いとなみ

白い恋人たちの夜

「白い恋人たちの夜」

「白い恋人たち」が流れる店内で、私はふと目を閉じる。切なく澄んだメロディーが、心の奥の隙間に静かに染み込んでくる。どれだけ避けようとしても、冬の冷たさのように、孤独が肩に重くのしかかってくる夜。

彼と出会ったのは、ほんの数時間前のことだった。名を聞いて、すぐに忘れてしまうような名前。会話も笑顔も、すべてが表面的で、心に響くものは何もない。それでも私は、なぜか彼に連れられてきた。暗い部屋の中、互いの体温だけが頼りのぬくもりに思えたからだろうか。

「白い恋人たち」を聞きながら、彼の手が私の肩に触れる。その手のひらの温かさに、瞬間、心が少しだけ緩む。こんなにも人肌が恋しい夜には、誰でもいいからそばにいてほしいという気持ちが勝ってしまう。そして、間違った選択だとわかっていても、どうしようもなくその温もりにすがりつきたくなる。

「大丈夫？」と彼が聞く。私は小さくうなずくが、胸の奥では言いようのない虚しさが広がっていく。彼の言葉も、触れる手も、すべてが薄い膜一枚のように、私にとっては本物ではない。それでも、今だけはこのぬくもりにすがっていたい。誰かと触れ合うことで、どうしようもない寂しさを埋められる気がしたからだ。

彼に身をゆだねる中で、何度も「これでいいのか」と自問自答する。この一瞬の安らぎのために、何か大切なものを犠牲にしているのではないか。冷静に考えれば答えは明白だが、そんな理性はもうどこか遠くに置き去りにしてしまった。私には、ただこの一瞬だけが必要だった。

夜が深まるにつれて、部屋の中は静寂に包まれていく。彼は、どこか見知らぬ町へ帰っていくのだろう。私の横に残るものは、冷たい空気と、この一瞬だけの温もりの残り香だけだ。寂しさが再び戻ってくるのがわかる。何も変わらない夜が、ただ静かにそこにあった。

「白い恋人たち」の旋律が再び耳に届く。私は思わずため息をつき、窓の外を見る。降り積もる雪が街灯に照らされ、白く輝いている。誰にも染まらず、ただ静かに降り続けるその雪に、自分の心が映し出されているように思えた。

彼が出て行った後、部屋には再び私ひとりが残る。生きるための間違った選択、そうわかっていても、この一夜を過ごしたことで、私の心はほんの少しだけ救われた気がする。孤独に押しつぶされそうな夜が、少しだけ明るくなった気がして。

だが、私は知っている。この夜の代償は、私の心に深い傷を残すことを。


ヘブライ 13:4

4 結婚は全ての人に尊ばれるべきであり，夫婦の関係は汚れのないものであるべきです。神は性的に不道徳な人、姦淫をする人を断罪するからです。

ごめんなさい。み言葉が刃のように切り刻む。