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最高の上司
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俺の名前は、窪田 和博。
中途採用で、この会社に入った。
社長がとてもポジティブな人で、
「心が先、現実が後」
と、ユーチューブの鴨○先生のような発想の人だった。
俺の配属先は、ばりばりの営業部。
明るい未来が待ってるぜ。
と、毎日わくわくしていた。
自分がきらめいていれば、
周りも息づいて見える。
地球がささやきも。
雨の一しずくさえも尊く感じた。
上司の、河本課長もとても気さくな人で、
歓迎パーティーに課長の家でバーベキューをしてくださった。
「窪田君、私はとても喜んでいるんだよ。
君のような素敵な人材が営業部にきてくれて、
これでわが社も安泰だな」
と、僕の承認欲求を満たしてくださる。
本当に、いい会社に入れて俺は幸せ者だ。
「窪田君、奥さんも一緒に連れてくればよかったのに……。家庭は大切にするんだよ」
「はい、課長。」
「確か奥さんは、看護婦さんだったけ」
「そうです。だからなかなかお休みがあわなくて」
「夫婦の時間は大切だからな」
「一年に一回、結婚記念日だけは二人とも都合を付けて
夫婦の時間にしています」
「それはそれは、家庭は礎だからね。
大切にするんだよ。困ったことがあったら、いつでも相談に乗るからね」
「はい、がんばります。ありがとうございます」
こんな感じで、とても気さくな親しみやすい上司だった。
初めは、仕事も会社もとってもうまくいっていた。
天職だと思って、ここにこれたことに心から感謝していた。
ところが、一年くらい過ぎたあたりから、
会社の業績が思わしくない。
トラブルが続き、みんなもだんだん疲れ果てた顔になっていった。
ぴりぴりとした空気は、伝染する。
会社に行くのも、前ほどは楽しくなくなった。
一つ一つを仕上げていけない。
心のおもてなしができない。
「営業は品物を売るんじゃない。
心を売るんだ」
頭ではわかっているけど、相手の求めているものが見えない。
何を一番大切にしているかもわからない。
相手をほめるなら、相手のこだわりに気を止めなきゃいけないのに。
できていたはずの、基本もすっ飛んでいる。
周りを変えようと必死になる。
自分→夫婦→家族→会社→近隣→社会。
なのに、自分の会社を相手の会社を変えようとする。
今から思えば、なんて傲慢なピントのずれた行動なのだが、
自分のめがねが曇っていることにさえ気づかない。
どこをフォーカスしてるんだよ。
当然のように、俺の愚痴も増えて、
深酒をすることも多くなった。
そんなおれを心配して、妻は
「大丈夫?せっかく会社移ったのに」
「そんなことわかってるよ」
つい、返す言葉もきつくなっていく。
あんなにいい上司だと思っていた、河本課長も俺をしかってばかりいる。
くそ、面白くもない。
同僚と一緒に飲みに行っても、以前のような笑顔ではいられなかった。
「なんだよ、せっかく会社移ったのに、
いまにもつぶれそうじゃねえか」
「おいおい、随分不機嫌だな」
「だいたい、河本課長も河本課長だ。
もうちょっと、優しい叱り方してくれてもいいのに」
「課長は課長で、下からつつかれ、上からは業績上げろって
どやされて大変なんだよ」
「そんなことはどこの会社だって同じじゃねえか。
それを旨く折り合いつけるのが上司だろうに」
「実家の親が倒れてしまって、
帰りたいんだけど、奥さんもいい顔しないみたいなんだ」
「ふん、そんなこと知るか」
ずいぶん、言いたい放題に課長の悪口を俺はぼやいていた。
「なあ、もしも俺の親が倒れてしまったら、
仕事やめて一緒に田舎に帰ってくれるか」
と、妻に言うと、
「離婚」
「えええ、まじか」
「嘘よ、でも私も仕事があるから、すぐにはやめられないかもしれない」
「なるほどなー」
「河本課長のことを言っているの?」
「どうして、お前それを……」
