いとなみ

春秋花壇

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加齢臭

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 小満から芒種へ。

万物が次第に成長して、一定の大きさに達して来るころを

二十四節気では小満というらしい。

そして、芒(のぎ 、イネ科植物の果実を包む穎(えい)

すなわち稲でいう籾殻にあるとげのような突起)を

持った植物の種をまくころを芒種というのだそうだ。

(とっくに田植えなんて終わってるのに……)

暦に疎い俺は、持ち前の反抗的精神を示し、

素直に書かれていることを把握するのではなく、

否定しようとしてしまう。

人間て本当に面白い。

同じ間取りの家を買っても、

しばらくたつとその人らしい家に変わっていくのだから……。

俺の名前は、佐藤淳。45歳。

妻 仁美(ひとみ)。39歳。

長女 里佳(りか)。15歳。

3人暮らしだ。

結婚して17年の時が流れた。

最近、娘の様子がおかしい。

中二病も無事に終わり、新しい家も購入して

幸せな家庭生活を思い描いていた。

小さな頃の里佳は、パパっこで、

「大きくなったらパパのお嫁さんになるの」

と、ひらひらしながら可愛い笑顔を浮かべていたのに、

何時の間にか言葉も粗野で、

「臭いからあっちに行ってよ」

「洗濯物は一緒に洗わないで」

「パパの入ったお風呂には入りたくない」

と、お風呂のお湯を抜いてしまう。

ああ……。

問題が起きているのに、対処しようとしなかった。

日伸ばしにして、時が解決してくれるのを待ったのが間違いだった。

妻と里佳の言動について何度も話し合ったが、

「反抗期なんでしょう」

「そのうち、なおるわよ」

と、対処しなかった。

そして、新型感染症のリモートワークも手伝って、最近では

「ATMは、別居して養育費だけ入れてくれればいいのに」

とまでほざくようになってしまったのだ。

娘だけではない。

妻とも何年もセックスレスなのだ。

「もう、私たちそんな関係じゃないでしょう」

と、言われてしまった。

そして、最近では外食さえ一緒に行くことはなく、

妻と里佳の二人で出かけてしまうのだった。

俺はだんだん家に帰るのが苦痛になっていった。

四十肩も始まり、夜中寝ていても肩がうずくように痛い。

余りの痛さに呻くくらいだ。

会社の同僚の竹内君の娘さんと奥さんは、

同じような肩の痛みに対して、優しくシップを張ってくれたり、

なでてくれたり、ストレッチを手伝ってくれたりするという。

(は~、うらやましい…)

俺はなさなくて、悲しくて一体何のために家庭を持ったのか

何のために生きているのかとアンニュイ(仏:ennui)な気持ちに

満たされていった。

今日は本当に家にいるのが嫌で、夜中公園で一人ぽつんとベンチに座り、

今にも泣きだしそうな空を眺めていた。

厚く雲に覆われた空は、俺の心を余計に重くしていく。

(情けない奴だよな、家庭さえ収められないなんて…)

(こんなんだから、役職が上がっても部下の面倒さえ見れない)

俺はどんどん自分を責めさいなんでいく。

この現状をありのままに受け取り、問題解決に向けて

ポジティブに改善点を探すなんて事は出来ないでいるのだ。

天からぽつりぽつりと雨が落ちてくる。

泣きたいのに泣けない俺を慈しむように……。

「おじさん、濡れちゃうよ」

ふと見ると、髪の長い23.4歳の娘さんが俺の前に立っていた。

「いいんだ。おれなんか新型感染症で死んでも誰も悲しむ人なんていない…」

ぽつりとつぶやいてしまう。

「雨に濡れて死ぬなんて今時…。おじさん、よっぽど不幸が好きなんだね」

と、大笑いされてしまった。

(なんだこいつ)

(せっかく俺が浸っていたのに……)

くったくのない美しい笑い顔に心の行き場を失ってしまう。

「こんな夜中に若い娘さんが、危ないじゃないか」

というと、

「家のカギを落としてしまったの」

と、肩をすくめていたずらっ子のように答える。

底抜けの明るさがわざと電気をつけてないで暗がりに溺れている

俺の心を照らし始める。

(不幸が好きか……)

(そうだな。いやだったら何か手を打つよな)

「明日になったら、大家さんにカギを借りるの」

と、今度は真面目な顔で答えた。

「おじさん、ここにいたら濡れちゃうから一緒にファミレスに行かない?」

「まぁ、いいけど」

「もちろん、おじさんのおごりで…」

(人懐っこい子だな)

夕飯も食べていない俺は、小腹も空いていた。

ピザとほうれん草のバター炒め、小エビのサラダ、辛みチキンを注文した。

「グッドチョイス」

彼女は、とっても美味しそうにピザを頬張っている。

屈託のない笑顔に俺はいつしか自分の今の家庭の状況をこの年若い娘に話していた。

「私の名前は、叶(かなえ)」

「今は無職」

「えええ、どうやって生活してるの?」

「職探しはしてるんだけどね」


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