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婚約破棄 ADHD2
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「なー、この状態でどうやって二人の関係を続けていけばいいんだ?」
西田 将 29歳。
関本 幸子 23才。
二人は婚約中だった。
俺は彼女が大好きだった。
そして、結婚もしていないのに、彼女と一線を越えてしまった。
だから、俺には彼女を妻に迎える義務があると思っている。
だけど、この状態で彼女と結婚しても多分一週間も一緒にいられないだろう。
理由は、
うーん、大好きな人の悪口をいいたいわけじゃない。
誹謗中傷したいわけじゃない。
俺自身、どうしたらいいかわからなくなっていた。
具体的に?
そうだな、じゃあ、突然、今、彼女のアパートを訪ねてみようか?
彼女は家賃65000円のアパートに一人で暮らしている。
彼女は、一階にしか住まない。
高所恐怖症らしい。
では、訪問してみます。
玄関脇には、100株以上のお花が植えられた鉢が並んでいる。
すごくきれいだ。
赤、黄色、白、青、オレンジ。
虹の雫が落ちてきたかと思うほど、色鮮やかだ。
手入れの行き届いた花々は、
見ていても気持ちがいい。
ここだけを見て、彼女を判断すると、
優しくてまめに掃除をして、
細やかなところまで行き届いていて、
素敵な女性なんだろうなと思う。
俺もずっとそう思っていた。
彼女のおうちの中にはいったことがなかったから。
俺もお花が嫌いじゃない。
だから、結婚を申し込んだときには
楽しい結婚生活を夢見ていたんだ。
一緒にお花を買いにいったり、
ホームセンターに出かけたり、
そして、自然が地球が大好きな彼女と
癒しの空間を共有できると信じていた。
ところがである。
一歩家の中にはいると、
そこはごみ屋敷だった。
玄関を入ってすぐの場所には、
長い緑色のホースがとぐろを巻いている。
しかも、適当にしまったらしくとても乱雑に
しまえばいいでしょうって感じに。
そして、すぐそばには汚れたビニール袋が散乱している。
球根が中に入ったものや、腐葉土が入ったもの、
培養が入ったもの、空のものまで……。
二人分の靴を並べておくことさえ叶わない。
こんな玄関が存在するなんて。
前代未聞、俺の頭の中では、
ここはすでにガーデニングのための物置である。
玄関というのはその家の顔。
どうしてあのきれいなお庭の持ち主が
こんな状態にしておけるのか
一瞬、俺は目を疑う。
もう、もう、これだけでアウトだろう。
「婚約破棄だー」
怒りが湧き起こってくる。
こんな状態で、よくもまあまあ、俺の球根を樹里。
違う、求婚を受理してくれちゃいましたねー。
怒りが入道雲のようにもくもくと湧き起こってくる。
よく彼女のことを調べもしないで求婚した自分自身に対してなのか、
片付けられない女なのに、結婚しようとしている彼女に対してなのか
心の中は、歩行者天国のスクランブル交差点に何台も車が入り込んでるみたいな。
大声上げて泣きたいよ。
どうすりゃいいんだよ。
なんとかしてくれよ。
彼女は彼女で、突然の俺の訪問に、
そして、無理やりに中を見ようとする俺の強行突破に
うずくまって顔を覆っている。
あーあ、女の子泣かしちゃいけないんだよ。
前はホース、外に丸めて紐でくくってしまってたらしいが
盗まれてしまったのだという。
お金持ちの令嬢みたいにメイドでもつけないとだめなのかな。
お友だちが年中、遊びに来ていたときには
もう少しきれいだったとか。
うーん、外のお花はきれいに片付いているのにな。
枯れた葉さえ、手入れしてあるのに。
賢い男は、この時点でギブアップするのだろう。
新しい女を捜すか。
それとも、彼女と共に闘うか。
でもさー、片付けは生活の基本だろう。
それに俺は、彼女のこの現状に何の知識もない。
病気なのか、それとも単にだらしないのか
なおるのかなおらないのかも……。
あるのは、彼女への愛だけ。
それさえも、すりガラスのように
透明度が失せていく。
ざくろがたわわに実り、
大きく赤く膨らんでいる。
アメリカン花見月の葉の色が変わっていく。
風たちぬ。今は秋。
季節も植物も光さえも変わっていく。
葉鶏頭の黄色の葉のそばに大きな蜘蛛が巣を張っている。
