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首の垢
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「ゆう子ちゃん、首、お風呂で洗ったほうがいいよ」
「お風呂は入ってるよ」
「うーん、いいずらいけど、鏡見てる?」
ほんとにいいずらそうにとぎれとぎれに、話している。
人のよさそうな温和な笑顔からは、
私のために気を使いながら指摘してくれているのが
ひしひしと伝わってきていた。
「陸上部もバレー部もハードだからね」
友達がそれを聞いて、慌ててフォローしてくれる。
いやいや、フォローしなくていいよ。
見るに見かねて教えてくれたんだろうし……。
お店の鏡をのぞくと、制服のプリーツスカートの
ひだがよれよれになって、清潔感のかけらもなかった。
彼は、お姉ちゃん今津 千聖(いまず ちさと)25歳の婚約者。
竹澤 裕二(たけざわ ゆうじ)さん 31歳。
わたし、今津 ゆう子(12歳)は、姉の婚約者の実家の小売店で同級生と
買い食いを楽しんでいた。
このころのわたしは、中二病まっさかりで、
誰の注意も聞かなかった。
その場では、従順そうに聞いたふりをするのだが、
三歩歩くと同じことを繰り返していた。
事件は、その3日後に起きた。
なんとわたしは、ヘンゼルとグレーテルがお菓子の家に
迷い込んだように何も考えず、小さなかわいい家に
侵入してしまったのだ。
確かにこの小さな、過疎の村の家々には鍵がある家はなかった。
雨戸はついていても、ちゃんと閉める家は台風のときくらいしかなかったのだ。
そして、わたしは、その家の箪笥を開け、
きれいな淡いピンクのシミーズと缶の粉のジュースを盗んでしまった。
そんなことは、この平和な村では前代未聞で、大騒ぎになった。
日本の警察の捜査はすばらしい。
すぐにわたしは、村の駐在で朝から夜遅くまで詰問された。
そして、あることないこと吐かされたのである。
当然のように、年の離れた姉の婚約は、破棄されそうになる。
「そんな恐ろしいことをする妹のいる嫁をもらうことはできない」
「婚約破棄だ!!」
当然だよね。
それを何とか、両親や仲人いろんな人がとりなして、
大急ぎで結婚式は行われた。
ところが、わたしは悔いることもなく、
まるで悪霊でも取り付いたように悪行を繰り返す。
家出、盗み、学校をサボり、基地外のように荒れ狂う。
とうとう姉夫婦は、村にいたたまれなくなり、
他県に引っ越していってしまった。
そのときに、姉のだんなさんは、優しく
「鏡を見ようね」
とだけ言ってくださった。
鏡は嘘をつかない。
たぶん姉は、わたしのことでものすごい
誹謗中傷を受けていたと思う。
それをずっと、お兄ちゃんは支えてくださった。
首が垢だらけになっているなんて、
なかなか注意できるものではない。
まして、思春期の女の子に言えば、
一生口をきかないような状態になるかもしれない。
DQNな親だったら、逆恨みされそうだ。
そこには、新しく家族になるという意気込みさえ感じられる。
ありがとう。
先日、その義兄も身罷った。
死が二人を分かつまで添い遂げてくださった優しい義兄に、
心から感謝をささげたい。
桔梗の花が時の短さを知り、青さを増して咲き誇っている。
凛としたその生き様は義兄に似てると思った。
桔梗の花言葉は、「永遠の愛」「深い愛情」。
日本で古くから親しまれている桔梗、美しいお花ですよね。
「お風呂は入ってるよ」
「うーん、いいずらいけど、鏡見てる?」
ほんとにいいずらそうにとぎれとぎれに、話している。
人のよさそうな温和な笑顔からは、
私のために気を使いながら指摘してくれているのが
ひしひしと伝わってきていた。
「陸上部もバレー部もハードだからね」
友達がそれを聞いて、慌ててフォローしてくれる。
いやいや、フォローしなくていいよ。
見るに見かねて教えてくれたんだろうし……。
お店の鏡をのぞくと、制服のプリーツスカートの
ひだがよれよれになって、清潔感のかけらもなかった。
彼は、お姉ちゃん今津 千聖(いまず ちさと)25歳の婚約者。
竹澤 裕二(たけざわ ゆうじ)さん 31歳。
わたし、今津 ゆう子(12歳)は、姉の婚約者の実家の小売店で同級生と
買い食いを楽しんでいた。
このころのわたしは、中二病まっさかりで、
誰の注意も聞かなかった。
その場では、従順そうに聞いたふりをするのだが、
三歩歩くと同じことを繰り返していた。
事件は、その3日後に起きた。
なんとわたしは、ヘンゼルとグレーテルがお菓子の家に
迷い込んだように何も考えず、小さなかわいい家に
侵入してしまったのだ。
確かにこの小さな、過疎の村の家々には鍵がある家はなかった。
雨戸はついていても、ちゃんと閉める家は台風のときくらいしかなかったのだ。
そして、わたしは、その家の箪笥を開け、
きれいな淡いピンクのシミーズと缶の粉のジュースを盗んでしまった。
そんなことは、この平和な村では前代未聞で、大騒ぎになった。
日本の警察の捜査はすばらしい。
すぐにわたしは、村の駐在で朝から夜遅くまで詰問された。
そして、あることないこと吐かされたのである。
当然のように、年の離れた姉の婚約は、破棄されそうになる。
「そんな恐ろしいことをする妹のいる嫁をもらうことはできない」
「婚約破棄だ!!」
当然だよね。
それを何とか、両親や仲人いろんな人がとりなして、
大急ぎで結婚式は行われた。
ところが、わたしは悔いることもなく、
まるで悪霊でも取り付いたように悪行を繰り返す。
家出、盗み、学校をサボり、基地外のように荒れ狂う。
とうとう姉夫婦は、村にいたたまれなくなり、
他県に引っ越していってしまった。
そのときに、姉のだんなさんは、優しく
「鏡を見ようね」
とだけ言ってくださった。
鏡は嘘をつかない。
たぶん姉は、わたしのことでものすごい
誹謗中傷を受けていたと思う。
それをずっと、お兄ちゃんは支えてくださった。
首が垢だらけになっているなんて、
なかなか注意できるものではない。
まして、思春期の女の子に言えば、
一生口をきかないような状態になるかもしれない。
DQNな親だったら、逆恨みされそうだ。
そこには、新しく家族になるという意気込みさえ感じられる。
ありがとう。
先日、その義兄も身罷った。
死が二人を分かつまで添い遂げてくださった優しい義兄に、
心から感謝をささげたい。
桔梗の花が時の短さを知り、青さを増して咲き誇っている。
凛としたその生き様は義兄に似てると思った。
桔梗の花言葉は、「永遠の愛」「深い愛情」。
日本で古くから親しまれている桔梗、美しいお花ですよね。
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