いとなみ

スマホがないときどうしていたの

スマホがないときどうしていたの

1980年代、田舎町に住む高校生の美紀は、朝の光が差し込む部屋で目を覚ました。目覚まし時計のベルが鳴り響き、彼女は布団を跳ねのけて起き上がる。今日は大切な日。憧れの先輩、裕也が出演する合唱コンクールがあるからだ。

美紀は学校へ向かう途中、道端で見つけた小さな野花を摘んで、ポケットに忍ばせた。裕也にプレゼントするためだ。彼の笑顔を思い浮かべると、自然と顔がほころぶ。

学校に着くと、美紀は友達の香織と合流した。二人は教室の隅でおしゃべりを始めた。「ねぇ、美紀、昨日のテレビ見た？あのドラマ、すごく感動的だったね！」香織は興奮気味に話す。

「うん、見たよ！特に最後のシーン、涙が出ちゃった。」美紀も共感しながら話を続けた。

授業が始まり、教室は静寂に包まれた。先生が黒板に書き込みながら授業を進める。ノートを取る音がリズミカルに響く中、美紀の心は裕也のコンクールに向かっていた。

昼休み、美紀は図書室に向かった。彼女は古い新聞記事を探しに行ったのだ。図書館の片隅にある大きな木製のキャビネットを開けると、色あせた新聞がぎっしり詰まっている。彼女は慎重に記事を探し出し、裕也が出場するコンクールの詳細を確認した。

午後の授業が終わると、美紀はすぐに体育館へ向かった。合唱コンクールはそこで開催される。すでに多くの生徒が集まっており、会場はざわめきに満ちていた。美紀は友達と一緒に席を確保し、裕也の出番を待った。

やがて、裕也がステージに現れた。彼は堂々とした姿勢でマイクを握り、歌い始めた。その歌声は力強く、美紀の心に深く響いた。彼のパフォーマンスが終わると、会場は大きな拍手に包まれた。

コンクールの後、美紀は緊張しながら裕也に近づいた。「あの、これ、あなたに…」と野花を差し出すと、裕也は驚いた表情で受け取った。

「ありがとう、美紀。嬉しいよ。」裕也の優しい笑顔に、美紀の胸は高鳴った。

その後、美紀は友達と一緒に町の喫茶店でお茶を楽しんだ。彼女たちは学校の出来事や夢、将来について話し合った。スマホもインターネットもない時代、彼女たちは直接会って話すことの喜びを知っていた。

夜、美紀は日記を広げ、今日の出来事を綴った。裕也との瞬間、友達との笑い声、そして合唱コンクールの感動。ページをめくるごとに、美紀の心は温かく満たされていった。

スマホがない時代、彼女たちは手紙や電話でつながり、直接会って話し合うことで絆を深めていた。その中で感じる人間の温かさや思いやりは、時代を越えても変わらないものだと、美紀はしみじみ感じたのだった。