はー。彼女が変わるって信じられない自分が悲しい。
よし、逃げない。
もう少し見てみよう。
玄関を入ってすぐ、台所。
流しの横のガスコンロは、油でギトギト。
床もギトギトてかてか。
流しに洗い物はたまってはいない。
水回りも比較的綺麗にしてある。
換気扇はかろうじて回っている。
台所に洗濯機が置いてある。
洗濯はまめにできているみたい。
お風呂場は、タイルの間のカビが黒くその存在を強調している。
床のタイルは、まあまあきれいな状態かな。
トイレは、これは驚いた。
なぜか、ここだけはピカピカ。
へー。できているところもあるじゃん。
大きなテーブルの上には、観葉植物がいくつも並んでいる。
片づけられないんなら邪魔だから買ってくるなよ。
冷蔵庫の中は、正味切れの瓶やチューブがいっぱい。
奥の6畳の和室には、なぜか布団が敷きっぱなし。
そして、ご丁寧に大きなスプーンが二本置いてある。
葡萄やニッキの飴が転がっている。
パソコンの前は、耳かきや体温計や傷薬、
コーヒーの入ったマグカップ。
パソコンは一人暮らしなのに、
なぜか三台もある。
はー。捨てられない人なのかな。
そして、うずたかく積まれた乾いた洗濯物。
窓に干した洗濯物をそのままここに置いているのだろう。
たためよ。ほんとにはらたつなー。
押入れを開けたら、上半分に押入れダンス。
下の段は、全部押入れダンス。
右隅に、掃除機が入っている。
引き出しを開けると、
なぜか分類されて、きちんとたたんである。
うーん、ちゃんとできているところもあるんだよな。
さて、どうしましょうか。
顔をうずめて泣いていた彼女は、こわごわこちらを覗いてる。
「どうしたいんだ」
聞けば子供の頃から、片づけられない女だったらしい。
遅刻、忘れ物もひどいらしい。
『注意欠陥障害』
そういう病気なのだという。
ならば、それに対処すればいいのか。
それは何とかなるものなのか。
助け合って、結婚生活ができる状態になるのか。
それとも、俺はこのごみ屋敷状態に我慢できなくなって、
結婚しても何か月かで離婚しなきゃいけない状態なのか。
そういうのは誰に相談すればいいんだ。
「わかったよ、一緒に調べてみよう」
雨が止んだ今 視界は良好さ
俺に立ちはだかるものが全部見えるよ
空を遮っていた雲が流れていった
眩しいくらい 明るい1日になる
一回くらい誰かを期待してみようぜ
物を減らす
定位置を決める
床に物を置かない
一週間で来たら、婚約続行
それでだめなら、
「婚約破棄だー」
西田 将 29歳。
関本 幸子 23才。
二人は婚約中だった。
俺は彼女が大好きだった。
そして、結婚もしていないのに、彼女と一線を越えてしまった。
だから、俺には彼女を妻に迎える義務があると思っている。
だけど、この状態で彼女と結婚しても多分一週間も一緒にいられないだろう。
理由は、
うーん、大好きな人の悪口をいいたいわけじゃない。
誹謗中傷したいわけじゃない。
俺自身、どうしたらいいかわからなくなっていた。
具体的に?
そうだな、じゃあ、突然、今、彼女のアパートを訪ねてみようか?
彼女は家賃65000円のアパートに一人で暮らしている。
彼女は、一階にしか住まない。
高所恐怖症らしい。
では、訪問してみます。
玄関脇には、100株以上のお花が植えられた鉢が並んでいる。
すごくきれいだ。
赤、黄色、白、青、オレンジ。
虹の雫が落ちてきたかと思うほど、色鮮やかだ。
手入れの行き届いた花々は、
見ていても気持ちがいい。
ここだけを見て、彼女を判断すると、
優しくてまめに掃除をして、
細やかなところまで行き届いていて、
素敵な女性なんだろうなと思う。
俺もずっとそう思っていた。
彼女のおうちの中にはいったことがなかったから。
俺もお花が嫌いじゃない。
だから、結婚を申し込んだときには
楽しい結婚生活を夢見ていたんだ。
一緒にお花を買いにいったり、
ホームセンターに出かけたり、
そして、自然が地球が大好きな彼女と
癒しの空間を共有できると信じていた。
ところがである。
一歩家の中にはいると、
そこはごみ屋敷だった。
玄関を入ってすぐの場所には、
長い緑色のホースがとぐろを巻いている。
しかも、適当にしまったらしくとても乱雑に
しまえばいいでしょうって感じに。
そして、すぐそばには汚れたビニール袋が散乱している。
