いとなみ

水無月のリラクションゼーションデー

水無月のリラクションゼーションデー

六月の雨がしとしとと降り続く日、東京の街はいつもより静かだった。私はリラクゼーションサロン「水無月」のドアを静かに開けた。外の湿った空気から解放されるように、店内の涼やかな空気が頬を撫でた。

「いらっしゃいませ。」

受付の女性が優しく微笑む。その笑顔に安心感を覚えつつ、予約したマッサージのことを伝えた。待合室のソファに腰掛けると、目の前のガラス窓から見える庭の緑が目に優しい。梅雨の季節、濃い緑の葉が雨に濡れて一層美しく輝いている。

「お待たせしました。どうぞこちらへ。」

セラピストの瑞希さんが声をかけてくれた。彼女はこのサロンで人気のあるセラピストで、その手技の素晴らしさは評判だった。私は初めてだったが、友人から何度もその良さを聞かされていた。

部屋に入ると、アロマの香りが漂い、リラックスムードが一気に広がる。ベッドに横たわり、静かに目を閉じる。瑞希さんの手が肩に触れた瞬間、その温かさと柔らかさに心がほぐれていくのを感じた。

「今日はどの部分が特にお疲れですか？」

「肩と背中ですね。最近デスクワークが多くて。」

「わかりました。では、そこを中心にほぐしていきますね。」

瑞希さんの手は魔法のようだった。力強さと優しさが絶妙に交じり合い、体の隅々まで疲労が溶けていく。仕事のストレスも、ここでは忘れられる。

「気持ちいいですね…。瑞希さん、すごい腕ですね。」

「ありがとうございます。お客様がリラックスできるように心がけています。」

その優しい声に癒されながら、ふと、私は彼女に興味を抱いた。ここで働く理由や、彼女自身のことをもっと知りたくなったのだ。

「瑞希さんは、どうしてこの仕事を？」

「そうですね…。人を癒すことが好きなんです。特に、このサロンは自然と調和した場所なので、働いていても自分自身が癒されるんです。」

彼女の言葉に共感しながら、私は目を閉じたまま話を続けた。

「確かに、ここはとても落ち着きますね。外の喧騒が嘘のようです。」

「そうですね。特にこの庭が好きなんです。雨の日は特に美しくて、見ているだけで心が和みます。」

その言葉に、私は瑞希さんの瞳に浮かぶ景色を想像した。彼女もまた、この場所に癒されているのだろう。私たちの間に、静かな共感が流れる。

マッサージが終わり、瑞希さんがタオルをかけてくれると、私は深く息を吸い込んだ。体が軽くなり、心も晴れやかになった気がする。

「ありがとうございました。とてもリラックスできました。」

「こちらこそ、ありがとうございました。またお越しくださいね。」

瑞希さんの微笑みに心が温かくなった。外に出ると、雨はまだ降り続いていたが、どこか晴れやかな気持ちで一杯だった。私はふと、瑞希さんに感謝の気持ちを込めて、お礼の手紙を書こうと思った。

それから数週間後、再び「水無月」を訪れた。今回はお礼の手紙と、小さな花束を持って。

「瑞希さん、先日はありがとうございました。これ、少しですがお礼です。」

彼女は驚いたように目を丸くし、そして柔らかく笑った。

「ありがとうございます。とても嬉しいです。」

その日も、瑞希さんの手技に癒されながら、私は心の中で小さな変化を感じていた。彼女との出会いが、私の心に新しい風を吹き込んでくれたのだ。

日々の忙しさの中で、瑞希さんの存在が心の支えになっていることに気づいた。恋愛という形ではなくても、彼女との絆は確かに深まっている。

そして、そんな日々が続く中、私はふと、瑞希さんに一緒にお茶でもしませんかと誘ってみようと思った。彼女の優しさと温かさに触れ、もっと彼女のことを知りたいと感じたからだ。

「瑞希さん、今日はお仕事の後、お茶でもいかがですか？」

彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで答えた。

「ぜひ、喜んで。」

その瞬間、私の心に新しい扉が開いた。瑞希さんとの関係が、これからどのように変わっていくのか。それはまだわからない。でも、この雨の季節に芽生えた小さな絆が、私たちの未来を彩ってくれることを願っている。