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幸せになりたい されたられた女
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「されたられた女」は、幸せになれない。
何故なら、彼女たちは可哀想な被害者に酔っているから。
わたしの名前は、山本 博美。30歳の介護士です。
今日はわたしの30歳の誕生日。
あ~あ、同棲10年、とうとうプロポーズされることもなく
おばさんになってしまった。
一緒に住み始めた時は、てっきり、できちゃった婚になるのかなと
期待していたのにな~。
女の盛りが過ぎても生きていかなきゃいけない。
戸籍上独身として……。
親の言うことを素直に聞いていればよかったのかな。
「結婚はすべての人の間で誉れあるものとされるべきです。
また結婚の床は汚れのないものとすべきです。
神は淫行の者や姦淫を行なう者を裁かれるからです」
ヘブライ13章4節
珍しくわたしは、ここ10年の生活を省みて、
少し落ち込んでいた。
でも、思いを変えて今日は彼がレストランで誕生日をお祝いしてくれると言っていたから
ひょっとしたら、うんうん、サプライズで婚約指輪を渡されてプロポーズ。
「長いこと待たせたね。結婚してください」
な~んてね。って想像して、ニマニマしてしまう。
うふふふ。なんて、返事しようかな。
すなおに
「はい」
っていえばいいのかな。
わたしきっと、嬉しくて泣いちゃうだろうな。
えへへへ。しあわせだな~。
たのしみだな~。
美容室に行って、髪を整えて、ネイルもしてもらって
いざ、ステージへ。
10年くらいたった時、子供に
「どんな風にプロポーズされたの?」
って聞かれるかもだから、しっかり心に刻んでおこう。
今から考えれば、頭の中お花畑だったのよね。
勝手に期待しちゃってたのよね。
この10年間、毎年毎年、今年こそ、今度こそって……。
今までだってそんなことは起きなかったんだから、
今度だって、そんなことはあり得ないって考えるべきだったのかもしれない。
同級生たちがどんどん結婚していく中で、
わたしも勝っ手にレールに乗ろうとしていたのよね。
人生って思い込みでできている。
ドレスコードありのお店だったら入店できないこともあるからと
きちんとパンプスを履き、柔らかなAラインのワンピースをまとった。
待ちに待った晴れ舞台。
うきうきがとまらない。
毎日毎日、仕事と家事の繰り返しの中でどんどん私は干からびていった。
彼の名前は森 直樹(30歳)
二人は高校からの同級生だった。
家族の反対を押し切って、20歳の時に同棲を始めて早いものでもう10年。
二人とも仕事が忙しくて、一緒に旅行に行くこともなくなっていった。
「結婚って、我慢の塊よね」
いつしか、わたしはそう自分に言い聞かせるようになった。
でも、今日はきっと違う。
10年なのだから。
結婚していれば、「錫婚式」
スイートテンとは、結婚10周年の記念日に妻へ10石のダイヤモンドや
1.0カラットのダイヤモンドを贈る風習。
それくらい大切な節目。
きっと、心に残るいい日になる。
えへへへ。
足取りも軽く、予約したレストランへと向かう。
ところが、彼は普段着で現れた。
ネクタイもしてない普通のポロシャツ。
コットンパンツ。
おまけにスニーカー。
「はー?」
そして、淡々と運ばれてくるお料理に舌鼓を打つ。
ケーキくらいはホールの…。
ロウソク立てて…。
あれっ?普通のチーズケーキにブルーベリーがのっかったやつ。
「?」
「ごめん、ごめん、バースディケーキ注文するの忘れたんだ」
(おいっ、それ大事だろう?)
でー、食べ終わって、何事もなかったかのように
「30歳の誕生日、おめでとう。美味かったな。さぁ、帰ろうか」
(えええええええ?)
