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ばっかじゃないの
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畳につきたてられた出刃包丁が蛍光灯の光を受け、きらりと光る。
真っ裸にされたわたしは、余りの恐ろしさに震えあがっていた。
そう、ここはとあるヤクザの組事務所。
強面のお兄さんたちが4.5人たむろしていた。
私を脅してきているのは、「やっちん」とみんなから呼ばれるイケメンの男だった。
わたしは、親の勤務する病院がある広島から帰って来たばかりでこの男に捕まってしまった。
こいつまじやばい。
本気なんだと気が付いた時には遅かった。
歌舞伎町の雑踏のよくある一夜の戯れでは終わらないと思った私は、必死で広島へと逃げた。
一つ下の大学に通っている弟から広島に電話があり、何度も何度もやっちんが私のマンションに尋ねてきている事を聞いた。たった一回のしかも、アルコールによるブラックアウト中に起きたアバンチュールに何故ここまで大ごとになるのか理解できなかった。
とりあえず、弟が危ないから父と相談し東京のマンションに戻った。
まるで、私がやっちんの女でもあるかのような扱い。
なんなんだよー。
事務所に連れていかれた私は、散々罵られ、脅され、裸にされて風呂場で頭から水を掛けられた。
そして、冒頭の出刃包丁で脅される。
弟を守る為に、覚悟を決めて戻って来たから本当はこれくらいの事予想はしてたんだけど、
なんせ、蚤の心臓ですから、やっぱり怖い。
「おれのマジにしようと思ったんだ」
(そんなのあんたの勝手な思い込みでしょう)
(何で凌ぎも出来ない男の妻にならなきゃいけないのよ)
(この男とならどんな苦労もしていけると思う人しか一緒になるつもりはないの)
わたしの心の中は、自分がどうしたいのか自問自答している。
(ああ、このまま殺されて東京湾に浮かぶのか)
まさに俎板の鯉。
さあさあ、はっきりかたを付けてよ。
水を掛けられた寒さで歯の音も会わない程、ガタガタ震えている。
それに自分の女房にする女をみんなの前で裸にするような男、絶対に嫌。
そう、心に決めた時
彼は優しく、
「寒いのか?」
と聞いた。
私はわざとか細く、
「うん」と小さくうなづく。
「ほれ、これでも飲んであったまれ」
ウイスキーのかくびん。
(達磨の方がよかったな)
(できたら、バランタイン 30年ものとか)
死ぬかもしれないというのに、ぜいたくな…・・・
琥珀色の詰めたい液体は、舌に絡まり
ポーションのように精気を与えてくれる。
そう、私はお酒が入ると人格が変わる。
怖い物はなくなるのだ。
両頬に広がる金色のほほえみ。
寒さと恐怖におののいたひと時が俺TUEEEE!!に変わる。
熱い液体が口の中一杯に拡がり、喉を流れていく。
ここに食道がここに胃がありますというように五臓六腑にしみわたる。
ねえ、やっちん、あんた私を殺そうとしたんだよね。
婚約したわけでも、付き合ってたわけでもないのに
どうしてこんなことになったのかいまだにわけわかめ。
世にも不思議な物語でした。
殺したいほど愛してくれて
ありがとう。
真っ裸にされたわたしは、余りの恐ろしさに震えあがっていた。
そう、ここはとあるヤクザの組事務所。
強面のお兄さんたちが4.5人たむろしていた。
私を脅してきているのは、「やっちん」とみんなから呼ばれるイケメンの男だった。
わたしは、親の勤務する病院がある広島から帰って来たばかりでこの男に捕まってしまった。
こいつまじやばい。
本気なんだと気が付いた時には遅かった。
歌舞伎町の雑踏のよくある一夜の戯れでは終わらないと思った私は、必死で広島へと逃げた。
一つ下の大学に通っている弟から広島に電話があり、何度も何度もやっちんが私のマンションに尋ねてきている事を聞いた。たった一回のしかも、アルコールによるブラックアウト中に起きたアバンチュールに何故ここまで大ごとになるのか理解できなかった。
とりあえず、弟が危ないから父と相談し東京のマンションに戻った。
まるで、私がやっちんの女でもあるかのような扱い。
なんなんだよー。
事務所に連れていかれた私は、散々罵られ、脅され、裸にされて風呂場で頭から水を掛けられた。
そして、冒頭の出刃包丁で脅される。
弟を守る為に、覚悟を決めて戻って来たから本当はこれくらいの事予想はしてたんだけど、
なんせ、蚤の心臓ですから、やっぱり怖い。
「おれのマジにしようと思ったんだ」
(そんなのあんたの勝手な思い込みでしょう)
(何で凌ぎも出来ない男の妻にならなきゃいけないのよ)
(この男とならどんな苦労もしていけると思う人しか一緒になるつもりはないの)
わたしの心の中は、自分がどうしたいのか自問自答している。
(ああ、このまま殺されて東京湾に浮かぶのか)
まさに俎板の鯉。
さあさあ、はっきりかたを付けてよ。
水を掛けられた寒さで歯の音も会わない程、ガタガタ震えている。
それに自分の女房にする女をみんなの前で裸にするような男、絶対に嫌。
そう、心に決めた時
彼は優しく、
「寒いのか?」
と聞いた。
私はわざとか細く、
「うん」と小さくうなづく。
「ほれ、これでも飲んであったまれ」
ウイスキーのかくびん。
(達磨の方がよかったな)
(できたら、バランタイン 30年ものとか)
死ぬかもしれないというのに、ぜいたくな…・・・
琥珀色の詰めたい液体は、舌に絡まり
ポーションのように精気を与えてくれる。
そう、私はお酒が入ると人格が変わる。
怖い物はなくなるのだ。
両頬に広がる金色のほほえみ。
寒さと恐怖におののいたひと時が俺TUEEEE!!に変わる。
熱い液体が口の中一杯に拡がり、喉を流れていく。
ここに食道がここに胃がありますというように五臓六腑にしみわたる。
ねえ、やっちん、あんた私を殺そうとしたんだよね。
婚約したわけでも、付き合ってたわけでもないのに
どうしてこんなことになったのかいまだにわけわかめ。
世にも不思議な物語でした。
殺したいほど愛してくれて
ありがとう。
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