209 / 1,137
失われた風景 無性にゲームに逃げ込みたいとき
しおりを挟む
「ああもう、頭がパニック」
俺は、膝を抱え込んで布団の中にもぐり込む。
ゆきちゃんが、俺の嫁さんになりたいと言ってから
やらなきゃいけないこととやりたいこととできることが
頭の中でごちゃごちゃになって俺をせかす。
まるで、今日が最後の審判のように
「さあさあ、さあさあ、はっきり肩を付けろよ」
と、脅してくるのだ。
俺の名前は、矢次誠一32歳。
ニート歴10年の自宅警備員のプロだ。
ゆきちゃんはまだ14歳だよ。
なにを焦ってるんだ俺は。
少しでも動けるようになったことを引きこもりから脱出できている事を感謝するんだ。
と言い聞かせても、先取りの不安でいてもたってもいられなくなる。
まるで、おふくろの不安神経症みたいに
起こるかどうかも分からないことで頭がいっぱいになる。
危惧
疑惧
憂虞
不安
懸念
憂懼
惧れる
怖る
だーー。すすのように真っ黒くろすけが増えて行く。
あげくにはやし立てる。
どんだけ俺が役立たずなのか、もう取り返しがつかないみたいに責め立てる。
「やーいやーい」
と、はやしたてる。
ふん、どうせ、無能さ。
こんな時、ゲームをすれば偽りの達成感が味わえる。
勇者になれる。
ゲームの中の俺は、ちゃんと金も稼げる。
そこそこ強くなれる。
でも、解ってるよな。
バーチャルの世界に逃げ込めば逃げ込むほど、
現実世界とギャップができる。
血反吐吐くほどの苦しみを通して、謙虚さを身に着けようとしているのに
傲慢の風船を膨らませて、自己肯定感、自己効力感の低さを誤魔化そうとする。
こんな時は狂った頭で考えるな。
体で感じろ。
布団から這うようにして抜け出し、縄跳びをする。
YouTubeのラジオ体操第一、二、首を丁寧に行う。
布団を干し、水風呂を浴びる。
ふーーー。
夏らしい青い空に眩しいくらいの積乱雲。
うるさいくらいの蝉しぐれ。
時折、さわやかな風が渡りそよぐ稲の緑の苗。
子供の頃から何も変わらないこの風景を見ても
心躍らないのは、俺が大人になったせいなのだろう。
畑から万能ねぎと紫蘇をとってきて、そうめんをゆでる。
卵をカップに割り入れる。 直径16cm位の鍋にお湯を沸かし、酢、塩を入れる。
火を止めてお湯をぐるぐるとかき回して渦を作り、中央に卵をそっと落とす。
卵が鍋の中央に集まったら、弱火で4分加熱する。 卵は勝手に寄ってくるので、触らないようにする。
卵がかたまったら冷水に取り、水気をきって器に盛る。
ポーチドエッグの出来上がり。
トマトをくし形切りにし、薄く砂糖を塗り、塩を振って冷蔵庫へ。
カボスの代わりに、柚子を採って来て皮をすりおろす。
うーん、いい香り。
やっぱこれだよな。
暑い夏にはそうめん。
だし醤油を冷水で割りすりおろしたしょうがをそえて
「いただきまーす」
ゆきちゃんは、体は結構セクシーなのに味覚はまだまだ子供。
紫蘇やバジルなどの香草はあまり好きではないという。
そういえば、俺も子供の頃、親父が摘んできた芹やフキノトウが苦手だった。
いつのまにか、いついてしまったから黙ってるけど
(これってどうなの?)
中学生と同棲生活?
