いとなみ

I Wish For You

「I Wish For You」

カフェの窓際に座り、私は目の前の彼をじっと見つめた。小さなテーブルに並ぶコーヒーカップとスコーン、どれも普段通りの光景だった。けれど、心の中には普段とは違う感情が静かに渦巻いていた。

彼の名前は直人。私よりも少し年上で、大学時代のサークルで知り合って以来、ずっと友人として付き合ってきた。勉強や仕事の相談もできて、気軽に笑い合える関係だ。けれど、私にとって彼はただの友人以上の存在だった。

私が直人を好きだと気づいたのは、彼が一度悩んでいる時のことだった。仕事で上司に厳しいことを言われ、疲れた表情で愚痴をこぼす姿を見て、思わずそばに寄り添いたいと思った。その感情は日に日に強くなり、気づけば彼と会うたびに心が少しずつ温かくなっていった。

しかし、彼には付き合っている人がいた。今の彼女とはもう三年になると聞いた。だから、私はこの気持ちを胸にしまい、彼に何も伝えないままでいることに決めた。

「ねぇ、聞いてる？」直人が首をかしげて私を見つめていた。慌てて笑顔を作り、「うん、ごめん、考え事してた」と答えた。

「何考えてたの？顔が真剣だったよ」と、彼が冗談混じりに言う。

「な、なんでもないよ」と、私は答えるが、心臓はドキドキと鼓動を打っている。

「そうか、まぁ、困ったことがあればいつでも言ってよ」と直人は笑顔を見せてくれた。

その優しい表情に、私は言葉を飲み込んだ。本当は今ここで、思い切って「好きだ」と伝えたかった。けれど、この関係が壊れることが怖かった。彼との距離が遠くなることを想像するだけで、胸が締め付けられる。

だから、私はただ「ありがとう」とだけ言い、その場を収めた。

帰り道、私は冬の夜空を見上げた。星がキラキラと輝いている。その美しい光を見ていると、ふと昔のことを思い出した。子供の頃、よく流れ星に願い事をしたものだった。

「直人と一緒にいられますように」

口に出してみると、すぐに顔が熱くなった。そんな淡い願いを、星空に向かって呟く自分が少し恥ずかしかった。しかし、その一瞬の願いに、私は少しだけ心が軽くなった気がした。

それから数日が経ったある日、彼から突然連絡が来た。「今、少し時間ある？」

不意に呼び出された私は、不安と期待が入り混じった気持ちで指定されたカフェに向かった。店内に入ると、すでに彼が席について待っていた。普段よりも少し真剣な表情だった。

「突然呼び出してごめんね」と、彼は申し訳なさそうに微笑む。

「ううん、大丈夫だよ」と私は返すが、心臓が高鳴っていた。

「実はね、彼女と別れたんだ」と彼は静かに話し始めた。

予想外の言葉に、私は言葉を失った。ただ彼を見つめるしかできない。彼が少し微笑んで「やっぱりびっくりするよね」と言う。

「ごめん、そんな急に話して」と彼は少し照れくさそうに頭を掻いた。

「いや…うん、大丈夫…」と答えながらも、私は混乱していた。

「それでね…あの…」と彼が急に視線を逸らし、少し赤くなっている。

「実は、気づいたんだ。君のことを、ただの友達以上に思っているって」

その言葉が耳に入ると、私は息を呑んだ。まるで夢を見ているようで、現実だとは信じられなかった。でも、彼の真剣な目を見つめているうちに、これが本当だと感じた。

「私も…ずっとそう思ってた」と、勇気を振り絞って答えた。

その瞬間、私たちの距離は一気に縮まったように感じた。彼は優しく微笑み、そっと私の手を取った。その手の温かさが、私の心に安らぎを与えてくれた。

「ありがとう、待っててくれて」と彼が囁いた。

あの夜空に向かって願った想いが、こうして叶った。星は見えないけれど、心の中には輝く光が満ちている気がした。