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燃えて尽きたし:年の差婚 70歳と40歳
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燃えて尽きたし:年の差婚 70歳と40歳
1. 枯れ葉と炎
70歳の秋を迎えた藤井茂は、長い人生の黄昏をひとり静かに過ごしていた。妻に先立たれ、子供たちにもそれぞれ家庭があり、静寂と孤独が彼の日常を支配していた。
そんなある日、茂は偶然立ち寄ったカフェで、40歳の女性、野村美咲と出会う。美咲は華やかで生命力に溢れ、茂の枯れ葉のような心に炎を灯す。
2. 禁断の恋
年齢差は30歳以上。周囲の反対を押し切って、茂と美咲は結婚する。
30させ頃、40し頃、美咲は女盛りだった。
周囲からは理解されず、嘲笑や非難の言葉が浴びせられる。
「いやねー、お金目当てでしょう?」
「今に満足させられなくて浮気される……」
しかし、二人はそんな声に耳を傾けず、愛し合い続ける。
茂は今まで以上に健康に気を遣い、毎日のラジオ体操、散歩、ジョギング、水泳、ジム通いに余念がない。
そんな茂にそっとよりそう妻。
二人の姿はどこから見ても、仲のいい親子だった。
美咲は茂に生きる喜びを与えてくれた。茂は美咲に、これまで味わったことのない情熱と愛を与えてくれた。
二人で植えた、真っ赤なサルビア、インパチェンス。黄色とオレンジのマリーゴールド。
白い柏葉紫陽花。青いイソトマ、アガパンサス、ブルーサルビア。
青々としたハーブが香りを添える。
茂の家の小さな庭は今が盛りと彩られていく。
いたずらっぽく、ホースの水で虹を作る茂は、まるで小学生のように生き生きしていた。
「茂さん」
「美咲さん」
仲睦まじく呼び合う声は、この世の楽園のようで見るからにほほえましい。
若葉の木漏れ日は、きらきらと降り注ぎ明るい未来を連れてくる。
この頃の二人は、知らない人が見ても、本当に幸せそうだった。
3. 燃え盛る炎
しかし、二人の幸せは長くは続かなかった。1年もした頃だろうか、美咲は病に倒れ、入院生活を余儀なくされる。茂は毎日病院に通い、美咲を献身的に看病する。
茂と美咲が知り合ったときには、すでにステージ4のすい臓がんだった。
二人が知り合って間もないころ、仕事上がりの美咲が痛みでうずくまっているところに通りかかり、救急車を呼んだことがあった。救急車に同乗して、病院まで付き添ったことで茂と美咲は急激に親しくなっていったのだ。
親も子もない美咲を心配して、茂は結婚を申し出たのだ。
美咲の病状は悪化していく。茂は絶望に打ちひしがれるが、それでも美咲への愛情は決して変わることはなかった。
4. 灰と余韻
美咲は、どんどんやせ細っていく。
痛みは、神経ブロックをしてあまり感じることがないようにしてもらっていた。
献身的に、美咲の介護をする茂に、美咲は心から感謝する。
介護の知識もない茂には、美咲の終末をみとる自信がなかった。
終末ターミナルケアは介護の資格がある人でさえ過酷である。
『否認』『怒り』『取引』『抑うつ』『需要』
5つの交差する感情をたどって『死を受け入れる』。
人生の総決算。
患者だけではなく、家族も同様のプロセスをたどっていく。
「ありがとう、茂さん」
るい痩であっという間にやせ細っていく美咲の手を優しく何度も撫でていく。
「何か食べたいものはないか?」
「とんかつ」
「そば」
初めは、半分くらいは食べられていたのに日増しに食欲は減退していく。
食べて嘔吐することさえ、増えていく。
日を追うごとに死が追い付いてくる。
「そうね、アメリカンチェリーを少し」
スーパーに行き、アメリカンチェリーを買ってきても、3つくらい食べただけで
「ありがとう、もういいわ」
「他に食べれそうなものはないか?」
「ハーゲンダッツのバニラのアイス」
寂しそうに笑う美咲に、カップのアイスを差し出すと
「ありがとう、もういいわ」
一口だけ食べて、ふたを閉めてしまう。
どんどん何も食べれなくなっていく。
搾りたてのレモンに蜂蜜を入れて、ミネラルで割って渡すと、
「おいしいわ」
それだけは、最後まで飲み干す。
そんな美咲を見ていると、茂は涙が止まらなくなりそうになって
「トイレに行ってくる」
と、病室を出ていく。
