いとなみ

奪われる愛

「婚約解消だって？冗談じゃないわよ！」

婚約者であるレイモンド様から突きつけられた言葉に、私は絶句した。まるで悪夢のような展開に、頭の中が真っ白になる。

周囲の貴族たちのざわめきが耳障りだ。同情の言葉、嘲笑、そして悪意。これまで私が築き上げてきたものは、一瞬で崩れ去っていくようだった。

幼い頃から私は、完璧な令嬢として育てられてきた。王太子妃になるために、必要な知識や教養を身につけ、常に周囲に気を配り、完璧な笑顔を演じてきた。

すべては、愛する家族のために、そして将来の王太子妃として、国のために尽くすためだった。

しかし、その全てが無駄になった。レイモンド様は、隣国の王女との結婚を選んだのだ。

「申し訳ない、アリア。君は完璧な女性だが、国の未来のために、王女との結婚が必要なんだ。」

彼の言葉は冷たく、私の心を刺す。これまで注いできた愛情、献身、全てが否定されたような気がした。

悔しさ、怒り、絶望。様々な感情が押し寄せ、涙が溢れ出す。

しかし、私はすぐに顔を上げ、涙を拭った。ここで泣いていては何も変わらない。

「わかりました。婚約解消を受け入れます。」

私は毅然とした態度で彼を見据えた。もう彼に縋るつもりはない。

周囲の貴族たちは、私の態度に驚いた様子だ。誰もが、私が泣き崩れるか、彼に縋りつくと思っていたのだろう。

しかし、私は違う。私はもう、彼に支配される人生とはお別れする。

婚約破棄後、私は王宮を去り、田舎にある小さな領地に身を寄せた。

最初は慣れない生活に戸惑いもあったが、次第に新しい生活に慣れていった。

領民たちと交流し、彼らの生活を支えることに喜びを感じた。自然の中で過ごす時間は、心を癒し、新しい活力を与えてくれた。

そして、何よりも自分自身と向き合う時間ができた。これまで抑えてきた自分の感情、本当の望み。

私は、自分が本当に求めるものは、権力や名声ではなく、愛情と自由であることに気づいた。

ある日、領地に一人の青年が訪ねてきた。彼は、隣国の騎士であり、婚約破棄の噂を聞き、私を励まそうとやって来たのだ。

彼は優しく誠実な人物で、すぐに私たちは惹かれ合い、恋に落ちた。

彼は私の過去を気にせず、私自身を愛してくれた。

彼の愛情に包まれ、私はようやく過去の傷を癒すことができた。

そして、私たちは結婚することを決意した。

結婚式は、領民たちに見守られ、温かく行われた。

王宮での華やかな生活とは違う、素朴な幸せ。

これが、私が本当に求めていた人生だった。

私は、奪われる人生とはお別れし、自分自身の力で幸せを掴んだ。

これからも、愛する人と共に、この領地で平穏な暮らしを送っていく。

そして、いつか訪れるであろう子供たちには、私が学んだことを伝え、本当の幸せとは何かを教えていきたい。

幸せの始まり
結婚後、夫のダニエルと私は、領地で充実した日々を送っていた。

領民たちと協力して農作物の収穫量を増やし、医療制度を整え、子供たちの教育に力を注いだ。

ダニエルは、私の良き理解者であり、支えであった。彼は私の意見を尊重し、常に私の隣にいてくれた。

彼の愛情に包まれ、私は自信を取り戻し、自分自身を愛せるようになった。

ある日、私は妊娠していることに気づいた。

新しい命を授かる喜びは、何物にも代え難い。

ダニエルも父親になることを喜んでいた。

私たちは、生まれてくる子供のために、温かい家庭を築いていくことを誓った。

数ヶ月後、無事に女の子が誕生した。

私たちは、彼女に「アリア」という名前をつけた。

私の名前を受け継ぎ、強く、優しく、自分自身の人生を歩んでいく女性になってほしいという願いを込めて。

アリアは、日に日に成長していく。

彼女の笑顔を見るたびに、私は幸せで心が満たされる。

彼女が将来、どのような人生を送っていくのか、今から楽しみだ。

私のように、誰かに支配される人生ではなく、自分自身の力で幸せを掴んでほしい。

私は、彼女にそう教えるつもりだ。

そして、いつの日か、彼女が自分の道をを見つけ、愛する人と共に幸せな家庭を築くことを願っている。

未来への希望
領地での生活は、決して華やかではない。

しかし、そこには心の豊かさがある。

愛する人と共に、自分の手で幸せを築いていく。

それが、私が求めていた人生だった。

これからも、私はこの領地で、家族と共に平穏な暮らしを送っていく。

そして、いつか訪れるであろう未来に、希望を抱きながら。