いとなみ

彼女のキッチン

「彼女のキッチン」

隆太は、最近付き合い始めた彼女・結菜（ゆいな）の家に招かれ、緊張しながらドアを叩いた。彼女が手料理を振る舞ってくれるというのだが、食べるだけのデートは初めてだったし、なんとなく恥ずかしさもあり、少し遅れて着いてしまった。

ドアが開き、エプロン姿の結菜がにっこりと出迎えてくれた。清潔感のある小さなキッチンから漂う香りに、隆太のお腹がぐうと鳴った。「ごめん、待たせちゃったかな？」

「ううん、大丈夫。ちょうど準備できたところだったよ」と結菜は笑顔で答え、テーブルへと誘導した。すでに料理が並べられていて、カラフルでどれも美味しそうだった。彼女の料理に対する細やかな気配りが伝わってくる。

「じゃあ、どうぞ召し上がれ！」と彼女はスープを差し出した。隆太は少し緊張しながら一口飲むと、やさしい野菜の味わいが口いっぱいに広がり、次の瞬間、思わず「美味しい！」と叫んでしまった。

結菜は少し照れながらも嬉しそうに笑っていた。「よかった！ちょっとお腹に優しい感じの料理にしてみたんだ。今日は特別だからね。」

スープの次は、柔らかく煮込まれた鶏肉のトマト煮込みに、彼女の手作りパンが添えられていた。彼女が作るパンは、外はカリッと、中はふわふわで、トマトソースと相性が抜群だった。

食べながら、ふと隆太は彼女に聞いてみた。「結菜、いつからこんなに料理が上手になったの？」

結菜は少し考えたあと、笑みを浮かべた。「お母さんが料理上手でね、子供のころからずっと一緒に台所に立ってたから自然に覚えたのかも。それに、私にとって料理って、相手に気持ちを伝える手段みたいなものなの。」

その言葉に、隆太の胸が温かくなった。彼女の料理には確かに彼女の気持ちが込められていて、一口ごとに優しさと愛情が伝わってくる。

デザートには、彼女が手作りしたプリンが出てきた。とろけるような甘さが口の中で広がり、ほのかな苦みのあるカラメルが後を引く。満足感に包まれた隆太は、幸せをかみしめていた。

「もうお腹いっぱいだよ、本当に美味しかった」隆太はお腹をさすりながら、満面の笑みを浮かべた。「こんな料理が毎日食べられるなんて夢みたいだ。」

結菜は照れくさそうに笑った。「それなら、またいつでも来ていいよ。その代わり、私のことも、たくさん甘えさせてね。」

隆太は彼女の一言に心が温かくなり、自然と「もちろん」と答えていた。気が付けば彼女の料理を通じて、彼女自身の優しさや心遣いに触れることができていた。

その夜、家に帰った隆太は彼女からのメッセージを確認した。「今日も楽しかったね。また美味しいもの作るから、また来てね。」その一言で、彼の胸の中に新しい感情が芽生え、今度は彼が彼女のために何かをしてあげたくなった。

翌週のデート、今度は彼が彼女をレストランに招待し、普段料理をしてくれる彼女に感謝の気持ちを伝えた。料理上手な彼女に胃袋を掴まれてしまったが、彼はそれ以上に、彼女の優しさに心まで掴まれてしまったのだった。