いとなみ

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
1,110 / 1,137

闇の淵で揺れる愛

しおりを挟む
 闇の淵で揺れる愛

美月のことをもっと知るために、彼女の過去を知りたいと何度も思った。でも、美月は自分のことを多く語らない。彼女と付き合い始めた頃から、彼女の家庭環境や幼少期の話題には触れないようにしていた。けれど、最近の彼女の行動があまりに常軌を逸しているせいで、俺はその背景を知る必要があると感じていた。

ある日、思い切って美月に聞いてみることにした。授業の後、二人で静かなカフェに行き、彼女が好きだという甘いカフェモカを頼んで、少しだけ打ち明け話を促すつもりで尋ねてみた。

「美月、君のことをもっと知りたいんだ。君がどうしてそんなに俺を必要としてくれるのか、それが分からないんだ。」

美月はその言葉に一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに無表情に戻り、視線を下に向けた。そして、ため息のように言葉を漏らす。

「…私、実は昔、家族との関係がうまくいってなかったの。」

その言葉に、俺は胸がざわめくのを感じた。彼女が語り始めた話は、俺が思っていた以上に重いものだった。

「幼い頃、母親が私に厳しかったの。愛情を感じたことなんて、ほとんどなかった。どんなに良い成績を取っても、どれだけ頑張っても、母は認めてくれなかった。いつもどこか冷たい目で私を見ていて、失敗した時だけ叱られた。だから、私は『愛されるためには完璧でないといけない』ってずっと思い込んでいたの。」

美月は淡々と語るけれど、その声にはかすかな震えがあった。その時、彼女の苦しみが垣間見え、俺の胸は締め付けられる思いだった。

「でもね、真也と出会って初めて、『そのままでいい』って言ってもらえた気がしたの。あなたは私を批判しないし、何も期待しない。だから、怖くなったの。」

「怖い?俺が?」

「ううん。…あなたを失うことが怖いの。だから、いつもそばにいて欲しい。あなたに捨てられると思うと、いてもたってもいられなくなるの。自分がどうしようもなく弱くなっていくのがわかるの。」

彼女は、心の奥底にあるトラウマを打ち明けた。母親からの無条件の愛情を得られなかった経験が、彼女を執着と不安定な愛情表現へと追い込んでいたのだろう。

「俺は、そんなに簡単には君を捨てたりしないよ。」

俺は、できるだけ優しく、彼女の手を握りしめた。しかし、それが逆に彼女の執着心をさらに煽ることになるとは思ってもみなかった。

それから、彼女の行動はますますエスカレートしていった。俺が携帯を見れば、必ず美月からのメッセージが数分おきに届いている。授業で一緒にいられないときも、彼女は俺がどこにいるのか、誰といるのかを逐一知りたがった。そして、俺が他の女性と話すと、彼女は焦ったように俺にくっついてきて、まるで俺を誰かに取られることを恐れているようだった。

美月の行動が常軌を逸していることは分かっていたが、彼女がこうなってしまった原因を知っていると、俺はどうしても冷たく突き放すことができなかった。彼女は、愛されることを切に望んでいるだけなのだ。その望みがあまりに深く、歪んでしまっただけで。

しかしある日、俺がふと気付いたのは、美月の「愛している」という言葉が、いつしか「俺のそばにいろ」という命令に聞こえるようになっていたことだった。彼女にとって、愛情とは「独占」と「支配」でしかなかった。俺はそれに気づいた時、初めて彼女の愛情が本当に怖いものに思えた。

ある夜、ついに限界を感じて、彼女に別れを告げることを決意した。彼女のためにも、自分のためにも、ここで関係を断つしかないと思ったからだ。

「美月、俺たちは…これ以上、続けられない。」

その言葉を聞いた美月の目は、恐怖と絶望に満ちていた。彼女は必死に俺の手を握りしめ、泣きながら言った。

「お願い、捨てないで…真也がいなくなったら、私には何もないの…」

彼女の叫びに心が揺れたが、俺も自分の心が壊れてしまうのを感じていた。美月が愛情に飢えていたのは分かっている。彼女が過去の傷から抜け出せないのも理解している。だけど、それを全て抱え込むことは俺にはできなかった。

最後に、俺は彼女に優しく言った。

「美月、君はきっと、誰かに頼らなくても自分を愛せるようになれるよ。今はまだ難しいかもしれないけど、自分を大切にすることを忘れないで。」

その言葉が彼女の心にどう響いたかは分からない。でも、俺が去っていく時、彼女は静かに泣き崩れていた。その後、俺の携帯には美月からのメッセージが届かなくなった。

美月の心の中には、まだ癒されない傷があるだろう。それを抱えながらも、彼女がいつか本当に愛され、そして愛することの意味を見つけられる日が来ることを、心から祈った。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...