「これだけ?」
思わずわたしは口に出てしまった。
直樹は鳩が豆でっぼうでも食らったような素っ頓狂な声で
「えええ?なにいってんだよ。ちゃんと予約してお祝いしただろう?」
「バースデーケーキもなかった」
うつむくわたしに、めんどくさそうに
「俺たち、そういう仲じゃないだろう?プロポーズでもされると思った?」
投げ出すように浴びせてくる配慮のない言葉。
そりゃあ、確かに最近は、セックスレスに近いんだけど……。
褥さえ共にすることはなくなって、別々に寝ていることが多いのだけど……。
だって、それは直樹の歯ぎしりといびきがうるさいから……。
目が潤んでくる。
鼻水が出てくる。
わたしのばかばかばかー。
「なにも30過ぎのアラサーの色気もない女に今更プロボースはないだろう?」
(ちょ、信じられないような言葉)
(わたしの10年間を返してよー)
耳はふさがれ、目は視野が狭くなり、
息が荒くなる。
わたしはそのままレストランを飛び出し、荷物をまとめて実家へと帰った。
(なんなのいったい。)
わたしはいいように利用されたのだ。
家政婦の代わりに家事をやらされ、介護までしてきたのに……。
ああ、わたしはなんて不幸なんだ。
ひどい扱いをされた、ふられた…。
されたられた女になってしまった。
実家についたわたしは、玄関のチャイムを鳴らした。
優しく受け入れてくれるだろうと期待していた。
娘がボロボロになって帰ってきたのだから……。
あれから10年もたっているのだから…。
ところが、インターホン越しに返ってきた言葉は、
「排斥になった娘を家に入れるわけにはいかないんだよ」
父はわたしを家には上げてくれなかった。
両親からの助言にもクリスチャン会衆の長老たちとの話し合いも
頑なに拒否し、直樹と結婚もしないまま同棲生活を続けた結果だった。
淫行を犯したのだ。
キリストの時代なら、石打の刑になる罪。
しかも、それを悔い改める気持ちもない。
当然のように、話を聞いてくれることもなかった。
仕方なくわたしは、介護の会社が経営しているグループホームへと向かった。
そこで責任者と話し、しばらくの間、そこから仕事に向かってもいいと許可してもらった。
(ああ、愛する人からも疎まれ両親からも拒否されて、なんてかわいそうなわたし)
びちょびちょと梅雨の雨が音を立てて弾ける。
雨が止む事なんて一生ないような気がする。
何故なら、彼女たちは可哀想な被害者に酔っているから。
わたしの名前は、山本 博美。30歳の介護士です。
今日はわたしの30歳の誕生日。
あ~あ、同棲10年、とうとうプロポーズされることもなく
おばさんになってしまった。
一緒に住み始めた時は、てっきり、できちゃった婚になるのかなと
期待していたのにな~。
女の盛りが過ぎても生きていかなきゃいけない。
戸籍上独身として……。
親の言うことを素直に聞いていればよかったのかな。
「結婚はすべての人の間で誉れあるものとされるべきです。
また結婚の床は汚れのないものとすべきです。
神は淫行の者や姦淫を行なう者を裁かれるからです」
ヘブライ13章4節
珍しくわたしは、ここ10年の生活を省みて、
少し落ち込んでいた。
でも、思いを変えて今日は彼がレストランで誕生日をお祝いしてくれると言っていたから
ひょっとしたら、うんうん、サプライズで婚約指輪を渡されてプロポーズ。
「長いこと待たせたね。結婚してください」
な~んてね。って想像して、ニマニマしてしまう。
うふふふ。なんて、返事しようかな。
すなおに
「はい」
っていえばいいのかな。
わたしきっと、嬉しくて泣いちゃうだろうな。
えへへへ。しあわせだな~。
たのしみだな~。
美容室に行って、髪を整えて、ネイルもしてもらって
いざ、ステージへ。
10年くらいたった時、子供に
「どんな風にプロポーズされたの?」
って聞かれるかもだから、しっかり心に刻んでおこう。
今から考えれば、頭の中お花畑だったのよね。
勝手に期待しちゃってたのよね。
この10年間、毎年毎年、今年こそ、今度こそって……。
今までだってそんなことは起きなかったんだから、
今度だって、そんなことはあり得ないって考えるべきだったのかもしれない。
