いとなみ

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
847 / 1,193

ひと夏の恋のはずだったのに

しおりを挟む
「ひと夏の恋のはずだったのに」

夏の終わりが近づく夕暮れ時、玲奈はビーチの砂浜に座りながら、過ぎ去った日々を思い返していた。今年の夏、彼女は友人たちと共に訪れた南の島で、忘れられない出会いを経験した。

「こんなに心が揺れるなんて…」

玲奈は波音を聞きながら、自分自身に問いかけた。ひと夏の恋だと割り切るはずだったのに、彼への思いが日増しに強くなるばかりだった。

その出会いは、島に到着した初日のことだった。玲奈たちはビーチで楽しんでいると、友人の一人がサーフィンをする男性を見つけた。彼の名前は直人。日焼けした肌と明るい笑顔が印象的で、すぐに打ち解けることができた。

「一緒にサーフィンしない?」

直人の誘いに乗って、玲奈は初めてのサーフィンに挑戦することになった。最初はなかなかうまくいかなかったが、直人の指導のおかげで少しずつコツをつかむことができた。

「玲奈ちゃん、すごいよ!もう立てるようになったね」

直人の言葉に励まされ、玲奈はますますサーフィンが楽しくなっていった。その日から、二人は一緒に過ごす時間が増えていった。ビーチでのサーフィン、島内の観光、夜の花火大会…どの瞬間も、直人との思い出が彩っていた。

ある日、玲奈と直人は静かな入り江にボートで出かけた。そこで、直人が突然真剣な表情で話し始めた。

「玲奈ちゃん、実は俺、来月から海外で仕事をすることになってるんだ。ずっと夢見ていたプロジェクトに参加できるんだ」

玲奈は驚きと共に、胸の奥が痛むのを感じた。この夏の終わりが、彼との別れを意味していることに気づいたからだ。

「そうなんだ…すごいね、直人。でも…」

玲奈は言葉を続けることができなかった。彼の夢を応援したい気持ちと、彼を失いたくない気持ちが交錯していたからだ。

「玲奈ちゃん、本当にありがとう。この夏、一緒に過ごせて幸せだったよ。君の笑顔が俺にとって最高の思い出になる」

直人の言葉に、玲奈は涙がこぼれ落ちた。彼にとっても、この夏の思い出が特別なものであることがわかり、少しだけ心が救われた。

「直人、私も。本当にありがとう。この夏、あなたに出会えてよかった」

玲奈は彼に抱きしめられながら、静かに涙を流した。二人の心が一つになった瞬間だった。

そして、夏が終わり、玲奈は島を後にする日がやってきた。直人は空港まで見送りに来てくれた。手を振る直人の姿が小さくなるまで、玲奈は涙をこらえながら見つめていた。

季節は秋に変わり、玲奈は日常に戻った。仕事に追われる日々の中で、ふとした瞬間に直人のことを思い出すことがあった。彼との楽しい時間、優しい言葉、そして別れの涙。全てが心に深く刻まれていた。

「ひと夏の恋のはずだったのに…」

玲奈は自分にそう言い聞かせながらも、心の中で直人への思いが消えることはなかった。彼の夢を応援する気持ちと、自分の幸せを願う気持ちが入り混じっていた。

ある日、玲奈は直人からの手紙を受け取った。封を開けると、彼の丁寧な文字が並んでいた。

「玲奈ちゃんへ

君と過ごした夏の日々は、今でも鮮明に思い出せるよ。海外での仕事は順調だけど、やっぱり君のことを思い出してしまう。君の笑顔、君の優しさ、全てが恋しい。

玲奈ちゃん、もし君も同じ気持ちなら、もう一度会いたい。君との未来を考えたい。もしも君がこの手紙を読んで、同じ気持ちなら、返事を待っている。

直人」

玲奈は手紙を読み終え、胸が熱くなった。彼も同じ気持ちでいることを知り、涙がこぼれた。彼の元に飛び込む決意を固めた玲奈は、すぐに返事を書くことにした。

「直人へ

私も同じ気持ちだよ。あなたとの夏の日々は忘れられない。もう一度会いたい、そしてあなたとの未来を一緒に考えたい。

玲奈」

手紙を送った後、玲奈は直人との再会を心待ちにした。ひと夏の恋が、これから始まる新たな物語の序章となることを信じて。

秋風が優しく吹き抜ける中で、玲奈の心には希望の光が差し込んでいた。彼と共に歩む未来が、どんなに輝かしいものであるかを夢見ながら。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

妻と愛人と家族

春秋花壇
現代文学
4 愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず, 5 下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 6 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 7 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。 8 愛は決して絶えません。 コリント第一13章4~8節

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

感情

春秋花壇
現代文学
感情

処理中です...