いとなみ

15歳の胸騒ぎ

 15歳の胸騒ぎ

春の訪れとともに、15歳の咲は新しい高校生活を迎えていた。彼女は緊張しつつも、新しい友達を作ることや新しい授業に期待を膨らませていた。しかし、特に心を惹かれていたのは、担任の教師である佐藤先生だった。

佐藤先生は30代半ばで、背が高く、優しい笑顔が印象的な男性だった。授業はいつも分かりやすく、彼の話す内容は興味深く、特に文学の授業では彼の情熱が伝わってくる。咲は彼の授業が大好きで、いつも前の席に座り、真剣にメモを取りながら話を聞いていた。

ある日のこと、咲は図書室で本を探していると、偶然にも佐藤先生と出会った。先生は、授業で紹介した詩集を探している様子だった。咲はドキドキしながら、「先生、何かお手伝いできることがありますか？」と声をかけた。彼は微笑みながら「ありがとう、でも大丈夫だよ」と返事をした。その瞬間、咲は心の中で嬉しさが広がった。

その後、咲は授業中に何度も目が合うことが増え、彼に対する想いがどんどん強くなっていった。クラスメイトたちにも「咲、先生に夢中だね！」とからかわれることがあったが、彼女は恥ずかしさを感じつつも、その気持ちを隠すことができなかった。

そんなある日、放課後に咲が美術室で絵を描いていると、佐藤先生がやってきた。彼は彼女の絵を見て、「素晴らしいね！色使いがとても良い」と褒めてくれた。その言葉に咲は心が弾み、思わず「ありがとうございます！」と笑顔を返した。

その時、咲は思い切って「先生は、好きな詩人はいますか？」と尋ねた。先生は少し考えた後、「やっぱり宮沢賢治かな。彼の詩は心に響くものが多いから」と答えた。咲はその言葉に感銘を受け、自分も賢治の詩を読んでみようと心に決めた。

次の日、咲は図書室で宮沢賢治の詩集を見つけて手に取った。彼女は授業中に詩を引用しながら感想を述べることで、佐藤先生に少しでも印象を残したいと思った。授業が終わった後、咲は思い切って「先生、賢治の詩を読んでみました！すごく良かったです」と話しかけた。

先生は驚いた表情を浮かべ、「本当に？どの詩が特に好きだった？」と興味を示した。咲はその瞬間、心の中で自分の気持ちを伝えたくなったが、言葉にはできなかった。それでも彼との会話は楽しく、心が温かくなる瞬間だった。

月日が経つにつれて、咲はますます佐藤先生に惹かれていった。彼の優しい言葉や、授業中の熱心な姿勢は、彼女にとってまるで憧れの人のように映った。しかし、彼女は同時に自分の気持ちが本当に恋なのか、ただの憧れなのかを考えることが多くなった。

ある日、文化祭の準備が始まり、クラスで出し物を決めることになった。咲はクラスメイトたちと一緒に話し合い、模擬店を出すことに決めた。佐藤先生も文化祭の運営を手伝ってくれることになり、咲は嬉しさと緊張感が入り混じった気持ちでいっぱいだった。

準備が進む中、佐藤先生と話す機会が増えた。彼はいつも親身になってアドバイスをくれ、咲はその度に心が躍った。彼との距離が縮まっているように感じ、もどかしさと期待が交錯していた。

文化祭の日、咲は模擬店の準備に追われていた。佐藤先生も手伝ってくれ、彼の優しい言葉に何度も励まされる。人混みの中でふと目が合う瞬間が何度もあり、その度に咲の心は高鳴った。彼が笑ってくれると、まるで世界が輝いて見えるようだった。

模擬店が終わり、夜になると、文化祭の最後のイベントである花火大会が始まった。咲は友達と一緒に花火を見上げながら、心の中で何か特別な瞬間を待っていた。花火が空を彩る中、ふと隣に佐藤先生が立っていることに気づいた。彼も花火を見上げている。

「綺麗だね」と彼が言う。その言葉に咲は頷きながら、心の中で叫びたくなる思いが湧いてきた。彼の隣にいるだけで、幸せがあふれてくる。

花火が終わり、周りの人々が拍手をする中、咲は思い切って「先生、私…」と口を開きかけた。だけど、緊張で言葉が続かなかった。そんな時、佐藤先生が振り向いて、「どうしたの、咲？」と優しく尋ねてくれた。彼のその声が、咲の心に優しく響いた。

「私、先生が好きです！」とついに言葉が口から飛び出した。咲は驚きと緊張の中、彼の反応を待った。佐藤先生は少し驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかい笑顔を浮かべた。

「ありがとう、咲。君の気持ちは嬉しいよ。でも、私たちには大切な約束があるから、今はこの気持ちを心にしまっておこうね」と彼は優しく答えた。その言葉に、咲は少し悲しさを感じたが、同時に彼の気持ちを尊重する思いが生まれた。

文化祭が終わり、咲は自分の気持ちを整理する時間が必要だと感じた。彼に対する想いは純粋で、ただの憧れではなく、心からの気持ちだと理解していた。しかし、佐藤先生の言葉が彼女にとっての大切な思い出となり、これからの彼女の人生に影響を与えるものになることを感じていた。

15歳の初恋は、少し切ないけれど、彼女にとって特別な経験となった。咲はこの恋を胸に秘めながら、前に進んでいくことを決意した。いつか再び彼と出会えるその日まで、自分の夢を追い続けることが大切だと心に刻んだ。