「この前、奥さんが病院にこられたときに少しお話をしたの」
「帰るしかないかもしれないって残念そうにおっしゃっていたわ」
「そうか」
課長は課長で、やっぱり大変なんだなと少し同情した。
日本の風物詩、さくらが舞い散る頃。
空は雲ひとつないとってもいいお天気。
爽やかな風が心地よい。
きらきらと輝く太陽は、会社のことなど忘れさせてくれるくらい、
晴れ渡って、さらさらとさくらの花びらが風に舞う。
公園のかもや鳩は淡いピンクのカーテンを堪能するように、
餌をまいてくれるおばあちゃんと戯れている。
シュウカイドウのさくらより少し濃いピンクがすごくかわいい。
山吹の花も咲き乱れ、春の祭典。
俺の陰鬱な心も、少しずつ晴れていった。
「全く人の気も知らないでのんきでいいな」
今日は結婚記念日だ。
なかなか予約の取れないレストランを予約して、
ディナーを楽しむ予定だった。
ところが、昼過ぎにトラブル発生。
パソコンのデーターが何故か消えてしまって、
復旧しなければいけなくなった。
「みんな、大変だろうけど、今日は全員残業でよろしく頼む」
えええええええええ、何でよりによって今日なんだよ。
俺は、自分の運命を呪った。
他の日なら、朝までだろうががんばれる。
でも、今日は、今日だけは……。
どんどん気持ちが落ち込んでいく。
もうすぐ、5時というときに、課長に呼ばれた。
「この封筒を隣の県の○○商事に持っていってほしい。
帰りは直帰でいいから。」
「ええええ、直帰って終電になっちゃうじゃないですか。今日じゃないとだめなんですか」
「ああ、急ぎの大切な用事なんだ。封筒、なくさないように。会社を出たら、中を確認してくれ」
俺は仕方なく、封筒を持って○○商事に向かう。
「馬鹿じゃあるまいし、会社を出たら、袋の中身を確認って、小学生じゃあるまいし」
外は、薄暗くなりかけていて、退社後の人たちでごった返している。
ふと、立ち止まって袋の中身を確認する。
袋のなかには、一枚の紙だけ。
「結婚おめでとう。今日は花でも買って、結婚記念日を楽しんでください」
「課長~~♪」
感謝の倍返しだ!!
中途採用で、この会社に入った。
社長がとてもポジティブな人で、
「心が先、現実が後」
と、ユーチューブの鴨○先生のような発想の人だった。
俺の配属先は、ばりばりの営業部。
明るい未来が待ってるぜ。
と、毎日わくわくしていた。
自分がきらめいていれば、
周りも息づいて見える。
地球がささやきも。
雨の一しずくさえも尊く感じた。
上司の、河本課長もとても気さくな人で、
歓迎パーティーに課長の家でバーベキューをしてくださった。
「窪田君、私はとても喜んでいるんだよ。
君のような素敵な人材が営業部にきてくれて、
これでわが社も安泰だな」
と、僕の承認欲求を満たしてくださる。
本当に、いい会社に入れて俺は幸せ者だ。
「窪田君、奥さんも一緒に連れてくればよかったのに……。家庭は大切にするんだよ」
「はい、課長。」
「確か奥さんは、看護婦さんだったけ」
「そうです。だからなかなかお休みがあわなくて」
「夫婦の時間は大切だからな」
「一年に一回、結婚記念日だけは二人とも都合を付けて
夫婦の時間にしています」
「それはそれは、家庭は礎だからね。
大切にするんだよ。困ったことがあったら、いつでも相談に乗るからね」
「はい、がんばります。ありがとうございます」
こんな感じで、とても気さくな親しみやすい上司だった。
初めは、仕事も会社もとってもうまくいっていた。
天職だと思って、ここにこれたことに心から感謝していた。
ところが、一年くらい過ぎたあたりから、
会社の業績が思わしくない。
トラブルが続き、みんなもだんだん疲れ果てた顔になっていった。
ぴりぴりとした空気は、伝染する。
会社に行くのも、前ほどは楽しくなくなった。
一つ一つを仕上げていけない。
心のおもてなしができない。
「営業は品物を売るんじゃない。
心を売るんだ」
頭ではわかっているけど、相手の求めているものが見えない。
何を一番大切にしているかもわからない。
