いとなみ

失われた風景 因縁

「女は恐ろしいよな」

子供の頃からずっとそう思って来た。

この村は、いまだに夜這いとかあるみたいだ。

田植えの手伝いや何処かの家の建前とかで

人が集まると、酒の席の戯言のように、

「あの子は、〇〇さんの子」

とか、

「ああ、出稼ぎに行ってた間に出来たらしい」

とか、托卵が普通に行われている。

明らかに、自分の子ではないと解ってしまうので

無理矢理会いに行くとか呼び寄せるとかして、

既成事実を作るのだそうだ。

そこまでしても、過疎になって無医村。

挙句の果てに萩市に吸収合併されてしまった。

まあ、それもよその家の話でとどまっているなら、

大人は面白い事をするで済んだのだろうが…。

俺の名前は、矢次誠一３2歳。

ニート歴１０年の自宅警備員のプロだ。

父も母も身罷ってしまったから、

必死で自立、自律しようとしている。

上手く伝えられるかな。

俺のひいおばあちゃんは、学校の先生だった。

なのに、結婚もしないで８人も子供を産んだ。

これだけでも女は恐ろしいと思うのだが、

一番下の女の子が生まれた時、

その子供の父親である加藤さんの奥さんが

ひいおばあちゃんの物凄く可愛がっていた

俺のおじいちゃんを拉致して

ヒロポンを二人で使いながらしとねを共にしたというのだ。

薬物依存とセックス依存にしたという事なのだろう。

そんなことを子供のいる前で笑い話のようにしゃべっている

大人の品性を疑う。

ついこのまえ、小学生の子と淫行を犯した母子家庭の母親が

話題になっていたが、村の地位のある役職の奥さんが

嫉妬がらみとは言え、夫を寝取られた腹いせに

相手が一番かわいがっているたった一人の男の子を

薬漬けにするってどういう事なんだろうと思った。

これはもう、源氏物語の六条御息所の非ではないと俺は思ってしまう。

おじいちゃんは、その悍ましい地獄から這い上がる為に、

憲兵に志願して難を逃れたというのだ。

その話を聞いた時、原罪というのかな、

恐ろしい血が流れているんだなって思った。

そして、ひいおばあさんはのうのうと

「おんなのあそこには、山でも田んぼでも入る」

と、ケロッとした顔でのたまったのだ。

あううううう。

サイコパスかソシオパスではないかと思うほど

恐ろしい話だと俺は思うのだが俺の感覚がおかしいのかな。

というわけで、子供の頃から女性を愛する事が出来なかった。

だからといって、BLでもない。

きっと、ひいおばあちゃんは子供たちを食べさせていくのに

やっとだったんだろう。

必死だったんだろう。

「母親は子供のためなら、鬼にも蛇にもなる」

ひいおばあちゃんもおばあちゃんもおふくろも

異口同音に同じことを言う。

あなおろしきは女の執念である。

そんな不完全な人間を無視して、

ミルキーウエイが夜空を流れるように埋めていく。

深呼吸をすると体の隅々の捨ててしまいたいしがらみを

浄化されていくようなさわやかな気分になれる。

俺が引きニートになって重い気分障害で苦しんできたのも

何かの因縁か運命なのかもしれない。

だとしても、俺はおふくろと約束したんだ。

自分が過去に成し遂げた事柄に慢心することも，

犯した間違いのせいで落ち込んだままになることもしない。

俺は後ろのものを忘れ，前のものに向かって身を伸ばす。

ありのままの自分を受け入れ、育み、愛する。

変えられるのは自分。