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春秋花壇

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婚約破棄に感謝します

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婚約破棄に感謝します

「婚約破棄に感謝します。」そう言った私の言葉に、彼は驚きと戸惑いが入り混じった表情を見せた。彼はこれからどんな非難や罵声が飛んでくるかと身構えていたに違いない。しかし、私の口から出たのは感謝の言葉だったのだから。

「何を言っているんだ、君は…。僕は君を傷つけてしまったのに、どうしてそんな…」

彼の言葉が途切れる。彼自身も何を言っていいのか分からないのだろう。だが、私ははっきりと自分の気持ちを伝えるべく、ゆっくりと口を開いた。

「あなたが婚約を破棄してくれたおかげで、私は本当の意味で自由になれました。ずっと感じていた違和感や重圧から解放されたんです。」

そう、私はずっと彼との婚約に対して何かが違うと感じていた。彼は優雅で礼儀正しく、外見も申し分なかった。しかし、何かが欠けていた。それは私が無意識に抱えていた違和感だった。彼の隣にいるとき、私はまるで自分が別人になったかのように感じることが多かった。彼に合わせようと必死になって、自分自身を見失っていたのだ。

「あなたとの婚約が決まったとき、周りはみんな祝福してくれました。私も最初は嬉しかった。でも、その喜びは次第に薄れていって…気づけば、私は婚約者としての役割を果たすことに必死でした。あなたを満足させることばかりを考えて、自分がどう感じているのかなんて忘れてしまっていたんです。」

彼は黙って私の話を聞いていた。私がどんな気持ちで彼との婚約に臨んでいたのかを知ることが、彼にとってどれだけ驚きだったのかは分からない。しかし、私は続けた。

「あなたが婚約を破棄したとき、最初はショックでした。突然のことに何も考えられなくなって…でも、時間が経つにつれて、心の中に不思議な解放感が広がっていったんです。まるで長い間、閉じ込められていた場所から解放されたかのように。」

私は彼を見つめた。彼はまだ困惑していたが、少しずつ理解し始めているようだった。

「だから、私は感謝しているんです。あなたが私に自由を与えてくれたこと、そして、自分自身を取り戻すきっかけをくれたことに。」

彼は何も言えなかった。ただ、黙って私の言葉を聞いているだけだった。その表情にはまだ完全な納得はなかったが、少なくとも私の気持ちを理解しようとしているように見えた。

「婚約を破棄されることは、確かに辛い経験です。でも、私はそれを糧にして成長し、前に進むことができました。今では、自分が本当に望むものを見つけるための第一歩だったと感じています。」

私は微笑んだ。それは感謝の気持ちを込めたものであり、過去を乗り越えたことを示すものだった。

「だから、どうか気に病まないでください。私は大丈夫です。そして、あなたも自分の道を見つけてください。」

彼はその言葉に少しだけほっとしたようだったが、まだ心の整理がついていない様子だった。しかし、私にはそれで十分だった。彼が私に与えた解放感は、私にとって何よりも貴重なものだったのだから。

「本当に…ありがとう。」彼は最後にそう言って、私から目を逸らした。その姿を見て、私は彼がこの先どんな道を歩んでいくのかを少しだけ案じた。

しかし、それはもう私の課題ではなかった。私は自分の人生を歩む決意を固めていた。婚約破棄という苦い経験が、私に新たな道を示してくれたのだから。

彼との別れは悲しいものではなく、むしろ新たな始まりだった。そして、その始まりに感謝しながら、私は前を向いて歩き出した。








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