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サイコパスとソシオパス
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「お疲れ様でした」
婚約者 安河内 洋輔(やすこうち ようすけ)さま 29歳
わたくし 加藤 ゆか 23歳。
二人は、婚約していて、今日、洋輔さんがわたくしの母に挨拶に来てくれた。
先日、洋輔さんのご両親にはお会いしているので、
これで後は、式場を決めたり、新居を決めたりと
いよいよ結婚の準備に進むことができる。
希望と喜びに胸を膨らませ、
明るい未来を描いていた。
野竹の花が紫のくしゃくしゃとした控えめな花をほころばせている。
いかにも茶花らしい控えめなわびさびを織り成している。
10代のときには、見向きもしなかった茶花が最近、少しずつ好きになりつつある。
人生の高さと深さ奥行きを味わえるようになってきているということなのだろうか。
10月も終わりになってくると、気温も下がり、お風呂上りとはいえ、
半そで、半ズボンのいでたちでは、心もとなくなってくる。
街頭に照らし出されるイチョウの葉も、すそを黄色のグラデーションに染め上げた
スカートのように秋を楽しんでいる。
子供のころのように、あでやかで華やかないかにも花ですという植物よりも、
チョコレートコスモスや秋の雛菊のような目立たない花を好きになっていく
自分の心の移り変わりに面白さを感じていた。
「大人になっていくのね」
一人で、悦にいっていたとき、LINEがなる。
「あのさー、おまえ、母子家庭だったんだな」
「うん」
「母子家庭って、貧乏なんだろう」
「え?」
彼は、わたくしの家に来たことはない。
母と会った今日も近所のファミレスで待ち合わせをした。
「貧乏だから、ファミレスだったんだろう」
「あそこは安くおいしいし」
「家も貧乏で狭くて汚いから、あんなファミレスにしたんだろう」
「?」
わけのわからないことをいい始めている。
「俺、婚約破棄する」
「え」
「無理だよ、貧乏人のお前の親の面倒見るとか」
勝手に貧乏だと決め付けて、マウントを取ろうとする彼の
一つ一つの言葉が針のように突き刺さる。
彼は、いいだすときかない。
それでも、ついていこうと思ったのだが……。
「勘違いしてたよ。母子家庭だとは知らなかった」
母子家庭と指摘されて、気持ちのいい人はいないと思う。
そんな毒のある言葉を平気で何度も投げつけてくる
彼にうんざりしてくる。
「お金には困ったことはないわよ」
「またまた、無理しちゃってー。
母子家庭なのに、金に困らないわけがないだろう」
「とにかく、無理だから。婚約破棄な」
はーーー。
「料理も家事もできるから、お前にしたんだけど、
母子家庭なら無理だから。社長令嬢と結婚するよ」
「それって二股ってこと?」
「保険だったんだけどな」
そうですか。二股かけて、保険ねー。
もう、いいやー。
「ストーカーになるなよ。終わりだからな」
うるさーい。
こんなおところと結婚しようと思っていたのかと思うと
自分がおろか過ぎて涙が出てくる。
2ヵ月後、彼から突然、LINE。
「今からおまえんちに行っていいか」
暇だし、彼の驚く顔も見たいのでオーケーした。
エントランスから、プールの眺められるリビングへ。
今日のエントランス装花は、大輪で存在感のあるキク科のアナスタシアを、
凛とした佇まいのスプレーマム、可憐なアルストロメリアと組み合わせた秋色。
和テーストの麻の葉の格子戸が古きよき時代をかもし出しています。
磨きのかけられた大理石のフロアー鏡のように真実を映し出します。
「ほえー」
彼は、信じられないという顔をしている。
「まじにこれで、母子家庭?」
「うん、母は、父が身罷った後、父の会社の社長になったから」
「いやー、実は、例の社長令嬢の婚約したんだけど、
彼女のお父さんの会社、危ないらしいんだよな」
「うん、知ってる」
「?」
「彼女のお父さんの会社、母の会社の孫受けなの」
「?」
