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失われた風景 草刈り
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「草刈り機があったら少しは楽なのかな?」
家の前の庭の端っこも何日か雨が降ると鬼のように雑草が伸びてくる。
みんなの話を聞いてから、注文してもいいよな。
農協で買うのがいいのか、ネットで買うのかもわからないし。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥である。
今日は俺の住む集落の草刈り。
過疎なのに、結構集い合うことが多い。
俺が住んでいた子供の頃は、12軒の家に人が住んでいた。
しかもどこの家にも子供が何人もいた。
草刈りの日は、お祭りみたいににぎやかで楽しかったのにな。
まあ、子供は傍ではしゃいでるだけだったからなのかもしれないが……。
それでさえ、無医村になったのに今はどういえばいいんだろう。
今は、半分の6軒。
これじゃあ、萩市と合併するしかなかったよな。
東京と違って、ちょっとアルバイトをしてお金を稼ぐことも出来ないし、
ニンニクがなくなったからとスーパーに買い物に気軽に行く事も出来ない。
生鮮食品を売ってないんだからどうしようもない。
買い物に行くときは、あらかじめ計画を立ててメモ帖に書き出して
それでも買い忘れがあったりして
「ああ、失敗した><」
って、毎度なる。
そして、驚くほど虫の害に悩まされる。
虻がめちゃ強い。痛痒いったらない。
蚊も蠅も信じられないくらいいる。
蛾も用心しないとセーターとかに何時の間にか穴をあけられている。
俺は今まで東京で何年か暮らしてきて、どれだけ楽な生活をして来たかを思い知る。
交通費だって、めちゃくちゃ高い。
ガスもプロパンだからしっかり予算に入れておかないととんでもないことになる。
よく、老齢の方が余生はのんびり田舎暮らしなんていうけど、
退職金が何千万もあっても何年かすると引っ越して行っちゃうところを見ると
心してかからないと大きな犠牲を強いられるのだろう。
俺はまだおやじとおふくろが身罷ってから、一年も独りで暮らしていないから
どの季節にどのくらいの出費が必要でだから、最低いくら稼がないといけないとか
全く目途へがたっていない。
働きたくても、過疎の無医村なんだから金になるような仕事がない。
在宅ワークでなんとかするか、農林業を学んで経験を重ねて、
よその家の手伝いをするかいずれにしても至難の業だ。
「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな?
つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、
つぎのひとはきのことだけを考えるんだ。
いつもただつぎのことだけをな」
おやじは、柚子園を作りたがっていた。
萩市は橙が有名だから気候風土から言えば、無理ではないのかも知れない。
だけど、実がなるようになるまでに何年もかかる。
障害者年金があるから、食べていく事は出来るだろうけど
家の修理とか車を買うとかまではお金が回らないんだろうな。
出稼ぎに行って、そのまま返って来なくなった人も何人もいる。
30兆部の山林、10兆部の田や畑があってもこれ程不安なのだから
変化や違和感が怖いんだろうな。
それにしても、引きこもりニートとか10年もやってた俺が
押し潰されそうなほどの不安を抱くってまともになってきた証拠なのかな。
お世話役の指示で黙々と草刈りをしながら、
空を仰ぐことも出来ない程、うつうつとしてくる。
お盆前の青い空にトンビはそ知らぬふりで大きく輪をかいている。
夏らしい積乱雲がもくもくと雲の峰を作っている。
誰もがみんな、今日という日の素人なんだぜ。
昨日の畑仕事のときにできた豆が潰れた。
椎木のおばあちゃんが
「おーおー、勲章じゃのんた」
ってニコニコ笑顔で傷に赤チンを塗ってくれた。
「ムカデとスズメバチに気をつけんにゃーいけんよ」
おばあちゃんが教えてくれる。
「蛇苺で虫刺されの薬を作ったらええ」
「蛇苺って、あの食べたらだめってやつですか」
「うん、そうじゃ」
「ホウセンカの花でもええんじゃ」
へびいちごを水で良く洗い水気を切る
25度の焼酎に入れる
1週間ほどで茶色くなるので濾してへびいちごを取り除けば、完成!
