いとなみ

婚約破棄の朝

婚約破棄の朝

麗奈は、いつも通りの朝を迎えた。カーテン越しに差し込む柔らかな光が、部屋を照らしていた。今日は、彼との婚約パーティー。待ちに待ったその日が、ついに来たのだ。

鏡の前に立ち、深呼吸をする。白いドレスは、まるで雪解けの後に現れる白い花のように、麗奈の肌を美しく映し出した。何度鏡の中の自分に微笑みかけても、心はどこか落ち着かない。

「麗奈、もう行くよ」

部屋の外から、彼、拓也の声が聞こえた。麗奈は深呼吸をし、部屋を出た。

拓也は、いつものように優しい笑顔で麗奈を迎えた。二人は手を繋ぎ、式場へと向かう。車窓から見える街並みが、キラキラと輝いて見えた。

しかし、その輝きはすぐに曇ってしまった。式場で、拓也はどこか落ち着かない様子だった。何度も時計を見るし、何度も携帯電話を確認する。そして、ついに彼は、麗奈に告げた。

「麗奈、ごめん。僕、もう君と結婚できないんだ」

麗奈の心は、打ち砕かれた。まるで、晴れていた空に突然黒い雲が覆いかかったように。

「どうして……？」

麗奈の声は震えていた。拓也は、うつむいたまま、何も言えなかった。

「理由を聞かせて」

麗奈は、必死に言葉を探した。

「君を愛しているのに、どうして？」

拓也は、ようやく顔を上げ、麗奈の目を見つめた。

「ごめん、麗奈。僕は、君を愛している。でも、今は結婚する準備ができていないんだ。もっと自分と向き合いたい。君を傷つけてしまうかもしれないから」

麗奈は、彼の言葉を理解できなかった。愛していると言うなら、どうして結婚できないのか。

「愛しているなら、結婚するべきじゃないの？」

麗奈は、涙をこらえながら尋ねた。

拓也は、何も言えなかった。

その夜、麗奈は一人、部屋で泣いた。幸せのはずだったはずの日が、こんなにも悲しくなるなんて。

数日後、麗奈は実家に帰った。実家で過ごす日々は、どこか懐かしい。しかし、心の傷は簡単には癒えなかった。

ある日、実家の庭で、麗奈は小さな花を見つけた。それは、雑草に混じってひっそりと咲いていた。でも、その花は、力強く太陽に向かって咲いていた。

麗奈はその花を見て、自分と重ね合わせた。私も、この花のように、どんな状況でも強く生きていける。そう思った時、麗奈の心の中に、小さな光が灯った。

それから、麗奈は少しずつ前を向くようになった。新しい仕事を見つけ、新しい友達もできた。そして、いつしか、心の傷は癒え始めていた。

ある日、街で偶然、拓也と会った。彼は、以前よりも大人になったように見えた。

「元気にしてる？」

拓也は、少し戸惑いながらも、そう尋ねてきた。

麗奈は微笑んで、「うん、おかげさまで」と答えた。

「あの時は、ごめん」

拓也は、そう言って頭を下げた。

麗奈は、彼を許した。そして、彼に言った。

「もう、過去のことは気にしない。私は、新しい未来に向かって歩んでいるから」

麗奈は、その場を後にした。

夕焼け空の下、麗奈は深呼吸をした。彼女は、もう過去の傷に縛られることはない。新しい自分として、未来に向かって歩き出す。