「下請けの下請けってこと」
婚約破棄の知らせを受けて、怒った母が彼と彼の彼女について
興信所で調べた。
「お母さんの会社って、そんなにでかいのか」
「うーん、年商5億くらいかな」
「すげー」
「わたしとは関係ないわ」
「このすばらしい家は?」
「ここは、おじい様のときに建てたみたい」
「生粋のお嬢様じゃないか」
「そうなのかな」
「なあ、よりをもどそうぜ」
「はー?」
「嫁にもらってやってもいいぜ」
「何をいまさら」
わたくしはあきれ返って、テレビをつけた。
ちょうど、ユニセフの小さな子供たちが点滴をしているシーンがうつっていた。
それを見た彼が何を思ったかたった一言、
「死ねよ」
と、テレビにつぶやいた。
それを見たわたくしは、彼を見て
「うせろ」
と、心の中でつぶやいた。
愛し合い、紡ぎ合う夫婦になる人たちの
寄り添う時間とは違うおぞましい時の流れ。
なんとか、この状況の中で、少しでも優位に立とうと
探りあっている。
ヒエルキーの優位に立とうとして
あくことなき戦いを挑む。
諦めたのかぼそっとつぶやく。
「母子家庭」
「だから、なに」
まだいうか。
お帰りは、あちらです。
プールの水面が陽光を浴び、
きらきらと揺らめく。
人間の愚かな応酬を虚無と感じるくらい厳かで美しかった。
サイコパスとソシオパスも反社会性パーソナリティ障害。
彼が悪いのでもわたくしが悪いのでもないと思う。
彼を責め、馬鹿にする時間があるなら、
自分を磨き高めていけばいい。
鏡の法則で引きつけあっているのなら、
心も体も違った次元になれば、自然と波長は合わなくなるはず。
悪に善を返すのも面白そう。
彼に対して、愛を持って丁寧に親切に対応してみるのは
最高のプレイになりそうね。
日常的に法を犯す、または法を軽視している
つねに嘘をつき、他者を騙そうとする
衝動的で計画性がない
けんか腰で攻撃的
他者の安全性についてほとんど考慮しない
無責任で、金銭的にルーズ
良心の呵責や罪悪感がない
両者の共通点は、他者の権利や感情を軽視し、人を欺く。
「婚約破棄、謹んでお受けいたします」
ありがとうございました。
婚約者 安河内 洋輔(やすこうち ようすけ)さま 29歳
わたくし 加藤 ゆか 23歳。
二人は、婚約していて、今日、洋輔さんがわたくしの母に挨拶に来てくれた。
先日、洋輔さんのご両親にはお会いしているので、
これで後は、式場を決めたり、新居を決めたりと
いよいよ結婚の準備に進むことができる。
希望と喜びに胸を膨らませ、
明るい未来を描いていた。
野竹の花が紫のくしゃくしゃとした控えめな花をほころばせている。
いかにも茶花らしい控えめなわびさびを織り成している。
10代のときには、見向きもしなかった茶花が最近、少しずつ好きになりつつある。
人生の高さと深さ奥行きを味わえるようになってきているということなのだろうか。
10月も終わりになってくると、気温も下がり、お風呂上りとはいえ、
半そで、半ズボンのいでたちでは、心もとなくなってくる。
街頭に照らし出されるイチョウの葉も、すそを黄色のグラデーションに染め上げた
スカートのように秋を楽しんでいる。
子供のころのように、あでやかで華やかないかにも花ですという植物よりも、
チョコレートコスモスや秋の雛菊のような目立たない花を好きになっていく
自分の心の移り変わりに面白さを感じていた。
「大人になっていくのね」
一人で、悦にいっていたとき、LINEがなる。
「あのさー、おまえ、母子家庭だったんだな」
「うん」
「母子家庭って、貧乏なんだろう」
「え?」
彼は、わたくしの家に来たことはない。
母と会った今日も近所のファミレスで待ち合わせをした。
「貧乏だから、ファミレスだったんだろう」
「あそこは安くおいしいし」
「家も貧乏で狭くて汚いから、あんなファミレスにしたんだろう」
「?」
わけのわからないことをいい始めている。
「俺、婚約破棄する」
「え」
「無理だよ、貧乏人のお前の親の面倒見るとか」
勝手に貧乏だと決め付けて、マウントを取ろうとする彼の
一つ一つの言葉が針のように突き刺さる。
