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オードヴルの無い晩餐は、紅をささない美女のようなものだ。
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「わたくし、ジャン・ド・ブランはジャンヌ・ド・ラコストを婚約破棄する」
この建物は日本でも有名なル・コルビジェの建築を楽しむために建てられた。
「サヴォア邸」を模して造られた吹き抜けのある開放感抜群な大広間で、
突然の婚約破棄に会場は水を打ったように静まり返る。
テーブルの上の装花にはスズランが可憐に飾られている。
どうして、わたくしなにかしたの?
天井からつるされた12灯のアンティークな
ガラスシャンデリアがみるみる涙で滲んでいく。
愛し愛されていると思って居たのに、
あれはうたかたの夢?
楽しかった王子との思い出が走馬灯のように駆け巡る。
木の上に昇って降りられなくなった時、
助けが来るまでソバに居てくださったこと。
泥んこ遊びでお洋服を汚してしまった時、
王子も泥まみれになってくださったこと。
数学が苦手で、何処から分からなくなってるのか分からなくなった時、
四則計算から一緒に勉強して下さったこと。
語彙が増えるようにと毎日、本の読み聞かせをして下さったこと。
お菓子つくりの盛んなこの国で、
一緒にドーナツやクッキーを毎日のように作った事。
レンゲの花でで編んだ花冠を作って頭に載せてくださったこと。
ターザンごっこをして、池に落ちた時、
ご自分もワザと失敗してずぶぬれになった事。
親のいないわたくしの話をいつも聞いてくださったこと。
毎日、ハグして良い所をほめ頭を撫でてくださったこと。
それがいきなり、手のひらを返したように……。
「理由をお聞かせください」
前髪ぱっつんのふんわりウエーブの髪型に、
サーモンピンクのゴシック ロリータ ワンピース ロング ドレスを纏って、
微笑みながらカーテシーをしているいたいけな少女。
「理由か。ふむ。お前の顔をみ飽きたからだ。」
ジャンヌは軽いめまいを覚え、そのまま気絶してしまった。
スライドショーのように、強い意志を持ちながらも
慈しみある王子の憂いのあるまなざしが揺らぐ。
気が付くと、日本に向かうプライベートジェットの機内だった。
「どうしてこんな事が起きているの」
小さなときから妹のようにかわいがってくださっていたのに。
何時も一緒に寄り添ってナイトのように守ってくださっていたのに……。
ジャンヌは起きた婚約破棄の意味が解らないでいた。
ジャン・ド・ブラン第一王子 20歳。
ジャンヌ・ド・ラコスト 14歳。
「平民だからなのかしら」
ジャンヌは3歳の時にジャンの家に貰われて、
ジャン王子の婚約者として今まで育てられた。
婚約破棄をされたと言う事は、王宮に留まる事を許されない。
訳も分からず裁かれ、勝手に婚約破棄されて国外追放されたのだ。
まるで、悲劇のヒロイン。
今までの人生が無意味に思えて、嵐の中、大海原に投げ出された
一隻の小さな帆船。
このまま海の藻屑となって消えてしまいたい程、
自分の生きるすべを見つけられなかった。
白いテーブルの上には、
アミューズグールという、食欲を起こすための小さな一口料理のオードブル。
カナッペ、小さなキッシュ、スプーン料理が彩よく可憐に並んでいた。
さやえんどうの5つ子たちがにぎやかに笑いかけていた。
カプチーノ仕立てに泡だてた若草色のポタージュが春を思わせる。
魚料理のポワソン、肉料理と付け合わせ: ガルニチュール、ヴィアンド
思い出しただけでも口の中一杯に唾液が拡がる。
ああ、こんな時でさえジャンヌは空腹を覚えてしまう事が悲しかった。
パン、チーズ、デザート。
喉を音楽隊が通ります。
着いた先は、海が一望できる小さなコテージ。
メイドとコンソルジュが出迎えてくれます。
「さあ、ここが今日からジャンヌ様のお家となります」
窓から見える大海原と庭に植えられたパンジー、ビオラ、ひなげし、
勿忘草、花簪、白い水仙、色とりどりのチューリップ。
どれもジャンヌの好きな花だった。
それから、3日後。
テレビが海外のニュースを伝えている。
なんと、祖国グラン・デセールでクーデターが起きたと言う。
乱入した革命軍より、王家は全滅。
新政権となった。
黒いスーツに身を包んだコンソルジュが耳元で
「ジャン・ド・ブラン第一王子からの伝言で御座います」
「君だけには生きていて欲しい。今までありがとう」
オードヴルの無い晩餐は、紅をささない美女のようなものだ。
オードブルをお出しする会場は無残にも消え去ってしまった。
後に残るのは祖国から受けついだ料理に対するこだわりと
ジャンとの美しく楽しい思い出だけ。
「大丈夫、ジャンはきっと生きている」
たとえ私が人間や天使のさまざまな言語を話しても,愛がなければ,うるさく鳴るどらや,やかましく響くシンバルのようです。たとえ私が預言する能力を持ち,全ての神聖な秘密と全ての知識を理解していても,また,たとえ山を動かすほどの強い信仰を持っていても,愛がなければ無価値です。たとえ私が持ち物を全て差し出してほかの人が食物を得られるようにしても,また,たとえ体をなげうって自分を誇れるようにしても,愛がなければ何も得られません。
愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず,下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。
愛は決して絶えません。
体は食べたものでつくられる。
心は聞いた言葉でつくられる。
未来は話した言葉でつくられる。
ありがとうございます。
この建物は日本でも有名なル・コルビジェの建築を楽しむために建てられた。
「サヴォア邸」を模して造られた吹き抜けのある開放感抜群な大広間で、
突然の婚約破棄に会場は水を打ったように静まり返る。
テーブルの上の装花にはスズランが可憐に飾られている。
どうして、わたくしなにかしたの?
