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春秋花壇

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婚約破棄 アルビノ桃娘(とうにゃん)

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 昔々、ある国にそれはそれは美しいアルビノの少女がおったんじゃと。

髪の毛も白。まつげも白。肌も白。

彼女に触れると罪が清められて、

悔い改めることができたんじゃと。

彼女が通ると、どこからともなく甘くやさしい香りがする。

穏やかな気持ちになれるんじゃと。

甘い香りは、時として鼻につくこともあるんじゃが、

少女の香りは飽きることないさわやかさを伴っていたんじゃと。

みんなと違ったり、陰キャだったりすると、

いじめにあったりすることもあるみたいだけど、

なぜか少女をからったりいじめたりする人は一人もいなかった。

いつの間にか少女の周りは、小さなお花で囲まれている。

春は、パンジー、ビオラ、ジュリアン、チューリップ、

夏は、 ポーチュラカ、ジニア、アガパンサス、クレマチス、

秋は、コスモス、黄花コスモス、菊、ダリア、

冬は、オキザリス、ガーデンシクラメン、シャコバサボテン 、水仙、

気がつくとお花畑になっている。

野良の猫や犬でさえ、少女のそばで日向ぼっこしているのです。

少女のそばにあるお花は、どこにあるものよりも活き活きとしていた。

とっても不思議な子だね。

みんな、彼女の友達は、一緒に食事に誘ったりするんだけど、

なぜか彼女はどんなご馳走も一緒に食べることはなかったんじゃと。

お肉もお魚も、野菜やきのこや海草でさえ口にすることはなかった。

いつしか、みんなの中に不思議な言い伝えが広がったんじゃと。

彼女に食事をさせることができたら、結婚できるって

一緒に住めるって。

みんなは彼女のそばに一緒にいたくて、

一緒にご飯を食べたくて、いろんな珍しいものや

高価なものを彼女の家にもっていったんじゃと。

神戸牛の霜降り肉も近海もののお魚もぷりぷりのえびも

大切に育てられたもやしも一緒に食べることはできなかった。

みんなは、一緒に食べれなかったことよりも彼女が死んじゃうんじゃないかと

心配し始めたんじゃと。

若者が来て、桃のネクターを飲んでいたら、

彼女がジーと見つめているんじゃと。

その若者が桃をひとつ差し出すと、嬉しそうに

皮をむいてぺろりと食べたんじゃと。

「あの、甘い香りはももじゃったのかー」

みんなは喜んで、彼女の家に桃を持っていき始めたんじゃと。

きっと、心をきれいにしてもらったお礼がしたかったんだろうね。

彼女はもらった桃を本当においしそうに食べるんじゃと。

そして、彼女の甘いにおいは前よりもいっそう強くなっていった。

みんなの心はどんどん清くなり、どんどん朗らかで感謝と喜びに満ちていく。

負の感情のバロメータがどんどん下がっていく。

それを見た魔女は、怒りで燃えていく。面白くないのだ。

みんなに愛されていることをねたんだ魔女が少女に呪いをかけた。

美しかった青い空や白い雲は、重く暗い色の垂れ込めた雲に変わっていく。

光は閉ざされ、世界は暗闇に支配されるようになった。

終わることのない皆既日食のように、太陽はかくれんぼをしてしまった。

結婚できるとばかり思い込んでいた若者は嘆き悲しんだ。

彼女が眠ったまま、起きてこないから。

挙句の果てに、魔女は自分を愛してくれない若者を1年間追放してしまったそうな。

いきなり、遠くの国に飛ばされた若者は、愛する少女に会いたくてもあえない。

あんなに毎日、心の掃除をしてもらっていたのに、清めてももらえない。

不安、不信、不満、不遜、不穏、ありとあらゆる

ネガティブな感情が次から次へと出てきて、

若者を身動きできないくらい包み込んでいく。

若者は、愛する娘を必死で求めた。

夢の中でもいいから、あ・い・た・い。

強く強く思う。

思うことができれば引き寄せの法則で想像できる。

想像できれば創造できる。

現実化していくのです。

具現化するのです。

でも、時は流れ記憶はどんどん薄れていきます。

若者は必死で荷物整理と心の整理を始めました。

荷物も心も軽くして、彼女の居場所を少しでも多くしたかったからです。

荷物の中に一缶の桃のネクターがありました。

そして、前には硬くて食べられなかった桃が熟成して、

食べごろになっておいしそうに笑っているではないですか。

桃の香りがします。

少女の懐かしい香りです。

桃細工にもモザイク。

模範解答の桃、半解凍。

素敵なダジャレをありがとう。

若者は、北極星を頼りに彼女の居場所を探り、

とぼとぼと歩き始めました。

星のめぐりからすれば追放されてからもうすぐ1年になりそうです。

桃が熟しすぎないようにしっかりと密封しました。

目覚めた彼女に渡したかったからです。

一歩歩くごとに会いたい気持ちが増えていきます。









ああ、こんなにも愛しているのです。

「まる子、芋羊羹どう?」から始まる恋模様、感動

ようやく、彼女の元にたどり着きました。

若者は、眠っているアルビノ桃娘にそっと口づけするのです。

ほーら、白い長いまつげが動き始めます。

桃の香りが漂い始め、呪いは解けていきます。

桃花眼の吸い込まれるような瞳が目覚めます。

ふんわりとしたピンクの可愛らしい桃のお花が咲き乱れます。

「赤、白、ピンク」の3色が入り混じった品種。

福沢諭吉の娘婿にあたる福沢桃介氏がドイツ・ミュンヘンから持ち帰り、

定植したお花もほころんでいます。

あでやかな桃園の復活です。

風はそよぎ、蝶は舞い、鳥は歌います。

さあ、今日はめでたい結婚式。

アルビノも桃娘もとても短命なのですが、

なぜか二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。

꒰* ॢꈍ◡ꈍ ॢ꒱.*˚‧

アルビノ(albino)は、動物学においては、メラニンの生合成に関わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体である。

中国に秦代から伝わる都市伝説桃娘。桃だけを与えられて育てられた彼女らを不老長寿の妙薬として金持ち達は買い求め、その体液を飲み、肉を食べると言います。桃娘は虚弱で寿命は短く、儚げな存在で歌劇「虞美人」にも同じ名の人物が登場
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