いとなみ

春秋花壇

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スカイプをしながらゲームの中で他の女とイチャイチャしたらブチ切れられた 135

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 プロローグ


 インムナーマ王国の王都タイミョンにある魔術師ギルド。
 城塞都市としては珍しい、庭付きの敷地を持つ大きな施設である。直径約五〇マーロン(約六二メートル五〇センチほど)の石造りの塔で、高さは一般の家屋なら六階相当の高さである。
 城塞都市の庶民が暮らす区画にあっては、狭いながらも珍しい庭のある敷地を所有している。高い壁に囲まれた庭は魔術の試験場となっており、頻繁に轟音や火柱などが立ちのぼり、周囲の住人を恐怖させていた。
 次世代の育成を目的とした学園を兼ねている魔術師ギルドの西半分は、所属している魔術師たちの宿舎を兼ねている。
 東半分の下層は学園と図書館、上層はギルドとしての運営を担っている。
 その下層にある研究区画の一室に、なにやら慌てている中年の魔術師が訪れた。


「エリザベートはいるか!?」


 いきなり木製のドアを開けた黒いローブの魔術師は、忙しく室内を見回した。
 左側には木製の机、正面には壁にある小さな窓を挟むように、空になった本棚が二つ並んでいた。三マーロン(約三メートル七五センチ)四方の部屋の中央に、荷物や紐で束ねられた書物が山積みになっているが、人影は見当たらなかった。


「エリザベート!」


「うるさいわね。そんなに大声を出さなくても、聞こえている――ます!」


 左側にあるドアの向こう側から、まだ少女と思しき声が返っていた。
 魔術師がホッとしていると、ドアが開いて赤いローブに身を包んだ少女が現れた。
 腰まである豊かな金髪を後頭部で二つに束ね、大きなグリーンアイから勝ち気な気配が漂っていた。
 年の頃は、《白翼騎士団》に所属したリリアーンナと同じくらい。ローブの右胸には第二七一期生主席の印、三角形の魔方陣が刻印されたブローチをつけていた。


 エリザベート・ハーキンは工具を収めた木箱を抱えながら、魔術師へと近寄った。


「なにか御用ですか? こっちは居なくなった、タムラン修練生の私物を片づけている最中なんですけど」


「ああ……タムランか。どこでなにをしているやら……いや、それどころではない。おまえは一体、なにをしたのだ。おまえに会いたいと、王城からキティラーシア姫様が来られたのだ」


「キティラーシア姫様が!? ちょっと、それを先に言いなさいよ!」


 魔術師の言葉に礼儀作法が吹き飛んでしまったエリザベートは、目を大きく見広げた。


「姫様はどこにいるんです!?」


「あ、ああ……応接の間に――」


「わかりました! これ、捨てておいて下さい!!」


 エリザベートは木箱を魔術師に押しつけると、廊下を駆け出した。


「あ――お、おい、エリザベート!? これは誰のものなんだ?」


 魔術師の声が廊下に響き渡ったが、それに応じる者はいなかった。
 エリザベートは一階まで階段を駆け下りると、玄関の近くにある応接の間の真ん前で急停止した。
 呼吸や乱れた髪、それにローブの皺を整えると、背筋を伸ばしてドアをノックした。


「二七一期生主席! エリザベート・ハーキンで御座います」


「うむ――入れ」


 返ってきた声は、ギルド長――学園長も兼ねている――のものだ。ギルド長が直々に対応していることで、先ほど聞いた来客への真実味が増した。
 期待と心地良い緊張に身を包んだエリザベートは、ドアを開けた。ギルド内部で一番装飾が施された応接の間には、低いテーブルを挟むように、向かい合わせになった二つのソファが並んでいた。
 向かって左側には、白髪で白髭の老人――ギルド長が。そして右側には、見目麗しい女性が座っていた。
 蜂蜜のように艶やかな金髪をシニヨンという髪型に纏め、薄水色のドレスに身を包んでいるのは、インムナーマ王国の王女、キティラーシア・ハイントである。
 彼女の後ろには、仏頂面の騎士が立っていた。
 姫君の美しさに目を奪われそうになりなながら、エリザベートは僅かに膝を曲げた。


「キティラーシア姫様、ここまでおいで下さいまして、恐悦至極に御座います。わたくしが、エリザベート・ハーキンで御座います」


「はい。初めまして、エリザベート。わたくしも、貴女に会えて嬉しいわ。今日はね、あなたの要望が通ったことをお伝えに来たの」


「わたくしの要望……それは、本当で――いえ、身に余る光栄で御座います。それを教えて頂くために、姫様自らおいで下さったこと、わたくしの生涯において、最高の誉れとなりましょう」


「そんなに大袈裟に捉えないで下さいな」


 キティラーシアは苦笑してから、エリザベートに座るよう促した。
 エリザベートがギルド長の隣に座ると、キティラーシアはおっとりと口を開いた。


「最近は、どこぞやの領地の河川が氾濫しただの、山賊が国内に入ってきただの、逃亡兵が出たから対応してくれだの……父上から面倒を押しつけられてしまって。丁度いい息抜きになりますもの」


「姫様……それでその、わたくしは本当に騎士団に採用をされたのでしょうか?」


「あら、ごめんなさい。その様子では、もう待ちきれないみたいですわね」


 口元に手を添えて微笑むキティラーシアの真正面では、ギルド長がエリザベートを一瞥してから、僅かに渋い顔をした。
 そんなギルド長の視線には気付かぬエリザベートに、キティラーシアは横に置いていた羊皮紙の書簡を差し出した。


「あなたの《白翼騎士団》への赴任が、決定しましたわ。これを受け取ったときから、あなたは騎士団への赴任を受領したことになります。これが最後の機会となりますから、慎重に考えて下さいね」


「その必要はありません」


 エリザベートは躊躇なく、両手で書簡を受け取った。
 大きく息を吐いたギルド長は、キティラーシアに目礼をした。このあとの話は、エリザベートとキティラーシアの二人だけで――という意志が見え隠れした顔だった。
 キティラーシアは悟られないよう僅かに肩を竦めると、目を輝かせながら書簡の封蝋を見つめるエリザベートに声をかけた。


「それでは騎士団付きの魔術師として、エリザベートに命じます。《白翼騎士団》が駐在しているメイオール村へは、三日後に出発となります。こちらにいるコウ家の騎士が同行することになりますので、以後は彼の指示に従うように」


「畏まりました」


 立ち上がって腰を折るエリザベートを、キティラーシアの背後にいた騎士――ザルード・コウは無感情に眺めていた。


(このような小娘が騎士団付きの魔術師とはな――やはり、《白翼騎士団》では、武勲は立てられぬようだな)


 ザルードは冷静さを装いながら、ある決断を下した。


(騎士になったとはいえ――やはり娘は我が家のため、別の騎士団に移すしかあるまい)

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

今回のアップは夜になるかも――と書いた記憶もありますが、別にそんなことはなかったです。
やはりプロローグは、引きの回収とか考えなくていので楽ですね。

と、余裕ぶっこいてますが、実はプロットは三章の途中までしかできてません(汗

一章の1、2回は大丈夫ですが……
急いで完成させなきゃですね(滝汗

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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