いとなみ

高尾山の秋、二人だけの秘密

【高尾山の秋、二人だけの秘密】

11月中旬、今年も高尾山は見事な紅葉で染まっていた。山全体が紅や黄のグラデーションに包まれて、東京から少し離れただけなのに、別世界に足を踏み入れたかのような気分になる。私と彼は、普段の忙しさを忘れるために、今年の「高尾山もみじまつり」に合わせてこの場所を訪れた。

ケーブルカーに乗って山を登ると、窓の外に広がる紅葉の景色が目を奪う。彼が私の隣で、静かにその景色を眺めながら、「東京にもこんな場所があるんだな」と呟いた。その声は少し疲れていて、でもどこか安らぎも感じられた。彼は最近仕事が忙しく、ようやく取れた休暇でこうして二人の時間を作ってくれた。

山頂に近づくと、私たちはケーブルカーを降り、紅葉に彩られた小道を歩き始めた。足元には色とりどりの葉が積もって、まるで自然が敷き詰めたカーペットのよう。清滝駅前で行われていた薬王院の僧侶による安全祈願祭の音がかすかに聞こえ、まつりの賑わいが感じられる。

「ここで、ちょっと休憩しようか？」彼が提案して、静かな木陰に腰を下ろす。二人でベンチに座り、持参したお茶をゆっくりと口に含むと、ほのかに漂う冷たい秋の風が心地よい。

「いつも頑張ってるから、こういう休みも必要だよね」私は、彼の疲れた横顔を見ながら言った。彼は少し照れたように笑い、「お前が一緒にいてくれるだけで、十分休めてるよ」と小声で呟いた。その言葉に胸が温かくなり、彼の手をそっと握り返す。二人だけの時間が、まるで山の静けさと調和しているかのようだった。

少し歩くと、遠くのステージから賑やかな音楽が聞こえてきた。「行ってみようか」と私が言うと、彼は「人混みはちょっと苦手だけど、せっかくだから」と頷いた。高尾山もみじまつりの会場に向かうと、多くの人々が笑顔でイベントを楽しんでいる。焼き団子や温かい甘酒の香りが漂い、山の静寂とはまた違った活気に包まれていた。

ステージでは地元のパフォーマーが踊りを披露しており、観客の拍手が響く。その光景を見て、私はふと彼の手を引いて「一緒に踊ろうよ」と笑顔で言った。彼は少し戸惑いながらも、私の手に引かれてゆっくりとその場で踊り始めた。周りの視線なんて気にせず、ただ二人で笑い合いながら軽やかにステップを踏む。その一瞬が特別な思い出に変わっていくのを感じた。

夕方になり、山の紅葉が夕陽に照らされ、さらに鮮やかさを増していく。秋の空はどこか寂しげで、日が沈むと一層寒くなる。それでも彼の温もりが傍にあるだけで、心がほっと温かくなる。

帰り道、彼がふと立ち止まって、「また来年も、一緒に来よう」と呟いた。私はその言葉に少し驚きながらも、「うん、絶対にね」と答えた。

二人だけの秘密のように、この高尾山の紅葉が私たちの思い出に深く刻まれていく。