天井からつるされた12灯のアンティークな
ガラスシャンデリアがみるみる涙で滲んでいく。
愛し愛されていると思って居たのに、
あれはうたかたの夢?
楽しかった王子との思い出が走馬灯のように駆け巡る。
木の上に昇って降りられなくなった時、
助けが来るまでソバに居てくださったこと。
泥んこ遊びでお洋服を汚してしまった時、
王子も泥まみれになってくださったこと。
数学が苦手で、何処から分からなくなってるのか分からなくなった時、
四則計算から一緒に勉強して下さったこと。
語彙が増えるようにと毎日、本の読み聞かせをして下さったこと。
お菓子つくりの盛んなこの国で、
一緒にドーナツやクッキーを毎日のように作った事。
レンゲの花でで編んだ花冠を作って頭に載せてくださったこと。
ターザンごっこをして、池に落ちた時、
ご自分もワザと失敗してずぶぬれになった事。
親のいないわたくしの話をいつも聞いてくださったこと。
毎日、ハグして良い所をほめ頭を撫でてくださったこと。
それがいきなり、手のひらを返したように……。
「理由をお聞かせください」
前髪ぱっつんのふんわりウエーブの髪型に、
サーモンピンクのゴシック ロリータ ワンピース ロング ドレスを纏って、
微笑みながらカーテシーをしているいたいけな少女。
「理由か。ふむ。お前の顔をみ飽きたからだ。」
ジャンヌは軽いめまいを覚え、そのまま気絶してしまった。
スライドショーのように、強い意志を持ちながらも
慈しみある王子の憂いのあるまなざしが揺らぐ。
気が付くと、日本に向かうプライベートジェットの機内だった。
「どうしてこんな事が起きているの」
小さなときから妹のようにかわいがってくださっていたのに。
何時も一緒に寄り添ってナイトのように守ってくださっていたのに……。
ジャンヌは起きた婚約破棄の意味が解らないでいた。
ジャン・ド・ブラン第一王子 20歳。
ジャンヌ・ド・ラコスト 14歳。
「平民だからなのかしら」
ジャンヌは3歳の時にジャンの家に貰われて、
ジャン王子の婚約者として今まで育てられた。
婚約破棄をされたと言う事は、王宮に留まる事を許されない。
訳も分からず裁かれ、勝手に婚約破棄されて国外追放されたのだ。
まるで、悲劇のヒロイン。
今までの人生が無意味に思えて、嵐の中、大海原に投げ出された
一隻の小さな帆船。
このまま海の藻屑となって消えてしまいたい程、
自分の生きるすべを見つけられなかった。
白いテーブルの上には、
アミューズグールという、食欲を起こすための小さな一口料理のオードブル。
カナッペ、小さなキッシュ、スプーン料理が彩よく可憐に並んでいた。
さやえんどうの5つ子たちがにぎやかに笑いかけていた。
カプチーノ仕立てに泡だてた若草色のポタージュが春を思わせる。
魚料理のポワソン、肉料理と付け合わせ: ガルニチュール、ヴィアンド
思い出しただけでも口の中一杯に唾液が拡がる。
ああ、こんな時でさえジャンヌは空腹を覚えてしまう事が悲しかった。
パン、チーズ、デザート。
喉を音楽隊が通ります。
着いた先は、海が一望できる小さなコテージ。
メイドとコンソルジュが出迎えてくれます。
「さあ、ここが今日からジャンヌ様のお家となります」
窓から見える大海原と庭に植えられたパンジー、ビオラ、ひなげし、
勿忘草、花簪、白い水仙、色とりどりのチューリップ。
どれもジャンヌの好きな花だった。
それから、3日後。
テレビが海外のニュースを伝えている。
なんと、祖国グラン・デセールでクーデターが起きたと言う。
乱入した革命軍より、王家は全滅。
新政権となった。
黒いスーツに身を包んだコンソルジュが耳元で
「ジャン・ド・ブラン第一王子からの伝言で御座います」
「君だけには生きていて欲しい。今までありがとう」
オードヴルの無い晩餐は、紅をささない美女のようなものだ。
オードブルをお出しする会場は無残にも消え去ってしまった。
後に残るのは祖国から受けついだ料理に対するこだわりと
ジャンとの美しく楽しい思い出だけ。
「大丈夫、ジャンはきっと生きている」
たとえ私が人間や天使のさまざまな言語を話しても,愛がなければ,うるさく鳴るどらや,やかましく響くシンバルのようです。たとえ私が預言する能力を持ち,全ての神聖な秘密と全ての知識を理解していても,また,たとえ山を動かすほどの強い信仰を持っていても,愛がなければ無価値です。たとえ私が持ち物を全て差し出してほかの人が食物を得られるようにしても,また,たとえ体をなげうって自分を誇れるようにしても,愛がなければ何も得られません。
愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず,下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。
愛は決して絶えません。
体は食べたものでつくられる。
心は聞いた言葉でつくられる。
未来は話した言葉でつくられる。
ありがとうございます。
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