いとなみ

闇の中で咲く花

闇の中で咲く花

俺の名前は真也（しんや）。平凡な大学生で、毎日を無難に過ごしているつもりだった。けれど、俺の周りには、少し変わった女性がいた。彼女の名前は美月（みつき）。彼女とは大学の同じクラスで、最初は何の気もなく話す程度の関係だった。

美月は、初めて会ったときから少し変わっているなと感じた。冷たくて、無愛想で、周りの人ともあまり関わろうとしないタイプだった。でも、どこか彼女に引かれる部分があった。それは、無表情な顔に隠れた、彼女の繊細さや優しさが見え隠れしていたからだろうか。俺は、そんな美月に少しずつ惹かれていった。

ある日、美月が突然俺に声をかけてきた。彼女が話しかけるなんて珍しいことだったから、正直驚いた。

「真也、ちょっといい？」

その言葉に心臓が跳ねた。俺は緊張しながらも答える。

「う、うん、何かあったの？」

「別に、ただ…ちょっと聞きたかっただけ。」

その時、美月は少し照れくさそうに目をそらし、そして低い声で続けた。

「私、君が好き。」

その一言が、俺の心を激しく揺さぶった。美月が俺に好意を持っているということは、まったく予想していなかった。最初は驚いたけれど、次第にその言葉に嬉しさが込み上げてきた。俺も彼女に興味があったから。

それから、俺たちの関係は少しずつ深まっていった。しかし、次第に美月の態度が変わり始めた。最初は冷たく、控えめだった彼女が、急に俺に対して過剰に依存し、執着するようになった。彼女の行動が少しおかしくなり始めたのだ。

例えば、授業の後に俺が友達と話していると、美月が突然現れて、俺の腕を引っ張ってその場から連れ去ろうとすることが増えた。「私を一人にしないで」と、涙を浮かべて頼むこともあった。その度に、俺は困惑し、どうしていいかわからなくなる。

「なんでそんなに俺を独占したいんだ？」と尋ねると、彼女は冷たい目で答える。

「だって、あなたは私のものだから。」

その言葉が、俺の中で何かを引っかき回した。美月の気持ちが重すぎて、俺はどうしてもそれを受け入れられなかった。しかし、彼女の瞳には、確かに愛情が宿っていた。だけど、それがいつしか歪んでいくのを感じていた。

次第に、美月は俺の行動を監視するようになった。メールやSNSのメッセージはもちろん、俺がどこで誰と話しているのか、何をしているのかを逐一知りたがるようになった。最初はその執着心に、俺は少し面倒に思うことがあったが、次第にそれが恐ろしいものに変わっていった。

ある日、俺が友人と一緒に帰ろうとしていたとき、美月が突然現れた。顔色が悪く、目に涙を浮かべている。俺が驚いて近づくと、彼女は震える声で言った。

「私、もう耐えられない…。あなたが他の人と話すのを見るたびに、心が壊れそう。」

その時、俺は思わず一歩後退した。美月の目は、もう普通の愛情を示していなかった。そこには、もう愛すら感じられなかった。代わりに、深い恐怖と依存、そして狂気が混じり合っているように思えた。

「お前、どうしたんだよ…」と俺が呆然とつぶやくと、美月はふっと笑い、目を細めた。

「私があなたを手に入れるためなら、何でもするから。」

その言葉が、俺の心に冷たい氷のような感覚を与えた。美月の執着がどんどん強くなり、俺を追い詰めていく。それが怖くなった。彼女の愛情は、もう俺を支配しようとする暴力に変わりつつあった。

だが、俺が彼女から逃げることはできなかった。美月は俺の家の前に待ち伏せしていることもあったし、何度も電話やメッセージが止むことはなかった。俺が断ろうとするたびに、彼女はますます冷徹な表情を見せ、最後には手に負えない存在になっていった。

それでも、俺は彼女を傷つけたくなかった。彼女がどれほど不安を抱えているのかも理解していた。だが、俺の心は限界だった。美月の愛情が、俺にとってはもはや恐怖でしかなくなったのだ。

「俺が悪いのか？」と何度も自問した。でも、答えは出なかった。ただひたすらに、彼女の愛に振り回されていく自分を感じるばかりだった。

それでも、彼女に対する気持ちが少しでも残っている限り、俺は彼女から逃げられないのかもしれない。