美しい張りのある肌は、見るも無残にやせ衰えて血管が浮き出ていく。
『がん』の前では、人間の意思などないにも等しいことを見せつけられていく。
これでもかというほど、何もできない自分に腹が立っていく。
「なんて、無力なんだ!!」
軽率な励ましに聞こえる言葉は避けたほうが良いと主治医から事前に注意を受けている。
だから、励ましの言葉さえかけられない。
茂のお得意の座右の銘
大丈夫
君はきっとうまくいく
言葉だけがからからと音を立てて空回りしていく。
手足をさするが、どんどん冷たくなって青く斑点さえできていく。
「くそっ泣いた顔など見せたくはない」
せめて、最後まで笑顔で見送ってやりたい。
痛みや苦しみを感じているのだったら、早く楽にしてあげたい。
でも、そうじゃないのなら一日も長く生きていてほしい。
二つの気持ちが行ったり来たり。
二律背反。
そんな日々が何日か続き、美咲の意識はだんだん朦朧としていく。
話しかけても、かすかにうなずくだけで美咲の声を聞くこともさえなくなっていく。
そして、美咲はついに息を引き取った。茂は深い悲しみに沈んでいく。しかし、美咲との思い出は、茂の心に永遠に残る。
美咲との出会いは、茂の人生を大きく変えた。短い間ではあったが、茂は燃え盛る炎のような愛を経験し、充実した日々を送ることができた。
5. 燃え尽きた灰から
茂は美咲との思い出を胸に、静かに余生を過ごしていく。美咲との愛は、茂の心に永遠に残る宝物となった。
茂は、美咲との出会いに感謝し、そして美咲を愛したことを後悔することはなかった。
6. 終章
茂は80歳を迎えた。美咲との死別から10年が経っていた。茂は美咲の面影を胸に、穏やかに日々を過ごしていく。
茂は、美咲との出会いと別れを通して、人生の真髄を学んだ。それは、愛することの尊さ、そして愛する人の大切さだった。
茂は、美咲との思い出を胸に、これからも人生を精一杯生きていくことを決意する。
美咲と植えた花とはほとんどが一年草だったが、アガパンサスやハーブだけは今も生き続けている。
「君に出会えてよかったよ、美咲」
青く花火のように咲き誇るアガパンサスを見つけながら、静かにほほ笑む茂だった。
この小説は、年の差婚という禁断の恋を題材に、愛の尊さと儚さを描いた作品です。
読者の方々に、愛の力強さと、人生の美しさを感じていただければ幸いです。
1. 枯れ葉と炎
70歳の秋を迎えた藤井茂は、長い人生の黄昏をひとり静かに過ごしていた。妻に先立たれ、子供たちにもそれぞれ家庭があり、静寂と孤独が彼の日常を支配していた。
そんなある日、茂は偶然立ち寄ったカフェで、40歳の女性、野村美咲と出会う。美咲は華やかで生命力に溢れ、茂の枯れ葉のような心に炎を灯す。
2. 禁断の恋
年齢差は30歳以上。周囲の反対を押し切って、茂と美咲は結婚する。
30させ頃、40し頃、美咲は女盛りだった。
周囲からは理解されず、嘲笑や非難の言葉が浴びせられる。
「いやねー、お金目当てでしょう?」
「今に満足させられなくて浮気される……」
しかし、二人はそんな声に耳を傾けず、愛し合い続ける。
茂は今まで以上に健康に気を遣い、毎日のラジオ体操、散歩、ジョギング、水泳、ジム通いに余念がない。
そんな茂にそっとよりそう妻。
二人の姿はどこから見ても、仲のいい親子だった。
美咲は茂に生きる喜びを与えてくれた。茂は美咲に、これまで味わったことのない情熱と愛を与えてくれた。
二人で植えた、真っ赤なサルビア、インパチェンス。黄色とオレンジのマリーゴールド。
白い柏葉紫陽花。青いイソトマ、アガパンサス、ブルーサルビア。
青々としたハーブが香りを添える。
茂の家の小さな庭は今が盛りと彩られていく。
いたずらっぽく、ホースの水で虹を作る茂は、まるで小学生のように生き生きしていた。
「茂さん」
「美咲さん」
仲睦まじく呼び合う声は、この世の楽園のようで見るからにほほえましい。
若葉の木漏れ日は、きらきらと降り注ぎ明るい未来を連れてくる。
この頃の二人は、知らない人が見ても、本当に幸せそうだった。
3. 燃え盛る炎
しかし、二人の幸せは長くは続かなかった。1年もした頃だろうか、美咲は病に倒れ、入院生活を余儀なくされる。茂は毎日病院に通い、美咲を献身的に看病する。
茂と美咲が知り合ったときには、すでにステージ4のすい臓がんだった。
