いとなみ

春秋花壇

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パパのレストラン

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俺の名前は、高橋 浩 32歳。

しがない、アラサー中年サラリーマンだ。

妻の名前は、淳子 30歳。

結婚して、7年になる。

俺達夫婦には、心陽(こはる)6歳の娘がいる。

妻は専業主婦だから、俺は頑張って一人で稼いでいる。

最近、新型感染症のせいでじみに疲れがたまってきている。

以前のように、家族でハイキングや海に行ったりする事も無くなり、

休日は家でゴロゴロしている事が多かった。

娘は、最近、こまっしゃくれて来て、俺がだらしない格好で

いるのを極端に嫌う。

「スウエットじゃなくて、ちゃんとお洋服着るの」

過ごしやすい服装でいいじゃないかと思うのだが、

「洋服の乱れは心の乱れ」

と、風呂上がりにパンツでいる事も許可してくれない。

「疲れてるんだからいいじゃないか」

と、言うと、

「だーめ」

と、こうるさい妻のようなことを言う。

『ちゃんと』

がお気に入りなようで、

「ちゃんとちゃんとなの~♪」

と、許してくれない。

「あ~あ」

俺は話し合うのもめんどくさいから、仕方なしに

娘の言う事を聞く。

今日は久しぶりの休日。

起きると、まだ10時過ぎだった。

しっかり寝たのに、疲れが取れない。

睡眠、バランスの取れた食事、運動。

気を付けているんだけどな……。

連日の残業続きで、疲れが残ってるって感じ。

ごろごろしていたら、娘が入って来て、

「パパ、起きて~」

「うーん、お休みなんだからいいじゃないか」

「だめ」

「もう少し」

「パパ、おきて~」

ゆっさゆっさと俺の体を揺する。

無視して、布団に戻り込むと、

「おきて~」

「パパ、起きるの~」

そういえば、何日も夜帰って来ても、

娘も妻も寝ていて、ぼそぼそとテーブルに用意された

食事を一人で食べていた。

何の為に俺、結婚したんだろう……。

もう何年もこんな感じの生活が続いている。

面白くもなんともない生活。

少しずつ、家庭からも家族からも弾き出されて行く。

これから先もずーと、これが続くのかと思うと

うんざりしてくる。

あ~、だめだ。

こんなネガティブなへたれのインナーワード。

よし、がんばろう。

気持ちを切り替えて、起きると、洗面所に向かう。

歯科医師お勧めの

「8020(ハチマルニイマル)運動」

「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動。

生涯自分の歯で食べる楽しみを味わえるように

歯間ブラシも使って……。

そんな俺を娘はじーとみている。

よし、親の背中を見て育つ。

歯を磨いて、顔を洗って

SHISEIDO メンで決めてみた。

「パパ、いい香り」

「ああ」

「このかおりすき」

「そっか~」

最近、マスク着用で肌荒れが凄い。

一ランク上の男性コメに変えてみた。

まだ、頭がボーとしてる。

「パパ、きがえて~」

「うーん」

もう少し寝ていたいたいから、着替えさえも渋ってしまう。

だるい……。

「ちゃんとおきがえするの」

「また、ちゃんとか……」

渋っていると、

「レストランに行くんだから、着替えるの」

「そんな事は聞いてない。ママと二人で行っておいで」

「だーめ、着替えるの」

紺のコットンパンツにボートネックの細いボーダーの綿セーター。

さわやかにスタイリツシュに決めてみた。

「うん、パパ、イケメン」

全くそんな言葉をどこで習ってくるんだろう。

仕方なしに、着替えると、今度は、

「だっこ」

「え」

「パパ、抱っこするの」

「もう……」

俺は仕方なく、娘を抱っこする。

そういえば、娘を抱っこするの何週間ぶりだろう……。

「うふふん」

娘は満足そうに、ほっぺにキスしてくれた。

抱っこしたまま台所に行くと、娘はいきなり、

小さな手で俺の目を目隠しした。

「まーだだよ」

「もうすこし」

「もういいよ」

北欧インテリアのテーブルの上を見ると、

『パパのレストラン』

と、書かれた紙のプレートが置いてある。

ランチョンマットの上には、オムライスとレタスときゅうりのサラダ。

わかめのスープ。小さな花瓶にハルジョオンのお花が飾ってあった。

「パパが最近疲れているみたいだからって、心陽が用意したの」

淳子は、娘が心のおもてなしが出来る子に育ってくれて嬉しいのだろう。

にこにこしている。

『パパ、いつもありがとう』

のメッセージカードか添えてある。

オムライスも心陽が作ってくれたそうだ。

「いただきます」

家族のとびっきりの笑顔に癒されて行く。

俺は一番大切な事を忘れていた。

俺の仕事は、家族を笑顔にする事。


笑って暮らすも一生
泣いて暮らすも一生
ドイツのことわざ

感恩報謝
恩を感じた人へ感謝の気持ちを持って報いる
感謝の語源

笑門来福
笑顔の絶えないところには幸福が訪れる

感恩戴徳
心からありがたく思って感謝感激

一言芳恩
言声をかけてもらったことに
恩を感じ感謝の気持ちを忘れない

#花 pic.twitter.com/mWT0nRLUV8


ありがとう。

玄関わきには、ホンアジサイの鉢植えが飾られている。

淡い若草色から水色、ピンクと色を変えて旬と彩添えている。

そう、ここが俺の家。

整えてくれてありがとう。

守ってくれてありがとう。

今が一番幸せ。

さっきまでのもやもやはいつの間にか消えていた。

久し振りにお菓子を持って、家族3人で公園に行く。

ブルーシートに川の字に寝転がって、眺めた空は何処までも青く、

流れる白い大きな雲がもうすぐ夏を連れてくる。
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