同級生たちがどんどん結婚していく中で、
わたしも勝っ手にレールに乗ろうとしていたのよね。
人生って思い込みでできている。
ドレスコードありのお店だったら入店できないこともあるからと
きちんとパンプスを履き、柔らかなAラインのワンピースをまとった。
待ちに待った晴れ舞台。
うきうきがとまらない。
毎日毎日、仕事と家事の繰り返しの中でどんどん私は干からびていった。
彼の名前は森 直樹(30歳)
二人は高校からの同級生だった。
家族の反対を押し切って、20歳の時に同棲を始めて早いものでもう10年。
二人とも仕事が忙しくて、一緒に旅行に行くこともなくなっていった。
「結婚って、我慢の塊よね」
いつしか、わたしはそう自分に言い聞かせるようになった。
でも、今日はきっと違う。
10年なのだから。
結婚していれば、「錫婚式」
スイートテンとは、結婚10周年の記念日に妻へ10石のダイヤモンドや
1.0カラットのダイヤモンドを贈る風習。
それくらい大切な節目。
きっと、心に残るいい日になる。
えへへへ。
足取りも軽く、予約したレストランへと向かう。
ところが、彼は普段着で現れた。
ネクタイもしてない普通のポロシャツ。
コットンパンツ。
おまけにスニーカー。
「はー?」
そして、淡々と運ばれてくるお料理に舌鼓を打つ。
ケーキくらいはホールの…。
ロウソク立てて…。
あれっ?普通のチーズケーキにブルーベリーがのっかったやつ。
「?」
「ごめん、ごめん、バースディケーキ注文するの忘れたんだ」
(おいっ、それ大事だろう?)
でー、食べ終わって、何事もなかったかのように
「30歳の誕生日、おめでとう。美味かったな。さぁ、帰ろうか」
(えええええええ?)
「これだけ?」
思わずわたしは口に出てしまった。
直樹は鳩が豆でっぼうでも食らったような素っ頓狂な声で
「えええ?なにいってんだよ。ちゃんと予約してお祝いしただろう?」
「バースデーケーキもなかった」
うつむくわたしに、めんどくさそうに
「俺たち、そういう仲じゃないだろう?プロポーズでもされると思った?」
投げ出すように浴びせてくる配慮のない言葉。
そりゃあ、確かに最近は、セックスレスに近いんだけど……。
褥さえ共にすることはなくなって、別々に寝ていることが多いのだけど……。
だって、それは直樹の歯ぎしりといびきがうるさいから……。
目が潤んでくる。
鼻水が出てくる。
わたしのばかばかばかー。
「なにも30過ぎのアラサーの色気もない女に今更プロボースはないだろう?」
(ちょ、信じられないような言葉)
(わたしの10年間を返してよー)
耳はふさがれ、目は視野が狭くなり、
息が荒くなる。
わたしはそのままレストランを飛び出し、荷物をまとめて実家へと帰った。
(なんなのいったい。)
わたしはいいように利用されたのだ。
家政婦の代わりに家事をやらされ、介護までしてきたのに……。
ああ、わたしはなんて不幸なんだ。
ひどい扱いをされた、ふられた…。
されたられた女になってしまった。
実家についたわたしは、玄関のチャイムを鳴らした。
優しく受け入れてくれるだろうと期待していた。
娘がボロボロになって帰ってきたのだから……。
あれから10年もたっているのだから…。
ところが、インターホン越しに返ってきた言葉は、
「排斥になった娘を家に入れるわけにはいかないんだよ」
父はわたしを家には上げてくれなかった。
両親からの助言にもクリスチャン会衆の長老たちとの話し合いも
頑なに拒否し、直樹と結婚もしないまま同棲生活を続けた結果だった。
淫行を犯したのだ。
キリストの時代なら、石打の刑になる罪。
しかも、それを悔い改める気持ちもない。
当然のように、話を聞いてくれることもなかった。
仕方なくわたしは、介護の会社が経営しているグループホームへと向かった。
そこで責任者と話し、しばらくの間、そこから仕事に向かってもいいと許可してもらった。
(ああ、愛する人からも疎まれ両親からも拒否されて、なんてかわいそうなわたし)
びちょびちょと梅雨の雨が音を立てて弾ける。
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