まった。そういえば、私もそれを一度も聞いたことがなかった。

悩んだ末、次に会う機会に思い切って聞いてみることにした。もし彼に恋人がいるのなら、この気持ちは心の中にそっとしまっておけばいい。ただ、それを確認しないと先に進めない気がしていた。

「今日、話があるんだ」と言って、いつものカフェで向かい合った。

「実は…燈さんって、恋人とかいるの?」

その言葉を口にした瞬間、彼の表情が少し変わった気がした。そして、短い沈黙の後、彼がゆっくりと口を開いた。

「いないよ。実は、そういう話題を避けてたんだ。正直、SNSで知り合った相手にそんな話をするのは抵抗があって…」

それを聞いた瞬間、ホッとした気持ちと同時に、少し切ない気持ちも湧き上がった。彼の壁を越えていないという実感があったのだ。だけど、私は勇気を振り絞ってもう一歩踏み出すことにした。

「燈さんが私のことをどう思っているか、ずっと気になってた。もしかしたら、友達以上にはなれないのかもしれないけど…私は燈さんのこと、好きなんだ」

息を詰めて彼の反応を待つ。すると、彼は真剣な眼差しで私を見つめ、静かに微笑んだ。

「俺も、君のことが気になってた。だけど、怖かったんだ。もし気持ちが伝わらなかったら、この関係も壊れてしまうかもしれないって」

彼の言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと温かくなった。二人とも、同じ不安を抱えていたのだ。

「ありがとう、言ってくれて。本当はずっと、君のことを特別だと思っていた。だけど、今はその気持ちをちゃんと伝えたい」

彼が手を差し出すと、私はそれを握り返した。その瞬間、まるで長い間閉じ込められていた感情が一気に解放されたようだった。

SNSの画面越しに知り合った関係から、実際の世界で手を取り合える関係へと進化した瞬間だった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

日本史

春秋花壇
現代文学
日本史を学ぶメリット 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。以下、そのメリットをいくつか紹介します。 1. 現代社会への理解を深める 日本史は、現在の日本の政治、経済、文化、社会の基盤となった出来事や人物を学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、現代社会がどのように形成されてきたのかを理解することができます。 2. 思考力・判断力を養う 日本史は、過去の出来事について様々な資料に基づいて考察する学問です。日本史を学ぶことで、資料を読み解く力、多様な視点から物事を考える力、論理的に思考する力、自分の考えをまとめる力などを養うことができます。 3. 人間性を深める 日本史は、過去の偉人たちの功績や失敗、人々の暮らし、文化などを学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、人間としての生き方や価値観について考え、人間性を深めることができます。 4. 国際社会への理解を深める 日本史は、日本と他の国との関係についても学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、国際社会における日本の役割や責任について理解することができます。 5. 教養を身につける 日本史は、日本の伝統文化や歴史的な建造物などに関する知識も学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、教養を身につけることができます。 日本史を学ぶことは、単に過去を知るだけでなく、未来を生き抜くための力となります。 日本史の学び方 日本史を学ぶ方法は、教科書を読んだり、歴史小説を読んだり、歴史映画を見たり、博物館や史跡を訪れたりなど、様々です。自分に合った方法で、楽しみながら日本史を学んでいきましょう。 まとめ 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。日本史を学んで、自分の視野を広げ、未来を生き抜くための力をつけましょう。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

妻と愛人と家族

春秋花壇
現代文学
4 愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず, 5 下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 6 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 7 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。 8 愛は決して絶えません。 コリント第一13章4~8節

処理中です...