いとなみ

春秋花壇

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友達以上、恋人未満

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友達以上、恋人未満

美咲(みさき)と涼介(りょうすけ)は、大学時代からの友人だった。互いに気兼ねなく話し合え、どんなことでも相談できる間柄で、二人の周りには「本当に仲がいいね」と羨ましがる声も多かった。時には、二人の関係を見た他の友人から、「付き合ってるの?」と冗談交じりに聞かれることもあったが、そのたびに二人は笑って否定していた。

「涼介と私はそんな関係じゃないよ。ただの友達だってば。」美咲はいつも笑顔でそう答えた。

涼介も、「まったくだよ。俺たちはただの親友だから。」と続けた。

だが、心の中ではお互いに特別な感情を抱いていることに、二人とも気づいていた。しかし、それを言葉にする勇気が出ないまま、時間だけが過ぎていった。友達としての関係が壊れるのを恐れ、曖昧な状態を続けていたのだ。

ある日の夕方、二人はいつものカフェで会っていた。涼介が大学を卒業してから就職した企業の話や、美咲がアルバイトで感じたことなど、いつも通りの話題が飛び交っていた。しかし、その日はどこか会話にぎこちなさがあった。

「ねぇ、涼介。最近どう?仕事、大変そうだね。」美咲はコーヒーを一口飲みながら尋ねた。

「まぁ、なんとかやってるよ。慣れるまでが大変だけど、少しずつペースが掴めてきたかな。」涼介はカップを手に取りながら答えたが、どこか浮ついた表情をしていた。

美咲はその表情に気づき、少し不安そうに続けた。「何か悩みがあるなら、相談に乗るよ?」

涼介は一瞬ためらったが、やがて深いため息をついてから言った。「実はさ、最近ある人から告白されて…どうすればいいのか悩んでるんだ。」

美咲の心が一瞬、ざわめいた。涼介に告白する人が現れるのは当然のことだろうと頭では理解していたが、実際にそれを聞くと胸が痛んだ。

「そうなんだ。で、どう答えるつもりなの?」美咲は努めて平静を装った。

涼介は困ったように眉をひそめ、「その人はすごくいい子なんだけど…なんだか違う気がするんだよな。俺、自分の気持ちがまだ整理できてなくて。」

美咲はその言葉を聞いて、心の奥に潜んでいた感情が再び顔を出してくるのを感じた。涼介のことをただの友達だと割り切っていたつもりだったが、その思いが揺らいでいることを自覚せざるを得なかった。

「そうか…でも、涼介が自分の気持ちを大事にするのはいいことだと思うよ。」美咲は少しぎこちない微笑みを浮かべた。

その夜、美咲は一人で帰宅する途中、胸の中で渦巻く感情に押しつぶされそうになっていた。涼介に告白した人がいるという事実が、彼女にとって思った以上に重く響いていたのだ。

「私、どうしてこんなに気にしてるんだろう…ただの友達なのに。」美咲は自分自身にそう問いかけた。

だが、答えは明確だった。彼女は涼介をただの友達以上に思っていた。しかし、その感情を言葉にすることが怖かった。もし涼介が同じ気持ちではなかったら、今の関係が壊れてしまうかもしれないという恐怖があったからだ。

その夜、美咲は眠れぬまま考え続けた。彼女にとって涼介との友情は何よりも大切だったが、それ以上の感情を抱いてしまった自分を止めることができなかった。

数日後、涼介と美咲は再び会った。今回は、いつものように自然な会話ができず、どちらもお互いの顔をまっすぐに見ることができなかった。

「ねぇ、涼介。私たち、ずっと友達でいられるよね?」美咲がぽつりとそう尋ねた。

涼介は驚いたように美咲を見つめた。「もちろん。美咲は俺にとって大切な存在だから。」

その言葉に、美咲は少し安心したように微笑んだ。しかし、その微笑みの裏には、隠しきれない切なさが滲んでいた。

「でも…友達以上のことは、考えたことない?」美咲はついに自分の心の内を涼介に問いかけた。

涼介は一瞬、言葉に詰まったが、やがて真剣な表情で言った。「美咲、俺も君に対して特別な感情を持ってる。だけど、それを言葉にしてしまうと、今の関係が壊れるのが怖くて。」

美咲は涼介の言葉に驚き、涙が滲んできた。「私も同じだよ。ずっとそのことばかり考えてた。でも、涼介と一緒にいると、友達以上の感情を抑えきれなくて…」

二人は静かにお互いの気持ちを見つめ合った。長い間、抱えていた感情が言葉になった瞬間、何かが変わり始めた。

その日、二人は新たな一歩を踏み出す決意をした。友情の延長線上にあった曖昧な感情を認め、お互いの気持ちに素直になることを選んだのだ。

涼介は美咲の手を取り、彼女に優しく微笑んだ。「これからも一緒にいよう。友達以上、恋人未満でも、俺たちの関係は大切にしたいから。」

美咲もその言葉に応えて、涙を拭いながら微笑んだ。「うん。私もそう思う。涼介と一緒なら、何があっても乗り越えられる気がする。」

こうして、二人は「友達以上、恋人未満」という新しい関係を歩み始めた。その曖昧さの中には、無限の可能性と、二人だけの特別な絆が息づいていた。








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