二人が知り合って間もないころ、仕事上がりの美咲が痛みでうずくまっているところに通りかかり、救急車を呼んだことがあった。救急車に同乗して、病院まで付き添ったことで茂と美咲は急激に親しくなっていったのだ。
親も子もない美咲を心配して、茂は結婚を申し出たのだ。
美咲の病状は悪化していく。茂は絶望に打ちひしがれるが、それでも美咲への愛情は決して変わることはなかった。
4. 灰と余韻
美咲は、どんどんやせ細っていく。
痛みは、神経ブロックをしてあまり感じることがないようにしてもらっていた。
献身的に、美咲の介護をする茂に、美咲は心から感謝する。
介護の知識もない茂には、美咲の終末をみとる自信がなかった。
終末ターミナルケアは介護の資格がある人でさえ過酷である。
『否認』『怒り』『取引』『抑うつ』『需要』
5つの交差する感情をたどって『死を受け入れる』。
人生の総決算。
患者だけではなく、家族も同様のプロセスをたどっていく。
「ありがとう、茂さん」
るい痩であっという間にやせ細っていく美咲の手を優しく何度も撫でていく。
「何か食べたいものはないか?」
「とんかつ」
「そば」
初めは、半分くらいは食べられていたのに日増しに食欲は減退していく。
食べて嘔吐することさえ、増えていく。
日を追うごとに死が追い付いてくる。
「そうね、アメリカンチェリーを少し」
スーパーに行き、アメリカンチェリーを買ってきても、3つくらい食べただけで
「ありがとう、もういいわ」
「他に食べれそうなものはないか?」
「ハーゲンダッツのバニラのアイス」
寂しそうに笑う美咲に、カップのアイスを差し出すと
「ありがとう、もういいわ」
一口だけ食べて、ふたを閉めてしまう。
どんどん何も食べれなくなっていく。
搾りたてのレモンに蜂蜜を入れて、ミネラルで割って渡すと、
「おいしいわ」
それだけは、最後まで飲み干す。
そんな美咲を見ていると、茂は涙が止まらなくなりそうになって
「トイレに行ってくる」
と、病室を出ていく。
美しい張りのある肌は、見るも無残にやせ衰えて血管が浮き出ていく。
『がん』の前では、人間の意思などないにも等しいことを見せつけられていく。
これでもかというほど、何もできない自分に腹が立っていく。
「なんて、無力なんだ!!」
軽率な励ましに聞こえる言葉は避けたほうが良いと主治医から事前に注意を受けている。
だから、励ましの言葉さえかけられない。
茂のお得意の座右の銘
大丈夫
君はきっとうまくいく
言葉だけがからからと音を立てて空回りしていく。
手足をさするが、どんどん冷たくなって青く斑点さえできていく。
「くそっ泣いた顔など見せたくはない」
せめて、最後まで笑顔で見送ってやりたい。
痛みや苦しみを感じているのだったら、早く楽にしてあげたい。
でも、そうじゃないのなら一日も長く生きていてほしい。
二つの気持ちが行ったり来たり。
二律背反。
そんな日々が何日か続き、美咲の意識はだんだん朦朧としていく。
話しかけても、かすかにうなずくだけで美咲の声を聞くこともさえなくなっていく。
そして、美咲はついに息を引き取った。茂は深い悲しみに沈んでいく。しかし、美咲との思い出は、茂の心に永遠に残る。
美咲との出会いは、茂の人生を大きく変えた。短い間ではあったが、茂は燃え盛る炎のような愛を経験し、充実した日々を送ることができた。
5. 燃え尽きた灰から
茂は美咲との思い出を胸に、静かに余生を過ごしていく。美咲との愛は、茂の心に永遠に残る宝物となった。
茂は、美咲との出会いに感謝し、そして美咲を愛したことを後悔することはなかった。
6. 終章
茂は80歳を迎えた。美咲との死別から10年が経っていた。茂は美咲の面影を胸に、穏やかに日々を過ごしていく。
茂は、美咲との出会いと別れを通して、人生の真髄を学んだ。それは、愛することの尊さ、そして愛する人の大切さだった。
茂は、美咲との思い出を胸に、これからも人生を精一杯生きていくことを決意する。
美咲と植えた花とはほとんどが一年草だったが、アガパンサスやハーブだけは今も生き続けている。
「君に出会えてよかったよ、美咲」
青く花火のように咲き誇るアガパンサスを見つけながら、静かにほほ笑む茂だった。
この小説は、年の差婚という禁断の恋を題材に、愛の尊さと儚さを描いた作品です。
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