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ねたみは骨の腐れである
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「穏やかな心は体に良く,嫉妬は骨を腐らせる。」
箴言 14:30
何も信じられないのです。
すべては空しい虚構に彩られている。
妬みが嫉妬がこれほどにわたくしの人生を壊すなんて思ってもいませんでした。
わたくしの名前は、エリザベス・アン・ローズ。
23歳です。
環境、資質に恵まれて育ったのでしょうか。
彼と知り合うまで、嫉妬という言葉があるのは知っておりましたが、
まさか自分が身を焦がすほどにこの悪感情に左右されるとは
思ってもおりませんでした。
決して絶世の美女というほどではありませんでしたが、
街を歩けば何人かの男性が振り返ってくれるほどの美貌、容姿でした。
学校始まって以来の才女と言われたほどではありませんでしたが、
全国模試トップランクにはいつもいることができました。
軽いラノベの俺TUEEEものの主人公くらいの位置を生きていたのでございます。
例えば姉は、常々妬みを恐れ、
後ろの土地も購入したのに、
「妹の土地なの。いずれ戻ってくる予定みたいなの」
と、伏線を張った生活をしておりました。
「妬みは怖いわよ。あることないこと膨らませていく」
とも、申しておりました。
それを聞いて、知恵のないわたしは
「へー」
と、大人の世界は大変なんだなくらいにしか感じることができませんでした。
大学を無事に卒業した22歳。去年ですね。
急に、婚約することになりました。
お相手は、ジャック・E・ウェバーさま、34歳。
彼は資産家のご令息なのですが、お子さんが3人いらっしゃいます。
彼がどうして離婚されたのか、理由はわたくしは存じません。
3人とも、利発でとてもかわいいお子さんたちです。
そのかわいいことと言ったら、まるで絵本から抜けて出てきたのかと思うほどなのです。
本当はお式も去年の秋に行う予定でおりました。
新型感染症のせいで、取りやめになったのですが、
今は、彼と子供たちと一緒に暮らしております。
わたくしは、去年の秋、彼の元奥様にお会いするまでは
とても幸せに暮らしておりました。
一緒に猫と遊んだり、犬の散歩に行ったり、
おままごとをしたり、ご本を読み聞かせたり、クイズをしたり。
育児がこんなに楽しいのかと思うほど幸せだったのでございます。
一緒に住み始めて、半年が過ぎようかという頃、一人のそれはそれは美しい女性が
アポイントもないのに訪ねてこられたのです。
彼女は若くて、肌もぴちぴちしていて色が抜けるほど白くて愛らしい女の子でした。
主人はあいにく仕事で3日ほど出張して留守でした。
すこし奔放で、自由を謳歌している感じのお嬢さんです。
執事たちの話で、彼女が前妻だとわかるまで遠い親戚の方かと思っておりました。
主人が帰ってくるまで3日間。
彼女はこの家に泊まって、子供たちと遊んだり執事たちと楽しそうにお話をされておりました。
彼女に見つめられると、わたくしはなぜか借りてきた猫のように
何も言えなくなってしまうのでございます。
「23歳って、結構おばさんなのね」
と、しげしげとわたくしを見つめておっしゃるのです。
「ぶちきれますわよ。わたくし」
失礼じゃないですか。
まるでわたくしを干しブドウみたいに。
あまりの言い方にこぼれる涙が止まりませんでした。
「大丈夫よ、夜のお世話は私がするから」
ともおっしゃったのです。
「もう、離婚されたんですよね」
「あら、しらなかったの?私たちまだ愛しあってるのよ」
「離婚されて、会ったりしてないんですよね」
「彼、最近私のために出張を増やしてくれてるの」
はー?
