いとなみ

7年間の眠り

「7年間の眠り」

アレクシアは、薄暗い王宮の一室で静かに立っていた。窓の外には、秋風が冷たく吹き抜け、庭の木々の葉が舞い散っている。王宮に響くのは、まるで彼女の心の不安を映し出すかのような、わずかな風の音だけだった。

アレクシアは、この王国の女王だった。しかし、もうすぐ彼女は廃妃となる運命にあった。夫であるカスティエル王が、彼女を見限り、新しい妃を迎える準備をしているという噂が、すでに宮廷中に広まっていた。理由は、彼女が子を産むことができなかったからだった。

「王妃として、後継ぎを産むことができないのなら、王位継承は無理だ。次の妃を迎えるべきだ。」

そうカスティエルは何度も言っていた。冷たい視線で、まるで彼女の存在自体が無価値であるかのように。彼女にかつての愛情はなく、ただ王としての義務と権力のために、彼女を排除しようとしていた。

アレクシアはそれを知りながらも、抵抗する術がなかった。王の決定は絶対であり、彼女が廃妃にされるのは時間の問題だった。だが、彼女には一つの救いがあった。それは、忠実な侍女であるリュシアの存在だった。

リュシアの提案
「王妃様、このままでは王に廃され、次の妃が王宮に入ることになります。ですが、私には一つの策があります。」

ある日、リュシアはアレクシアにそう囁いた。彼女は侍女でありながら、ただの従順な存在ではなかった。頭脳明晰で、時には禁じられた知識さえ持っている謎めいた女性だった。

「策？どんな策なの、リュシア？」アレクシアは彼女の言葉に一縷の希望を感じた。

リュシアは静かに微笑み、言葉を続けた。「王妃様、王が次の妃を迎えるまでに、7年の時間が必要です。その7年間、王妃様がこの世から姿を消せば、彼らは何もできません。ですが、これはただの逃避ではありません。7年後、必ず復讐の機会が訪れます。」

「どうやってそんなことが可能なの？」アレクシアは半信半疑だった。

リュシアは一歩近づき、小声で語り始めた。「私が持つ魔法で、王妃様を7年間の眠りにつかせるのです。その間、誰にも見つかることはありません。目覚めた時、全てが変わっているでしょう。新しい妃もいずれ廃され、王は衰え、王妃様が再び宮廷に戻るための道が開けるのです。」

アレクシアはしばらく沈黙していた。彼女の心には恐怖と不安が渦巻いていたが、それ以上にリュシアの提案に込められた復讐の甘さが、彼女を惹きつけていた。7年間の眠り――その先に待つのは、今とは全く異なる世界。彼女を無価値と見なした者たちに、自分の存在を思い知らせる機会だ。

「分かったわ。リュシア、あなたに全てを任せる。」アレクシアはついに決断した。

7年間の眠り
その夜、王宮の片隅でリュシアは秘密裏に儀式を執り行った。アレクシアは淡い光に包まれ、ゆっくりと眠りについた。彼女が目を覚ますのは7年後――その時、彼女がどうなるかは誰にも分からなかったが、リュシアは確信していた。この選択が、彼女にとって最良の復讐の道となることを。

月日が流れ、アレクシアは王宮から姿を消した。王は彼女が突然いなくなったことに驚きはしたものの、すぐに新しい妃を迎える準備を進めた。彼の心にはもうアレクシアへの未練はなく、新たな後継ぎを得ることにしか興味がなかった。

新しい妃、イザベラが宮廷に迎えられ、王は彼女に夢中になった。若く美しいイザベラは王の寵愛を一身に受け、すぐに息子を産んだ。王国中が新たな後継ぎ誕生を祝ったが、リュシアは陰で静かに笑っていた。

「7年が過ぎれば、全てが変わるわ…。」

目覚めの時
そして、ついに7年の時が経過した。王宮は再び揺れ動いていた。カスティエル王は老い、体力も衰え始めていた。イザベラとの関係も冷え切り、彼女は宮廷での権力を失いつつあった。彼女の息子も期待されたほどの器ではなく、王国の未来は不安定な状態にあった。

その時、王宮に一人の女性が姿を現した。それは、7年間眠り続けていたアレクシアだった。

「私が戻ってきたわ。」アレクシアは王宮の門をくぐり、堂々と歩いていた。彼女の姿はかつてのような弱々しいものではなかった。7年間の眠りが、彼女に新たな力を与えていた。肌は若返り、目には力が宿っていた。

宮廷の人々は驚愕し、ざわめき始めた。「アレクシア王妃が戻ってきた…どうして？」誰もが彼女の姿を信じられず、王の前に立った彼女に視線を注いだ。

カスティエル王も、椅子に座ったままアレクシアの姿を見て凍りついた。彼はすっかり老い、かつての力強さは消え失せていた。一方、アレクシアは美しさと冷徹な眼差しを携えて、王に近づいた。

「7年間の眠りから目覚めたわ、王よ。」アレクシアは冷たく言い放った。「あなたは私を廃し、他の女を迎えた。だが、その結末を見なさい。あなたの新しい王国は崩壊寸前。あなたの息子は、あなたの期待に応えられない。あなたの選択は全て間違いだった。」

王は口を開こうとしたが、声が出なかった。アレクシアの前では、彼は何も言うことができなかったのだ。彼女は静かに微笑み、リュシアの言葉を思い出した。

「7年間、眠っていてくださいませ。」

その言葉通り、アレクシアは復讐を果たし、新しい未来を切り開いていた。彼女が再び王妃となることは確実だった。