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春秋花壇

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山茶花の約束

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「山茶花の約束」

11月の初め、冷たい風が吹き始め、街路の垣根には山茶花が咲き始めた。花が開き、紅色の花びらが風に揺れる様子は、まるで冬の訪れを告げる合図のようだ。通りかかる人々も足を止め、ひとときの美しさに見惚れていた。

その垣根の前で、由美は懐かしい気持ちに浸っていた。山茶花の香りが彼女の記憶を呼び起こすようで、彼女は思わず目を閉じた。ここは彼女が学生時代に毎日通った道で、当時もこの垣根には山茶花が咲いていた。その頃、彼女には好きな人がいた。背が高くて優しい目をした同級生、慎吾だった。

慎吾はいつも控えめで目立たない存在だったが、由美にとっては特別な存在だった。彼がふと見せる微笑みや、教室の片隅で本を読んでいる姿が、なぜか心に深く残った。彼女の気持ちはひそかに育っていき、彼と話すことすら緊張してしまうほどだった。

高校の卒業が近づいたある冬の日、二人はこの垣根の前で偶然出会った。山茶花が風に揺れ、花びらが舞い散る光景が二人を包み込んでいた。由美は思い切って声をかけた。

「慎吾くん、卒業しても…また会えるかな?」

慎吾は驚いたように少し黙り込んだが、やがて穏やかな笑顔を見せた。「もちろん。由美がまたこの道を通るときに、きっと俺もここにいるよ。」

その言葉に、由美は心が温かくなったような気がした。それ以来、彼女は毎年山茶花が咲く季節になるとこの道を通り、彼と再会できる日を心待ちにしていた。しかし、卒業後、慎吾は遠くの大学に進学し、その後、さらに遠くで仕事を見つけたという噂を耳にした。連絡先も知らないまま、次第に彼との再会は夢物語のように感じられるようになっていった。

それでも、山茶花が咲くと、由美は毎年この道を通り続けた。彼との約束が心の中に生き続けている気がして、彼女はその小さな希望を手放せなかったのだ。

そして今年も、山茶花が咲き始めたこの日、由美はまた同じ垣根の前で立ち止まっていた。季節が巡るたびに少しずつ色あせた記憶と、それでも変わらない彼への思いが心に重なり合う。年を重ねるにつれて再会の望みは薄れていったが、それでも彼女はこの場所に戻ってきていた。

風が吹き、花びらが舞い落ちるその時、後ろから誰かの声がした。「由美?」

驚いて振り返ると、そこに慎吾が立っていた。変わらない優しい目元が彼だとすぐにわかり、由美の心は高鳴った。慎吾は少し照れくさそうに微笑んでいた。

「久しぶりだね、由美。毎年この時期にここを通ると、君に会える気がしてた。」

由美は胸の奥から懐かしい感情が湧き上がってくるのを感じた。「私も、慎吾くんとまた会えるんじゃないかって、ずっと…」

慎吾は黙って頷き、由美の顔を見つめた。「由美、俺たち、ずっと会えなかったけど、心のどこかで君との約束を忘れたことはなかったよ。こうしてまた会えたのは、きっと何かの縁だよね。」

彼の言葉に由美は涙が浮かびそうになり、そっと顔を背けた。「私もずっと…山茶花が咲くたびに、慎吾くんのことを思い出してた。だけど、本当に会えるなんて…」

慎吾は一歩近づき、由美の手をそっと握った。「今度はもう、君を待たせたりしない。これからもずっと、一緒にいよう。」

由美は驚きつつも、心から嬉しさが溢れてきた。「ありがとう、慎吾くん…」

二人は再び舞い散る山茶花の花びらの中で立ち尽くし、お互いの存在を確かめ合った。彼の手の温もりが、彼女の心の中に空いていた長い年月の空白を優しく埋めていくようだった。

寒い風が吹き、山茶花の花びらが二人の間で舞い続ける。その風の中で、二人は新しい約束を交わした。









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