彼は、いいだすときかない。
それでも、ついていこうと思ったのだが……。
「勘違いしてたよ。母子家庭だとは知らなかった」
母子家庭と指摘されて、気持ちのいい人はいないと思う。
そんな毒のある言葉を平気で何度も投げつけてくる
彼にうんざりしてくる。
「お金には困ったことはないわよ」
「またまた、無理しちゃってー。
母子家庭なのに、金に困らないわけがないだろう」
「とにかく、無理だから。婚約破棄な」
はーーー。
「料理も家事もできるから、お前にしたんだけど、
母子家庭なら無理だから。社長令嬢と結婚するよ」
「それって二股ってこと?」
「保険だったんだけどな」
そうですか。二股かけて、保険ねー。
もう、いいやー。
「ストーカーになるなよ。終わりだからな」
うるさーい。
こんなおところと結婚しようと思っていたのかと思うと
自分がおろか過ぎて涙が出てくる。
2ヵ月後、彼から突然、LINE。
「今からおまえんちに行っていいか」
暇だし、彼の驚く顔も見たいのでオーケーした。
エントランスから、プールの眺められるリビングへ。
今日のエントランス装花は、大輪で存在感のあるキク科のアナスタシアを、
凛とした佇まいのスプレーマム、可憐なアルストロメリアと組み合わせた秋色。
和テーストの麻の葉の格子戸が古きよき時代をかもし出しています。
磨きのかけられた大理石のフロアー鏡のように真実を映し出します。
「ほえー」
彼は、信じられないという顔をしている。
「まじにこれで、母子家庭?」
「うん、母は、父が身罷った後、父の会社の社長になったから」
「いやー、実は、例の社長令嬢の婚約したんだけど、
彼女のお父さんの会社、危ないらしいんだよな」
「うん、知ってる」
「?」
「彼女のお父さんの会社、母の会社の孫受けなの」
「?」
「下請けの下請けってこと」
婚約破棄の知らせを受けて、怒った母が彼と彼の彼女について
興信所で調べた。
「お母さんの会社って、そんなにでかいのか」
「うーん、年商5億くらいかな」
「すげー」
「わたしとは関係ないわ」
「このすばらしい家は?」
「ここは、おじい様のときに建てたみたい」
「生粋のお嬢様じゃないか」
「そうなのかな」
「なあ、よりをもどそうぜ」
「はー?」
「嫁にもらってやってもいいぜ」
「何をいまさら」
わたくしはあきれ返って、テレビをつけた。
ちょうど、ユニセフの小さな子供たちが点滴をしているシーンがうつっていた。
それを見た彼が何を思ったかたった一言、
「死ねよ」
と、テレビにつぶやいた。
それを見たわたくしは、彼を見て
「うせろ」
と、心の中でつぶやいた。
愛し合い、紡ぎ合う夫婦になる人たちの
寄り添う時間とは違うおぞましい時の流れ。
なんとか、この状況の中で、少しでも優位に立とうと
探りあっている。
ヒエルキーの優位に立とうとして
あくことなき戦いを挑む。
諦めたのかぼそっとつぶやく。
「母子家庭」
「だから、なに」
まだいうか。
お帰りは、あちらです。
プールの水面が陽光を浴び、
きらきらと揺らめく。
人間の愚かな応酬を虚無と感じるくらい厳かで美しかった。
サイコパスとソシオパスも反社会性パーソナリティ障害。
彼が悪いのでもわたくしが悪いのでもないと思う。
彼を責め、馬鹿にする時間があるなら、
自分を磨き高めていけばいい。
鏡の法則で引きつけあっているのなら、
心も体も違った次元になれば、自然と波長は合わなくなるはず。
悪に善を返すのも面白そう。
彼に対して、愛を持って丁寧に親切に対応してみるのは
最高のプレイになりそうね。
日常的に法を犯す、または法を軽視している
つねに嘘をつき、他者を騙そうとする
衝動的で計画性がない
けんか腰で攻撃的
他者の安全性についてほとんど考慮しない
無責任で、金銭的にルーズ
良心の呵責や罪悪感がない
両者の共通点は、他者の権利や感情を軽視し、人を欺く。
「婚約破棄、謹んでお受けいたします」
ありがとうございました。
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