確かに主人の出張は増えておりました。
不要不急の外出は避けましょうという世界的な
パンデミックの中でも、新しい仕事があるからと
3日くらい家を空けることはしばしばでした。
この頃にはまだ、出張イコール彼女との密会などという図式はありませんでした。
主人が戻ってきて、皆で会食を済ませた後に、
主人は彼女を
「送ってくるね」
と、告げ二人で出ていきました。
そして、3時間しても4時間しても
戻ってこなかったのです。
帰ってきた主人の上着からは、
彼女の使っている香水、グッチ(GUCCI)のフローラルな香りがしたのです。
この日を機に、わたくしのたくましい妄想癖はとどまるところを知りませんでした。
わたくしも同じものを買ってみたのですが、
何故か甘い香りが鼻について自分で常用することはできませんでした。
今から考えれば、妊娠してつわりだったのかもしれません。
少しでもこの香りがすると、主人を罵倒することまで始めてしまったのです。
「君は妬いているね」
なんども、そう注意されたのですが、
主人が悪いんだと思い込んでいおりました。
そして、残念なことに妊娠を機に、セックスレスになっていったのです。
妻の妊娠中の夫の浮気。
世間でもよくあることです。
まして、前妻との関係が今なお続いているとしたら、
わたくしは、マタニティーブルーの中で、
胎教に悪いと知りつつ、嫉妬の炎がめらめらと沸き起こるのを止めることができませんでした。
妊娠中なので、安定剤を飲むこともできず、
生姜湯やラベンダーティーで何とか落ち着こうとするのですが、
子供の時に見た、母の悲しそうな顔が走馬灯のようにまるで、
今繰り広げられている悲劇のように感じられてしまうのです。
しまいには、ご飯さえ喉を通らなくなり、
胃潰瘍の痛みと不安で自分をめった刺しにしたのです。
わたくしの主治医は、精神科にも精通している医師で、
とにかく距離を取ったほうがよいという判断で、
しばらく入院することになりました。
その間に、あらゆる精神療法の糸口を探してくださったのです。
実を申しますと、わたくしの母はアルコール依存症でした。
わたくしと同じように、父の女性関係に悩み、
お酒に逃げ込んだのでございます。
「問題が生じたときの対処の仕方を親から学んでいない」
と、診断されました。
親のせいにしたいわけではありません。
でも、背中を見て育つのだとか……。
わたくしは、自分の中の小さな子供
インナーチャイルドに声掛けを始めました。
そう、すでにいる連れ子3人を含めた4人の子供に接するように、
「怖かったね」
「不安だったね」
「びっくりするよね」
「大変だったね」
「もう、大丈夫だよ」
何度も何度も声をかけたのです。
主人は毎日、お見舞いに来てくれるのですが、
誰も信じられないわたくしは、
取り繕っているとしか思えなかったり、
ごまかしていると詮索するのです。
ある時、二人で少しゆっくり話をしたいと
時間を取ってくれました。
葉を落とした木々が静かにそよいでいます。
池の中で、魚がはねたのか幾重にも波紋ができています。
ゆっくりと時間が流れていきます。
こんな風に二人きりでお話をしたのは、
初めてかもしれません。
「誤解されるような行動があったのなら、許してほしい」
「君をとても大切に思っている」
「僕は僕で負っている十字架がある。でも、君と一緒にいたいんだ。
僕は君を選んだ。君も僕を選んでくれたんだよね」
そうです。子持ちの一回りも上の男性を
それでも愛そうと私は決心して嫁ぎました。
ならば、そのために全力で生きていきたいと思ったのです。
あなたがいる。
わたしがいる。
子供たちがいる。
わたしたちは、小さな共同体なのです。
ほら、見てください。
冬の空は、厚い雲に覆われてずっとこれが続くように思ったりします。
でも、よーく見てください。
小さな、ハコベやミントや十二単がしっかり春に備えて
小さな芽を出しているのです。
大丈夫。きっと乗り越えられる。
私は一人じゃないんだから。
箴言 14:30
何も信じられないのです。
すべては空しい虚構に彩られている。
妬みが嫉妬がこれほどにわたくしの人生を壊すなんて思ってもいませんでした。
わたくしの名前は、エリザベス・アン・ローズ。
23歳です。
環境、資質に恵まれて育ったのでしょうか。
彼と知り合うまで、嫉妬という言葉があるのは知っておりましたが、
まさか自分が身を焦がすほどにこの悪感情に左右されるとは
思ってもおりませんでした。
決して絶世の美女というほどではありませんでしたが、
街を歩けば何人かの男性が振り返ってくれるほどの美貌、容姿でした。
学校始まって以来の才女と言われたほどではありませんでしたが、
全国模試トップランクにはいつもいることができました。
軽いラノベの俺TUEEEものの主人公くらいの位置を生きていたのでございます。
例えば姉は、常々妬みを恐れ、
後ろの土地も購入したのに、
「妹の土地なの。いずれ戻ってくる予定みたいなの」
と、伏線を張った生活をしておりました。
「妬みは怖いわよ。あることないこと膨らませていく」
とも、申しておりました。
それを聞いて、知恵のないわたしは
「へー」
と、大人の世界は大変なんだなくらいにしか感じることができませんでした。
大学を無事に卒業した22歳。去年ですね。
急に、婚約することになりました。
お相手は、ジャック・E・ウェバーさま、34歳。
彼は資産家のご令息なのですが、お子さんが3人いらっしゃいます。
彼がどうして離婚されたのか、理由はわたくしは存じません。
3人とも、利発でとてもかわいいお子さんたちです。
そのかわいいことと言ったら、まるで絵本から抜けて出てきたのかと思うほどなのです。
本当はお式も去年の秋に行う予定でおりました。
新型感染症のせいで、取りやめになったのですが、
今は、彼と子供たちと一緒に暮らしております。
わたくしは、去年の秋、彼の元奥様にお会いするまでは
とても幸せに暮らしておりました。
一緒に猫と遊んだり、犬の散歩に行ったり、
おままごとをしたり、ご本を読み聞かせたり、クイズをしたり。
育児がこんなに楽しいのかと思うほど幸せだったのでございます。
一緒に住み始めて、半年が過ぎようかという頃、一人のそれはそれは美しい女性が
アポイントもないのに訪ねてこられたのです。
彼女は若くて、肌もぴちぴちしていて色が抜けるほど白くて愛らしい女の子でした。
主人はあいにく仕事で3日ほど出張して留守でした。
すこし奔放で、自由を謳歌している感じのお嬢さんです。
執事たちの話で、彼女が前妻だとわかるまで遠い親戚の方かと思っておりました。
主人が帰ってくるまで3日間。
彼女はこの家に泊まって、子供たちと遊んだり執事たちと楽しそうにお話をされておりました。
彼女に見つめられると、わたくしはなぜか借りてきた猫のように
何も言えなくなってしまうのでございます。
「23歳って、結構おばさんなのね」
と、しげしげとわたくしを見つめておっしゃるのです。
「ぶちきれますわよ。わたくし」
失礼じゃないですか。
まるでわたくしを干しブドウみたいに。
あまりの言い方にこぼれる涙が止まりませんでした。
「大丈夫よ、夜のお世話は私がするから」
ともおっしゃったのです。
「もう、離婚されたんですよね」
「あら、しらなかったの?私たちまだ愛しあってるのよ」
「離婚されて、会ったりしてないんですよね」
「彼、最近私のために出張を増やしてくれてるの」
はー?