相手をほめるなら、相手のこだわりに気を止めなきゃいけないのに。
できていたはずの、基本もすっ飛んでいる。
周りを変えようと必死になる。
自分→夫婦→家族→会社→近隣→社会。
なのに、自分の会社を相手の会社を変えようとする。
今から思えば、なんて傲慢なピントのずれた行動なのだが、
自分のめがねが曇っていることにさえ気づかない。
どこをフォーカスしてるんだよ。
当然のように、俺の愚痴も増えて、
深酒をすることも多くなった。
そんなおれを心配して、妻は
「大丈夫?せっかく会社移ったのに」
「そんなことわかってるよ」
つい、返す言葉もきつくなっていく。
あんなにいい上司だと思っていた、河本課長も俺をしかってばかりいる。
くそ、面白くもない。
同僚と一緒に飲みに行っても、以前のような笑顔ではいられなかった。
「なんだよ、せっかく会社移ったのに、
いまにもつぶれそうじゃねえか」
「おいおい、随分不機嫌だな」
「だいたい、河本課長も河本課長だ。
もうちょっと、優しい叱り方してくれてもいいのに」
「課長は課長で、下からつつかれ、上からは業績上げろって
どやされて大変なんだよ」
「そんなことはどこの会社だって同じじゃねえか。
それを旨く折り合いつけるのが上司だろうに」
「実家の親が倒れてしまって、
帰りたいんだけど、奥さんもいい顔しないみたいなんだ」
「ふん、そんなこと知るか」
ずいぶん、言いたい放題に課長の悪口を俺はぼやいていた。
「なあ、もしも俺の親が倒れてしまったら、
仕事やめて一緒に田舎に帰ってくれるか」
と、妻に言うと、
「離婚」
「えええ、まじか」
「嘘よ、でも私も仕事があるから、すぐにはやめられないかもしれない」
「なるほどなー」
「河本課長のことを言っているの?」
「どうして、お前それを……」
「この前、奥さんが病院にこられたときに少しお話をしたの」
「帰るしかないかもしれないって残念そうにおっしゃっていたわ」
「そうか」
課長は課長で、やっぱり大変なんだなと少し同情した。
日本の風物詩、さくらが舞い散る頃。
空は雲ひとつないとってもいいお天気。
爽やかな風が心地よい。
きらきらと輝く太陽は、会社のことなど忘れさせてくれるくらい、
晴れ渡って、さらさらとさくらの花びらが風に舞う。
公園のかもや鳩は淡いピンクのカーテンを堪能するように、
餌をまいてくれるおばあちゃんと戯れている。
シュウカイドウのさくらより少し濃いピンクがすごくかわいい。
山吹の花も咲き乱れ、春の祭典。
俺の陰鬱な心も、少しずつ晴れていった。
「全く人の気も知らないでのんきでいいな」
今日は結婚記念日だ。
なかなか予約の取れないレストランを予約して、
ディナーを楽しむ予定だった。
ところが、昼過ぎにトラブル発生。
パソコンのデーターが何故か消えてしまって、
復旧しなければいけなくなった。
「みんな、大変だろうけど、今日は全員残業でよろしく頼む」
えええええええええ、何でよりによって今日なんだよ。
俺は、自分の運命を呪った。
他の日なら、朝までだろうががんばれる。
でも、今日は、今日だけは……。
どんどん気持ちが落ち込んでいく。
もうすぐ、5時というときに、課長に呼ばれた。
「この封筒を隣の県の○○商事に持っていってほしい。
帰りは直帰でいいから。」
「ええええ、直帰って終電になっちゃうじゃないですか。今日じゃないとだめなんですか」
「ああ、急ぎの大切な用事なんだ。封筒、なくさないように。会社を出たら、中を確認してくれ」
俺は仕方なく、封筒を持って○○商事に向かう。
「馬鹿じゃあるまいし、会社を出たら、袋の中身を確認って、小学生じゃあるまいし」
外は、薄暗くなりかけていて、退社後の人たちでごった返している。
ふと、立ち止まって袋の中身を確認する。
袋のなかには、一枚の紙だけ。
「結婚おめでとう。今日は花でも買って、結婚記念日を楽しんでください」
「課長~~♪」
感謝の倍返しだ!!
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