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春秋花壇

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エーコーとナルキッソスの物語

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エーコーとナルキッソスの物語

緑豊かな森の奥深くに、ニンフたちの楽園が広がっていた。その中で一際美しい声を持つニンフ、エーコーが住んでいた。彼女の声は森全体に響き渡り、誰もがその美しさに心を奪われた。しかし、彼女の美声は神々の怒りを買い、エーコーは他人の言葉を繰り返すことしかできない呪いをかけられてしまった。

ある日、エーコーは森の中で美青年ナルキッソスを見かけた。彼の美貌は一目で彼女の心を捉えた。ナルキッソスは狩りを楽しんでいたが、その姿はまるで神々の彫刻のように完璧で、エーコーは彼の後を追わずにはいられなかった。

「なんて美しい方なのでしょう…」エーコーは心の中でつぶやいた。

ある夕暮れ時、ナルキッソスが泉のほとりで休んでいるのを見つけたエーコーは、勇気を振り絞って彼に近づいた。しかし、呪いのために自分の言葉を発することができず、ただ彼の姿を見つめることしかできなかった。

ナルキッソスが泉に映った自分の姿に見惚れているのを見たエーコーは、思わず彼に向かって叫んだ。「美しい…」

ナルキッソスは振り返り、声の主を探した。しかし、エーコーは影の中に隠れ、自分の存在を明かすことができなかった。ナルキッソスはもう一度泉に目を戻し、再び自分の美しさに酔いしれた。

エーコーは悲しみに暮れながらも、毎日ナルキッソスの元へ足を運び、彼の美しさを眺める日々を送った。しかし、彼女の心は次第に重くなり、胸の内の悲しみが深まるばかりだった。

ある日、ナルキッソスがふとつぶやいた。「誰か、私を愛してくれる者はいないのか?」

エーコーはその言葉を聞き、彼の元へ駆け寄り、全身全霊で叫んだ。「愛している!」

しかし、ナルキッソスはその声がどこから来るのかを探そうともせず、再び自分の姿に夢中になった。エーコーはその光景に胸を痛めながらも、ナルキッソスへの愛を諦めることができなかった。

月日が流れ、エーコーの体は次第に痩せ細り、やがて姿を消してしまった。しかし、彼女の声だけは森の中に残り、誰かが声を発するたびにその言葉を繰り返す存在となった。ナルキッソスは最後まで彼女の愛に気付くことなく、自分の美しさに溺れていった。

ある日、ナルキッソスは泉のほとりで倒れ、そのまま帰らぬ人となった。その場所には美しい花が咲き、彼の名前を取ってナルキッソスと呼ばれるようになった。

エーコーの愛は成就することなく終わったが、その声は今もなお森の中で響き渡り、誰かが愛を語るたびにその言葉を繰り返す。そして、ナルキッソスの花が咲くたびに、エーコーの心の中に秘められた愛が永遠に語り継がれているのだ。

エーコーとナルキッソスの物語は、愛の儚さと美しさを伝える一つの教訓となり、後世に語り継がれることとなった。エーコーの悲しい恋は、人々に愛の力とその痛みを思い起こさせるものであり、その声は今もどこかで響き続けている。








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