いとなみ

秋色の街 2

秋色の街　2

その後、私たちはしばらくの間、言葉を交わさずに紅葉が揺れる街の景色を眺めていた。風が舞い、カフェの窓越しに見えるアメリカンハナミズキの葉が、赤や黄色に輝いている。まるで、私たちの沈黙を彩るかのように優雅に揺れていた。

ふと、男が静かに口を開いた。「エミリーとの紅葉狩りが実現するといいですね。でも、もし忙しさに追われて難しいなら、代わりに一緒に出かけませんか？」

彼の誘いに一瞬驚いた。まさか、初めて会ったこの場所で、こんな提案をされるとは思ってもいなかった。しかし、彼の柔らかな笑顔と穏やかな雰囲気に、私は不思議と安心感を抱いていた。エミリーに会えなくて寂しかった気持ちが、少しずつ溶けていくような感覚だった。

「一緒に？」私は確認するように彼に尋ねた。

彼は微笑みながら頷いた。「もちろん。こうして秋の景色を眺めていると、誰かと一緒に楽しむ時間がもっと大切だって気付かされますね。それに…あなたと話していて、これからももっと話したいと思いました。」

私の胸が少し高鳴った。普段なら、こんな誘いを受けることはないかもしれない。しかし、今の私はその提案がとても自然に感じられた。彼との会話は心地よく、彼が私の思いを丁寧に受け止めてくれていることが伝わってきたからだ。

「それじゃあ、エミリーに確認してみて、もしダメだったら…一緒に行くのも悪くないかも。」私は少し照れながら答えた。

彼は笑顔を浮かべ、少し身を乗り出して言った。「楽しみにしています。それに、もしエミリーが来られたとしても、僕は構いません。あなたの友達とも会ってみたいです。」

その言葉に、私は少し驚いたが、すぐに笑みがこぼれた。彼はなんて優しいんだろう。私の気持ちに寄り添いながら、無理をしない自然な提案をしてくれる。そんな彼の態度に、私はすでに心を開きつつあった。

コーヒーの香りが漂うカフェの中で、私たちの会話は続いた。秋の風景が広がる窓の外では、季節の変わりゆく瞬間が刻々と訪れていた。

「ところで…」と、ふと私は尋ねた。「あなたは何をしている人なんですか？なんだか作家さんみたいだと思って。」

彼は少し照れたように笑い、コーヒーカップを手に取った。「作家じゃないですよ。でも、書くことは好きです。仕事の合間に、自分の考えや感じたことを文章に残しているんです。特にこういう、季節の移ろいを感じる瞬間が好きでね。」

「そうなんですね。」私は興味を持って耳を傾けた。「何か具体的に書いているものがあるんですか？」

彼は少し考え込むようにしてから答えた。「そうですね…最近は、心の成長や変化について書いています。特に、出会いや別れが人に与える影響について考えることが多くて。この季節は、それを特に感じやすいですからね。」

彼の言葉に私は共感した。秋という季節は、どこか感傷的な気持ちを引き出すものがある。紅葉が鮮やかに色づく中で、人生の変化や出会い、そして別れが織り成す瞬間を考えずにはいられない。

「素敵なテーマですね。」私は静かに言った。「私も、最近いろいろなことを考えるようになっていて。友達のことや、自分の未来のこと…秋になると、そういうことが自然に浮かんでくるんですよね。」

彼は頷き、私をじっと見つめた。「それが秋の魔法なのかもしれませんね。変わりゆく季節の中で、私たちは自分自身を見つめ直す。そして、これからどう歩んでいくのかを考える時間が与えられる。」

その言葉に、私は深く考えさせられた。秋の訪れは、ただの季節の変わり目ではなく、心の中にも変化をもたらす大切な時期なのかもしれない。外の景色と同じように、私の心も紅葉し、また新たな色を帯びていくような気がした。

「人生の次の季節が、楽しみですね。」私はそう呟きながら、彼に微笑んだ。

「そうですね。」彼も微笑みを返し、再び窓の外を眺めた。「この秋は、きっと特別なものになるでしょう。」

街のアメリカンハナミズキが、さらに深い赤色へと染まっていく。その色彩が、私たちの未来を照らし出すかのように輝いていた。

そして、私は彼との新たな出会いに感謝し、この秋がどんな物語を紡ぐのか、心から楽しみに思った。