いとなみ

「すれ違いの結婚」

「すれ違いの結婚」

玲奈は、結婚して五年目を迎えた。しかし、その日々は決して彼女が望んだものではなかった。彼女の夫、浩二は仕事に追われる毎日で、家族の時間を犠牲にしていた。玲奈はそのたびに寂しさを感じていたが、夫の努力を理解しようと努めていた。

ある日、玲奈は子供の誕生日パーティーの準備に追われていた。彼女は浩二に「今日は早く帰ってきてね」とお願いしたが、浩二は「無理だ」と一言だけ返した。その言葉が玲奈の胸に深く刺さった。

パーティーの夜、浩二は結局帰ってこなかった。玲奈は息子と一緒にケーキを切り、笑顔を見せたが、その心は苦しく、泣きたい気持ちでいっぱいだった。夜遅くに帰宅した浩二に対し、玲奈は何も言わなかった。ただ、背中を向けて眠りについた。

その翌日、玲奈はふとした瞬間に浩二が初めてプロポーズしてくれた日のことを思い出した。彼は「玲奈を一生大切にする」と誓ってくれた。しかし、その誓いはどこへ行ったのだろう。玲奈は自分の中で何かが崩れ落ちるのを感じた。

その夜、玲奈は浩二に話を切り出した。「浩二、私たちの結婚生活、どう思ってる？」

浩二は驚いた表情を見せたが、しばらくして「仕事が忙しくて、家のことに構う余裕がない」と答えた。玲奈はその答えに失望し、涙を流した。

「私が一番大切にしてほしいのは、あなたの時間と気持ち。仕事も大事だけど、私たち家族のことも大事にしてほしいの」と、玲奈は泣きながら訴えた。

その夜、浩二は玲奈の言葉を反芻し、初めて彼女の気持ちに気付いた。彼は仕事ばかりで玲奈を粗末にしていたことを痛感し、後悔の念に駆られた。

翌朝、浩二は早起きして朝食を作り、玲奈に「これからはもっと家族を大切にするよ」と約束した。玲奈はその言葉に少しだけ安心したが、まだ完全には信じられなかった。

それから、浩二は少しずつ変わっていった。仕事の合間を縫って家族と過ごす時間を作り、玲奈の気持ちを大切にするよう努めた。玲奈もまた、夫の努力を認め、彼の変化を受け入れた。

二人は互いに歩み寄り、結婚生活を再び築き上げることができた。玲奈は最終的に、浩二が本当に彼女を大切に思っていることを実感し、心から幸せを感じるようになった。

それからの彼らの結婚生活は、決して完璧ではなかったが、お互いを尊重し合い、支え合うことで、より強い絆を築いていった。玲奈は、いちばん大切にしたい人を粗末にしないことの大切さを、身をもって知ることができたのだった。