確かに主人の出張は増えておりました。
不要不急の外出は避けましょうという世界的な
パンデミックの中でも、新しい仕事があるからと
3日くらい家を空けることはしばしばでした。
この頃にはまだ、出張イコール彼女との密会などという図式はありませんでした。
主人が戻ってきて、皆で会食を済ませた後に、
主人は彼女を
「送ってくるね」
と、告げ二人で出ていきました。
そして、3時間しても4時間しても
戻ってこなかったのです。
帰ってきた主人の上着からは、
彼女の使っている香水、グッチ(GUCCI)のフローラルな香りがしたのです。
この日を機に、わたくしのたくましい妄想癖はとどまるところを知りませんでした。
わたくしも同じものを買ってみたのですが、
何故か甘い香りが鼻について自分で常用することはできませんでした。
今から考えれば、妊娠してつわりだったのかもしれません。
少しでもこの香りがすると、主人を罵倒することまで始めてしまったのです。
「君は妬いているね」
なんども、そう注意されたのですが、
主人が悪いんだと思い込んでいおりました。
そして、残念なことに妊娠を機に、セックスレスになっていったのです。
妻の妊娠中の夫の浮気。
世間でもよくあることです。
まして、前妻との関係が今なお続いているとしたら、
わたくしは、マタニティーブルーの中で、
胎教に悪いと知りつつ、嫉妬の炎がめらめらと沸き起こるのを止めることができませんでした。
妊娠中なので、安定剤を飲むこともできず、
生姜湯やラベンダーティーで何とか落ち着こうとするのですが、
子供の時に見た、母の悲しそうな顔が走馬灯のようにまるで、
今繰り広げられている悲劇のように感じられてしまうのです。
しまいには、ご飯さえ喉を通らなくなり、
胃潰瘍の痛みと不安で自分をめった刺しにしたのです。
わたくしの主治医は、精神科にも精通している医師で、
とにかく距離を取ったほうがよいという判断で、
しばらく入院することになりました。
その間に、あらゆる精神療法の糸口を探してくださったのです。
実を申しますと、わたくしの母はアルコール依存症でした。
わたくしと同じように、父の女性関係に悩み、
お酒に逃げ込んだのでございます。
「問題が生じたときの対処の仕方を親から学んでいない」
と、診断されました。
親のせいにしたいわけではありません。
でも、背中を見て育つのだとか……。
わたくしは、自分の中の小さな子供
インナーチャイルドに声掛けを始めました。
そう、すでにいる連れ子3人を含めた4人の子供に接するように、
「怖かったね」
「不安だったね」
「びっくりするよね」
「大変だったね」
「もう、大丈夫だよ」
何度も何度も声をかけたのです。
主人は毎日、お見舞いに来てくれるのですが、
誰も信じられないわたくしは、
取り繕っているとしか思えなかったり、
ごまかしていると詮索するのです。
ある時、二人で少しゆっくり話をしたいと
時間を取ってくれました。
葉を落とした木々が静かにそよいでいます。
池の中で、魚がはねたのか幾重にも波紋ができています。
ゆっくりと時間が流れていきます。
こんな風に二人きりでお話をしたのは、
初めてかもしれません。
「誤解されるような行動があったのなら、許してほしい」
「君をとても大切に思っている」
「僕は僕で負っている十字架がある。でも、君と一緒にいたいんだ。
僕は君を選んだ。君も僕を選んでくれたんだよね」
そうです。子持ちの一回りも上の男性を
それでも愛そうと私は決心して嫁ぎました。
ならば、そのために全力で生きていきたいと思ったのです。
あなたがいる。
わたしがいる。
子供たちがいる。
わたしたちは、小さな共同体なのです。
ほら、見てください。
冬の空は、厚い雲に覆われてずっとこれが続くように思ったりします。
でも、よーく見てください。
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