いとなみ

釣った魚に餌はやらない

「釣った魚に餌はやらない」

静かな街の一角に、和也という名の若者がいた。彼は、友人たちからは「釣り名人」と呼ばれるほど、女性にモテる男だった。しかし、その人気の裏には、「釣った魚に餌はやらない」という言葉がピッタリと当てはまる一面があった。

和也は、恋愛においては常に自信満々だった。彼は出会いの場を選ぶことなく、数々の女性たちを虜にしてきた。彼の魅力は一度味わった女性には忘れられないもので、まるで釣り上げた魚のように、心を奪うのが得意だった。しかし、彼が手に入れた瞬間、彼女たちの気持ちを無視するようになり、興味を失ってしまうのだった。

ある日のこと、和也は新しいバイト先で出会った美しい女性、佳奈に目を奪われた。彼女は明るく、素直で、少し天然なところもあって、周りの人たちから愛されていた。和也はすぐに彼女に惹かれ、彼女を口説くために全力を尽くした。

「佳奈さん、明日の仕事終わりに一緒に飲みに行かない？」と和也は微笑みながら誘った。

「ええ、いいよ！」佳奈は目を輝かせて答えた。和也はその返事に満足し、すぐに計画を立てた。飲み会は楽しいものとなり、佳奈は彼の魅力に心を奪われていった。次第に、和也のデートの誘いは日常となり、彼女は彼の世界に完全に入り込んでいった。

しかし、和也の心の中には、次第に飽きが生まれ始めた。佳奈を手に入れることができた満足感から、彼は次第に彼女に対して関心を失い、デートの回数も減っていった。

ある日のこと、佳奈は和也に呼び出された。彼の自宅で食事をすることになったが、彼女はどこか不安な気持ちを抱いていた。いつも彼が見せていた優しさが消え、何かが変わってしまったように感じていたからだ。

「和也、最近、あんまり連絡がないけど、どうしたの？」佳奈は、思い切って尋ねた。

「忙しいからね。今度の連休に一緒に出かけよう」と和也は返事したが、その目はどこか冷たかった。佳奈は一瞬、彼の言葉に安心したものの、その裏に隠された無関心を感じ取っていた。

次第に佳奈は、和也が自分に無関心になっていることに気づいた。彼女の心は痛み、彼に対する気持ちが揺らいでいくのを感じた。彼女は自分の心が傷つくのを恐れながらも、和也に問いかけることにした。

「和也、私、あなたにとって特別な存在じゃないのかな……？」

和也は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに無関心に戻り、彼女の目を避けるようにそっぽを向いた。「特別だよ。だけど、もっと自由に楽しもうよ」と彼は言った。

その言葉が、佳奈の心をさらに傷つけた。「釣った魚に餌はやらない」——和也の行動はまさにその通りだった。彼女は、彼を手に入れた途端に興味を失ってしまったのだ。

それから数日、佳奈は自分の気持ちを整理するために、友人たちに相談した。彼女は自分の価値を見失っているような気がしていた。友人たちは、「もっと自分を大切にしなさい」と言った。しかし、和也への思いが消えない限り、その言葉は空虚に感じた。

ある日、佳奈は決意した。和也との関係を断ち切ることを決めたのだ。彼の元を去ることで、自分自身を取り戻すことができると信じた。

「和也、別れよう。あなたにはもう何も期待できない」と佳奈は言った。和也は驚き、目を見開いたが、彼女の決意は固かった。

「え？ なんでだよ？急に何言ってるの？」和也は焦った表情を見せたが、佳奈はその冷静さを保ち続けた。

「あなたにとって私はただの遊び相手だった。もうそんな関係は終わりにしたいの」と佳奈は言い切った。

別れた後、佳奈は自由な気持ちを感じた。彼女は新たなスタートを切り、自分自身を大切にすることを決めた。そして、和也は釣った魚を手放したことを後悔することになる。彼は自分の行動がどれほど無責任であったかを理解するには、少し時間がかかるだろう。

佳奈は自分の人生を見つめ直し、成長していくことができた。「釣った魚に餌はやらない」という言葉を忘れず、これからは自分を大切にし、真剣に向き合う相手を見つけることができると信じていた。