仕方ないよな。ゆきちゃんのお母さん、何処かに行ったきり帰って来ないんだから。
「おにいちゃん、わたしがいい子じゃないから、
お父さんもお母さんもわたしを捨ててどこかに行っちゃうのかな」
大きな瞳に涙を一杯溜めて、ゆきちゃんはそうめんを食べている手を止めて悲しそうにつぶやく。
「どうしてそう思うんだい?」
「だって、みんないなくなっちゃう…」
「ゆきちゃんがそう思うのなら、そうなのかもしれない。
でも、そうじゃないのかも知れない…」
本当はさ、こういいたいんだよ。
「人は変えられない。変えられるのは自分」
ってね。
でも、まだ俺生き直し始めたばかりだから実力が伴わない。
だから、傍にいる事しかできないんだ。
ごめんよ。
がんばって、美味しいもの食べような。
君が笑ってられるようにするからさ。
俺は、膝を抱え込んで布団の中にもぐり込む。
ゆきちゃんが、俺の嫁さんになりたいと言ってから
やらなきゃいけないこととやりたいこととできることが
頭の中でごちゃごちゃになって俺をせかす。
まるで、今日が最後の審判のように
「さあさあ、さあさあ、はっきり肩を付けろよ」
と、脅してくるのだ。
俺の名前は、矢次誠一32歳。
ニート歴10年の自宅警備員のプロだ。
ゆきちゃんはまだ14歳だよ。
なにを焦ってるんだ俺は。
少しでも動けるようになったことを引きこもりから脱出できている事を感謝するんだ。
と言い聞かせても、先取りの不安でいてもたってもいられなくなる。
まるで、おふくろの不安神経症みたいに
起こるかどうかも分からないことで頭がいっぱいになる。
危惧
疑惧
憂虞
不安
懸念
憂懼
惧れる
怖る
だーー。すすのように真っ黒くろすけが増えて行く。
あげくにはやし立てる。
どんだけ俺が役立たずなのか、もう取り返しがつかないみたいに責め立てる。
「やーいやーい」
と、はやしたてる。
ふん、どうせ、無能さ。
こんな時、ゲームをすれば偽りの達成感が味わえる。
勇者になれる。
ゲームの中の俺は、ちゃんと金も稼げる。
そこそこ強くなれる。
でも、解ってるよな。
バーチャルの世界に逃げ込めば逃げ込むほど、
現実世界とギャップができる。
血反吐吐くほどの苦しみを通して、謙虚さを身に着けようとしているのに
傲慢の風船を膨らませて、自己肯定感、自己効力感の低さを誤魔化そうとする。
こんな時は狂った頭で考えるな。
体で感じろ。
布団から這うようにして抜け出し、縄跳びをする。
YouTubeのラジオ体操第一、二、首を丁寧に行う。
布団を干し、水風呂を浴びる。
ふーーー。
夏らしい青い空に眩しいくらいの積乱雲。
うるさいくらいの蝉しぐれ。
時折、さわやかな風が渡りそよぐ稲の緑の苗。
子供の頃から何も変わらないこの風景を見ても
心躍らないのは、俺が大人になったせいなのだろう。
畑から万能ねぎと紫蘇をとってきて、そうめんをゆでる。
卵をカップに割り入れる。 直径16cm位の鍋にお湯を沸かし、酢、塩を入れる。
火を止めてお湯をぐるぐるとかき回して渦を作り、中央に卵をそっと落とす。
卵が鍋の中央に集まったら、弱火で4分加熱する。 卵は勝手に寄ってくるので、触らないようにする。
卵がかたまったら冷水に取り、水気をきって器に盛る。
ポーチドエッグの出来上がり。
トマトをくし形切りにし、薄く砂糖を塗り、塩を振って冷蔵庫へ。
カボスの代わりに、柚子を採って来て皮をすりおろす。
うーん、いい香り。
やっぱこれだよな。
暑い夏にはそうめん。
だし醤油を冷水で割りすりおろしたしょうがをそえて
「いただきまーす」
ゆきちゃんは、体は結構セクシーなのに味覚はまだまだ子供。
紫蘇やバジルなどの香草はあまり好きではないという。
そういえば、俺も子供の頃、親父が摘んできた芹やフキノトウが苦手だった。
いつのまにか、いついてしまったから黙ってるけど
(これってどうなの?)
中学生と同棲生活?
仕方ないよな。ゆきちゃんのお母さん、何処かに行ったきり帰って来ないんだから。
「おにいちゃん、わたしがいい子じゃないから、
お父さんもお母さんもわたしを捨ててどこかに行っちゃうのかな」
大きな瞳に涙を一杯溜めて、ゆきちゃんはそうめんを食べている手を止めて悲しそうにつぶやく。
「どうしてそう思うんだい?」
「だって、みんないなくなっちゃう…」
「ゆきちゃんがそう思うのなら、そうなのかもしれない。
でも、そうじゃないのかも知れない…」
本当はさ、こういいたいんだよ。
「人は変えられない。変えられるのは自分」
ってね。
でも、まだ俺生き直し始めたばかりだから実力が伴わない。
だから、傍にいる事しかできないんだ。
ごめんよ。
がんばって、美味しいもの食べような。
君が笑ってられるようにするからさ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる