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ドアマットヒロインの勘違い
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ドアマットヒロイン、虐められて耐えて、涙を堪えてこっそり微笑んで、みたいな展開の。 彼女たちのことをハーレクイン愛読者は“ドアマットヒロイン”と呼びます。 もちろん、人にたくさん踏みつけられるヒロインという意味。
けなげねー。
すてきねー。
まるで自分がシンデレラにでもなったかのように
うるうると大きな瞳を潤ませて買ってもらった本を読みふけっている。
わたくしの名前は浅野 彩葉16歳。高校2年生。
愛情深い両親に育てられ何一つ不自由なく暮らして来た。
ハウスツアーに行くのが小さい頃から大好きで、
兵庫県芦屋市六麓荘町
東京都・麻布・田園調布・松濤・成城
大阪府箕面市百楽荘・桜井・桜ヶ丘
など、あらゆる豪邸やタワーマンションを見学して
ドールハウスでは無くて小さな家や家具を作ったりして遊んでいた。
そして、作った模型で悲劇のヒロインを演じて悦に入っていた。
いつのまにかラノベに影響されて
悲劇のヒロインだけでは飽き足らず、
ドアマットヒロインで苦渋に耐え健気に生きている
女の子が好きになって行った。
幸せという言葉は、私の為にあると思うくらい満たされていた。
おととしの秋までは……。
大好きなお母さまが交通事故で急に身罷った。
不幸な女の子は、ドアマットヒロインの物語を読んだりしない。
そんな物読まなくても、十分に悲しいのだから。
1年くらいは突然の喪失状態に対処できないでふさぎ込んでいた。
だって、いままでそんな悲しい話はラノベの小説の中の出来事だと思っていた。
まさか、現実に自分に降りかかって来るなんて思ってもいなかったのだ。
メンタルが弱かったのでしょうね。
わたしはそのまま重いうつ病にかかってしまった。
眠れない。
やっと眠ったかと思うと悪夢で目が覚める。
金縛りにあい、眠ること自体が怖くなる。
それでも、素敵な物語のように
いつか白馬に乗った王子様がわたくしをこの陰鬱な日常から
連れ出してくれると信じていた。
子供よね。
他力本願よね。
自殺念慮にかられ、自分が生まれて来た事さえ間違いだったと
思うようになっていく。
本当に辛い日々でした。
心配した父はわたくしを八王子の山奥の精神病院に入院させた。
そこでいろんな人と話している内に、一人の看護師さんと仲良くなった。
彼はとても朗らかな性格で、
「狂った頭で考えるのをやめろ!」
と、散歩に連れ出してくれた。
彼がお休みの日には、ハイキングにいったりキャンプしたりした。
「考えるな。感じろ!」
「メンセラーの脳みそは足にあるんだ。足で回復しろ!!」
と、優しく頭を撫でてくれる。
そんな彼のぬくもりが唯一の癒しだった。
彼の名前は、小林 陽翔28歳。
一回りも上なのに、少年のように澄んだ美しい褐色の瞳が大好きだった。
風に吹くとかすかにいい香りがする。
サムライという香水を使っているそうだ。
清潔感のある爽やかな香り。
浅黒い肌に白のシャツがとてもよく似合う大人の男性。
わたくしはまるで恋愛小説のヒロインのように
淡い恋愛感情に酔って行った。
思春期独特の恋に恋い焦がれる状態なのだろうか。
逢って別れたばかりなのに30分も立たないうちにまた会いたくなる。
重症うつ病の無気力な底に引きずり込まれる様な思いから
彼を思い出してはにまにまにやけている。
多幸感に満たされ、
生まれてきてよかった
生きていてよかったとさえいう気持ちに変わっていく。
彼と出会う為に私は生まれて来たと思うほどになっていた。
利休鼠(りきゅうねずみ)色の薄いベールを掛けたような視界が
見る見るうちに晴れていくような幸せな気分で満たされて行く。
あれほど眠れなかったのに、夜の10時には眠りに就き
早朝5時頃、小鳥のさえずりで眼覚める。
ああ、地球と仲良くできている。
母が身罷って1年半たったころ、おとうさまが、
「再婚しようと思うんだけど、どうだろう」
と、おっしゃった。
陽翔さんに相談すると、
「お父さんもまだ38歳。男盛りなのだ」
と、言われわたくしも新しいお母さまを楽しみにしていた。
なんか、だんだんシンデレラの物語に似てる来たけど
大丈夫よね。
「お父様が選んだ人だもの。きっと優しい人だわ」
そう思っていた。
初めてその女の人に遭ったのは、六本木にカニを食べに行った時だった。
そこには、綺麗だけどちょっと違和感のある女の人と
私と同じ年くらいの女の子が二人いた。
「ちょ、これってシンデレラ」
と、思ったのだが何も言わず黙っていた。
というよりも、悪役令嬢に役割変更?
わたくしは焼きガニが大好き。
甲羅の少し焦げた臭いと茹でガニよりも濃厚なお味が
食欲をそそる。
網の上でみるみる赤くなっていくのを見ているのも子供の頃から好きだった。
それにここは、カニの専門店なのにステーキもしゃぶしゃぶも美しいと思うほどの
ピンク色の網模様の牛肉。
口の中に入れたあの芳醇な香り、
とろけだしそうな牛脂、
ひろがる旨み。
はうー。至福の時ですの。
適度な噛みごたえ。
下に転がる牛繊維。
喉をオーケストラが通ります。
音も御馳走の一つよね。
料理は芸術だと思います。
耳で音を聞き
鼻で香りを嗅いで
目で色と形と質感に驚嘆し
畏怖の念を起こさせるほどの触感を堪能する。
おお、お口の中がパラダイス。
何度も家族でここに来たことを思い出して
母がすぐそばにいるような気がして
気が付くとはらはらと涙を流していた。
お父様は、突然泣き出したわたくしにおろおろして、
お母さまになる人に言い訳をしている。
「きっと、妻を思い出してしまったのだろう」
本当にもうしわけなさそうに……。
「しょうがないわよね、お母さまがなくなってまだ1年ちょっとだものね」
伊蕗(いぶき)さんは慈しみ深い目で私を見つめる。
このひとが私の新しいお母さま。
そして、二人の女の子たちも
「わたくしだったら、外に出る事も出来ないかも知れない」
一歳上の朝陽(あさひ)さん。
「わたくしも……」
と、一歳下の叶芽(かなめ)さん。
伊蕗おかあさまが、
「ほらほら、泣いてばかりいると貧乏神が寄り付くぞー。
お顔洗ってらっしゃい」
と、タオルを渡してくれました。
トイレに行き、顔を洗って渡されたタオルで顔を拭くと
柔軟剤のいい香り。
お母さまの香りです。
あれあれ、こんなにみんなが優しかったら、
シンデレラにはなれそうにない。
悪役令嬢からもドアマットヒロインからもお呼びが無いようです。
立夏から小満
小満から芒種へ
時は移ろい季節は変わっていく。
ひまわりやホリホックの夏の花さえ咲き始めています。
わたくしもそろそろ変わらないとね(#^.^#)
中二病がやっと終わったドアマットヒロインの勘違いでした。
ちゃんちゃん。
けなげねー。
すてきねー。
まるで自分がシンデレラにでもなったかのように
うるうると大きな瞳を潤ませて買ってもらった本を読みふけっている。
わたくしの名前は浅野 彩葉16歳。高校2年生。
愛情深い両親に育てられ何一つ不自由なく暮らして来た。
ハウスツアーに行くのが小さい頃から大好きで、
兵庫県芦屋市六麓荘町
東京都・麻布・田園調布・松濤・成城
大阪府箕面市百楽荘・桜井・桜ヶ丘
など、あらゆる豪邸やタワーマンションを見学して
ドールハウスでは無くて小さな家や家具を作ったりして遊んでいた。
そして、作った模型で悲劇のヒロインを演じて悦に入っていた。
いつのまにかラノベに影響されて
悲劇のヒロインだけでは飽き足らず、
ドアマットヒロインで苦渋に耐え健気に生きている
女の子が好きになって行った。
幸せという言葉は、私の為にあると思うくらい満たされていた。
おととしの秋までは……。
大好きなお母さまが交通事故で急に身罷った。
不幸な女の子は、ドアマットヒロインの物語を読んだりしない。
そんな物読まなくても、十分に悲しいのだから。
1年くらいは突然の喪失状態に対処できないでふさぎ込んでいた。
だって、いままでそんな悲しい話はラノベの小説の中の出来事だと思っていた。
まさか、現実に自分に降りかかって来るなんて思ってもいなかったのだ。
メンタルが弱かったのでしょうね。
わたしはそのまま重いうつ病にかかってしまった。
眠れない。
やっと眠ったかと思うと悪夢で目が覚める。
金縛りにあい、眠ること自体が怖くなる。
それでも、素敵な物語のように
いつか白馬に乗った王子様がわたくしをこの陰鬱な日常から
連れ出してくれると信じていた。
子供よね。
他力本願よね。
自殺念慮にかられ、自分が生まれて来た事さえ間違いだったと
思うようになっていく。
本当に辛い日々でした。
心配した父はわたくしを八王子の山奥の精神病院に入院させた。
そこでいろんな人と話している内に、一人の看護師さんと仲良くなった。
彼はとても朗らかな性格で、
「狂った頭で考えるのをやめろ!」
と、散歩に連れ出してくれた。
彼がお休みの日には、ハイキングにいったりキャンプしたりした。
「考えるな。感じろ!」
「メンセラーの脳みそは足にあるんだ。足で回復しろ!!」
と、優しく頭を撫でてくれる。
そんな彼のぬくもりが唯一の癒しだった。
彼の名前は、小林 陽翔28歳。
一回りも上なのに、少年のように澄んだ美しい褐色の瞳が大好きだった。
風に吹くとかすかにいい香りがする。
サムライという香水を使っているそうだ。
清潔感のある爽やかな香り。
浅黒い肌に白のシャツがとてもよく似合う大人の男性。
わたくしはまるで恋愛小説のヒロインのように
淡い恋愛感情に酔って行った。
思春期独特の恋に恋い焦がれる状態なのだろうか。
逢って別れたばかりなのに30分も立たないうちにまた会いたくなる。
重症うつ病の無気力な底に引きずり込まれる様な思いから
彼を思い出してはにまにまにやけている。
多幸感に満たされ、
生まれてきてよかった
生きていてよかったとさえいう気持ちに変わっていく。
彼と出会う為に私は生まれて来たと思うほどになっていた。
利休鼠(りきゅうねずみ)色の薄いベールを掛けたような視界が
見る見るうちに晴れていくような幸せな気分で満たされて行く。
あれほど眠れなかったのに、夜の10時には眠りに就き
早朝5時頃、小鳥のさえずりで眼覚める。
ああ、地球と仲良くできている。
母が身罷って1年半たったころ、おとうさまが、
「再婚しようと思うんだけど、どうだろう」
と、おっしゃった。
陽翔さんに相談すると、
「お父さんもまだ38歳。男盛りなのだ」
と、言われわたくしも新しいお母さまを楽しみにしていた。
なんか、だんだんシンデレラの物語に似てる来たけど
大丈夫よね。
「お父様が選んだ人だもの。きっと優しい人だわ」
そう思っていた。
初めてその女の人に遭ったのは、六本木にカニを食べに行った時だった。
そこには、綺麗だけどちょっと違和感のある女の人と
私と同じ年くらいの女の子が二人いた。
「ちょ、これってシンデレラ」
と、思ったのだが何も言わず黙っていた。
というよりも、悪役令嬢に役割変更?
わたくしは焼きガニが大好き。
甲羅の少し焦げた臭いと茹でガニよりも濃厚なお味が
食欲をそそる。
網の上でみるみる赤くなっていくのを見ているのも子供の頃から好きだった。
それにここは、カニの専門店なのにステーキもしゃぶしゃぶも美しいと思うほどの
ピンク色の網模様の牛肉。
口の中に入れたあの芳醇な香り、
とろけだしそうな牛脂、
ひろがる旨み。
はうー。至福の時ですの。
適度な噛みごたえ。
下に転がる牛繊維。
喉をオーケストラが通ります。
音も御馳走の一つよね。
料理は芸術だと思います。
耳で音を聞き
鼻で香りを嗅いで
目で色と形と質感に驚嘆し
畏怖の念を起こさせるほどの触感を堪能する。
おお、お口の中がパラダイス。
何度も家族でここに来たことを思い出して
母がすぐそばにいるような気がして
気が付くとはらはらと涙を流していた。
お父様は、突然泣き出したわたくしにおろおろして、
お母さまになる人に言い訳をしている。
「きっと、妻を思い出してしまったのだろう」
本当にもうしわけなさそうに……。
「しょうがないわよね、お母さまがなくなってまだ1年ちょっとだものね」
伊蕗(いぶき)さんは慈しみ深い目で私を見つめる。
このひとが私の新しいお母さま。
そして、二人の女の子たちも
「わたくしだったら、外に出る事も出来ないかも知れない」
一歳上の朝陽(あさひ)さん。
「わたくしも……」
と、一歳下の叶芽(かなめ)さん。
伊蕗おかあさまが、
「ほらほら、泣いてばかりいると貧乏神が寄り付くぞー。
お顔洗ってらっしゃい」
と、タオルを渡してくれました。
トイレに行き、顔を洗って渡されたタオルで顔を拭くと
柔軟剤のいい香り。
お母さまの香りです。
あれあれ、こんなにみんなが優しかったら、
シンデレラにはなれそうにない。
悪役令嬢からもドアマットヒロインからもお呼びが無いようです。
立夏から小満
小満から芒種へ
時は移ろい季節は変わっていく。
ひまわりやホリホックの夏の花さえ咲き始めています。
わたくしもそろそろ変わらないとね(#^.^#)
中二病がやっと終わったドアマットヒロインの勘違いでした。
ちゃんちゃん。
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