ホウセンカは花をたくさん用意し、洗わずに瓶に入れ焼酎を注ぐ。
2週間くらいでブランデー色になるので花びらを濾してできあがり。
ホウセンカは直ぐには無理だけど、蛇苺なら用意できるかな。
よし、明日は蛇いちご狩りだ。
おばあちゃんの知恵袋、しっかり聞いて覚えよう。
帰りにラッキョウをタッパーに入れて持たせてくれた。
らっきょうに含まれるアリシンという成分は、
食べると血液をサラサラにし、脳梗塞や心筋梗塞の予防になるほか、
抗がん作用も期待できる。
また免疫力も高めてくれるため夏風邪対策にもぴったり。
みんな優しいよな。
天気予報では、晴れのち雨なのにぽつりとも落ちてこない。
とにかく暑い―――。
みずぶろーーー。
最近の俺は、みんなの意見に従ってじゃかじゃか洗える長袖長ズボン。
そして、タオルや手ぬぐいを敵のように使ってる。
そして、汗をかいたら面倒でも水風呂。
おかげで、暑さは増しているのに汗疹が大分治って来た。
ありがとう。
家の前の庭の端っこも何日か雨が降ると鬼のように雑草が伸びてくる。
みんなの話を聞いてから、注文してもいいよな。
農協で買うのがいいのか、ネットで買うのかもわからないし。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥である。
今日は俺の住む集落の草刈り。
過疎なのに、結構集い合うことが多い。
俺が住んでいた子供の頃は、12軒の家に人が住んでいた。
しかもどこの家にも子供が何人もいた。
草刈りの日は、お祭りみたいににぎやかで楽しかったのにな。
まあ、子供は傍ではしゃいでるだけだったからなのかもしれないが……。
それでさえ、無医村になったのに今はどういえばいいんだろう。
今は、半分の6軒。
これじゃあ、萩市と合併するしかなかったよな。
東京と違って、ちょっとアルバイトをしてお金を稼ぐことも出来ないし、
ニンニクがなくなったからとスーパーに買い物に気軽に行く事も出来ない。
生鮮食品を売ってないんだからどうしようもない。
買い物に行くときは、あらかじめ計画を立ててメモ帖に書き出して
それでも買い忘れがあったりして
「ああ、失敗した><」
って、毎度なる。
そして、驚くほど虫の害に悩まされる。
虻がめちゃ強い。痛痒いったらない。
蚊も蠅も信じられないくらいいる。
蛾も用心しないとセーターとかに何時の間にか穴をあけられている。
俺は今まで東京で何年か暮らしてきて、どれだけ楽な生活をして来たかを思い知る。
交通費だって、めちゃくちゃ高い。
ガスもプロパンだからしっかり予算に入れておかないととんでもないことになる。
よく、老齢の方が余生はのんびり田舎暮らしなんていうけど、
退職金が何千万もあっても何年かすると引っ越して行っちゃうところを見ると
心してかからないと大きな犠牲を強いられるのだろう。
俺はまだおやじとおふくろが身罷ってから、一年も独りで暮らしていないから
どの季節にどのくらいの出費が必要でだから、最低いくら稼がないといけないとか
全く目途へがたっていない。
働きたくても、過疎の無医村なんだから金になるような仕事がない。
在宅ワークでなんとかするか、農林業を学んで経験を重ねて、
よその家の手伝いをするかいずれにしても至難の業だ。
「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな?
つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、
つぎのひとはきのことだけを考えるんだ。
いつもただつぎのことだけをな」
おやじは、柚子園を作りたがっていた。
萩市は橙が有名だから気候風土から言えば、無理ではないのかも知れない。
だけど、実がなるようになるまでに何年もかかる。
障害者年金があるから、食べていく事は出来るだろうけど
家の修理とか車を買うとかまではお金が回らないんだろうな。
出稼ぎに行って、そのまま返って来なくなった人も何人もいる。
30兆部の山林、10兆部の田や畑があってもこれ程不安なのだから
変化や違和感が怖いんだろうな。
それにしても、引きこもりニートとか10年もやってた俺が
押し潰されそうなほどの不安を抱くってまともになってきた証拠なのかな。
お世話役の指示で黙々と草刈りをしながら、
空を仰ぐことも出来ない程、うつうつとしてくる。
お盆前の青い空にトンビはそ知らぬふりで大きく輪をかいている。
夏らしい積乱雲がもくもくと雲の峰を作っている。
誰もがみんな、今日という日の素人なんだぜ。
昨日の畑仕事のときにできた豆が潰れた。
椎木のおばあちゃんが
「おーおー、勲章じゃのんた」
ってニコニコ笑顔で傷に赤チンを塗ってくれた。
「ムカデとスズメバチに気をつけんにゃーいけんよ」
おばあちゃんが教えてくれる。
「蛇苺で虫刺されの薬を作ったらええ」
「蛇苺って、あの食べたらだめってやつですか」
「うん、そうじゃ」
「ホウセンカの花でもええんじゃ」
へびいちごを水で良く洗い水気を切る
25度の焼酎に入れる
1週間ほどで茶色くなるので濾してへびいちごを取り除けば、完成!
ホウセンカは花をたくさん用意し、洗わずに瓶に入れ焼酎を注ぐ。
2週間くらいでブランデー色になるので花びらを濾してできあがり。
ホウセンカは直ぐには無理だけど、蛇苺なら用意できるかな。
よし、明日は蛇いちご狩りだ。
おばあちゃんの知恵袋、しっかり聞いて覚えよう。
帰りにラッキョウをタッパーに入れて持たせてくれた。
らっきょうに含まれるアリシンという成分は、
食べると血液をサラサラにし、脳梗塞や心筋梗塞の予防になるほか、
抗がん作用も期待できる。
また免疫力も高めてくれるため夏風邪対策にもぴったり。
みんな優しいよな。
天気予報では、晴れのち雨なのにぽつりとも落ちてこない。
とにかく暑い―――。
みずぶろーーー。
最近の俺は、みんなの意見に従ってじゃかじゃか洗える長袖長ズボン。
そして、タオルや手ぬぐいを敵のように使ってる。
そして、汗をかいたら面倒でも水風呂。
おかげで、暑さは増しているのに汗疹が大分治って来た。
ありがとう。
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