いとなみ

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
421 / 1,529

ばっかじゃないの

しおりを挟む
畳につきたてられた出刃包丁が蛍光灯の光を受け、きらりと光る。

真っ裸にされたわたしは、余りの恐ろしさに震えあがっていた。

そう、ここはとあるヤクザの組事務所。

強面のお兄さんたちが4.5人たむろしていた。

私を脅してきているのは、「やっちん」とみんなから呼ばれるイケメンの男だった。

わたしは、親の勤務する病院がある広島から帰って来たばかりでこの男に捕まってしまった。

こいつまじやばい。

本気なんだと気が付いた時には遅かった。

歌舞伎町の雑踏のよくある一夜の戯れでは終わらないと思った私は、必死で広島へと逃げた。

一つ下の大学に通っている弟から広島に電話があり、何度も何度もやっちんが私のマンションに尋ねてきている事を聞いた。たった一回のしかも、アルコールによるブラックアウト中に起きたアバンチュールに何故ここまで大ごとになるのか理解できなかった。

とりあえず、弟が危ないから父と相談し東京のマンションに戻った。

まるで、私がやっちんの女でもあるかのような扱い。

なんなんだよー。

事務所に連れていかれた私は、散々罵られ、脅され、裸にされて風呂場で頭から水を掛けられた。

そして、冒頭の出刃包丁で脅される。

弟を守る為に、覚悟を決めて戻って来たから本当はこれくらいの事予想はしてたんだけど、

なんせ、蚤の心臓ですから、やっぱり怖い。

「おれのマジにしようと思ったんだ」

(そんなのあんたの勝手な思い込みでしょう)

(何で凌ぎも出来ない男の妻にならなきゃいけないのよ)

(この男とならどんな苦労もしていけると思う人しか一緒になるつもりはないの)

わたしの心の中は、自分がどうしたいのか自問自答している。

(ああ、このまま殺されて東京湾に浮かぶのか)

まさに俎板の鯉。

さあさあ、はっきりかたを付けてよ。

水を掛けられた寒さで歯の音も会わない程、ガタガタ震えている。

それに自分の女房にする女をみんなの前で裸にするような男、絶対に嫌。

そう、心に決めた時

彼は優しく、

「寒いのか?」

と聞いた。

私はわざとか細く、

「うん」と小さくうなづく。

「ほれ、これでも飲んであったまれ」

ウイスキーのかくびん。

(達磨の方がよかったな)

(できたら、バランタイン 30年ものとか)

死ぬかもしれないというのに、ぜいたくな…・・・

琥珀色の詰めたい液体は、舌に絡まり

ポーションのように精気を与えてくれる。

そう、私はお酒が入ると人格が変わる。

怖い物はなくなるのだ。

両頬に広がる金色のほほえみ。

寒さと恐怖におののいたひと時が俺TUEEEE!!に変わる。

熱い液体が口の中一杯に拡がり、喉を流れていく。

ここに食道がここに胃がありますというように五臓六腑にしみわたる。

ねえ、やっちん、あんた私を殺そうとしたんだよね。

婚約したわけでも、付き合ってたわけでもないのに

どうしてこんなことになったのかいまだにわけわかめ。

世にも不思議な物語でした。

殺したいほど愛してくれて

ありがとう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

干物女を圧縮してみた

春秋花壇
現代文学
部屋が狭くなってきた わたしは自分を圧縮してみた

妻と愛人と家族

春秋花壇
現代文学
4 愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず, 5 下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 6 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 7 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。 8 愛は決して絶えません。 コリント第一13章4~8節

処理中です...