球根が中に入ったものや、腐葉土が入ったもの、
培養が入ったもの、空のものまで……。
二人分の靴を並べておくことさえ叶わない。
こんな玄関が存在するなんて。
前代未聞、俺の頭の中では、
ここはすでにガーデニングのための物置である。
玄関というのはその家の顔。
どうしてあのきれいなお庭の持ち主が
こんな状態にしておけるのか
一瞬、俺は目を疑う。
もう、もう、これだけでアウトだろう。
「婚約破棄だー」
怒りが湧き起こってくる。
こんな状態で、よくもまあまあ、俺の球根を樹里。
違う、求婚を受理してくれちゃいましたねー。
怒りが入道雲のようにもくもくと湧き起こってくる。
よく彼女のことを調べもしないで求婚した自分自身に対してなのか、
片付けられない女なのに、結婚しようとしている彼女に対してなのか
心の中は、歩行者天国のスクランブル交差点に何台も車が入り込んでるみたいな。
大声上げて泣きたいよ。
どうすりゃいいんだよ。
なんとかしてくれよ。
彼女は彼女で、突然の俺の訪問に、
そして、無理やりに中を見ようとする俺の強行突破に
うずくまって顔を覆っている。
あーあ、女の子泣かしちゃいけないんだよ。
前はホース、外に丸めて紐でくくってしまってたらしいが
盗まれてしまったのだという。
お金持ちの令嬢みたいにメイドでもつけないとだめなのかな。
お友だちが年中、遊びに来ていたときには
もう少しきれいだったとか。
うーん、外のお花はきれいに片付いているのにな。
枯れた葉さえ、手入れしてあるのに。
賢い男は、この時点でギブアップするのだろう。
新しい女を捜すか。
それとも、彼女と共に闘うか。
でもさー、片付けは生活の基本だろう。
それに俺は、彼女のこの現状に何の知識もない。
病気なのか、それとも単にだらしないのか
なおるのかなおらないのかも……。
あるのは、彼女への愛だけ。
それさえも、すりガラスのように
透明度が失せていく。
ざくろがたわわに実り、
大きく赤く膨らんでいる。
アメリカン花見月の葉の色が変わっていく。
風たちぬ。今は秋。
季節も植物も光さえも変わっていく。
葉鶏頭の黄色の葉のそばに大きな蜘蛛が巣を張っている。
はー。彼女が変わるって信じられない自分が悲しい。
よし、逃げない。
もう少し見てみよう。
玄関を入ってすぐ、台所。
流しの横のガスコンロは、油でギトギト。
床もギトギトてかてか。
流しに洗い物はたまってはいない。
水回りも比較的綺麗にしてある。
換気扇はかろうじて回っている。
台所に洗濯機が置いてある。
洗濯はまめにできているみたい。
お風呂場は、タイルの間のカビが黒くその存在を強調している。
床のタイルは、まあまあきれいな状態かな。
トイレは、これは驚いた。
なぜか、ここだけはピカピカ。
へー。できているところもあるじゃん。
大きなテーブルの上には、観葉植物がいくつも並んでいる。
片づけられないんなら邪魔だから買ってくるなよ。
冷蔵庫の中は、正味切れの瓶やチューブがいっぱい。
奥の6畳の和室には、なぜか布団が敷きっぱなし。
そして、ご丁寧に大きなスプーンが二本置いてある。
葡萄やニッキの飴が転がっている。
パソコンの前は、耳かきや体温計や傷薬、
コーヒーの入ったマグカップ。
パソコンは一人暮らしなのに、
なぜか三台もある。
はー。捨てられない人なのかな。
そして、うずたかく積まれた乾いた洗濯物。
窓に干した洗濯物をそのままここに置いているのだろう。
たためよ。ほんとにはらたつなー。
押入れを開けたら、上半分に押入れダンス。
下の段は、全部押入れダンス。
右隅に、掃除機が入っている。
引き出しを開けると、
なぜか分類されて、きちんとたたんである。
うーん、ちゃんとできているところもあるんだよな。
さて、どうしましょうか。
顔をうずめて泣いていた彼女は、こわごわこちらを覗いてる。
「どうしたいんだ」
聞けば子供の頃から、片づけられない女だったらしい。
遅刻、忘れ物もひどいらしい。
『注意欠陥障害』
そういう病気なのだという。
ならば、それに対処すればいいのか。
それは何とかなるものなのか。
助け合って、結婚生活ができる状態になるのか。
それとも、俺はこのごみ屋敷状態に我慢できなくなって、
結婚しても何か月かで離婚しなきゃいけない状態なのか。
そういうのは誰に相談すればいいんだ。
「わかったよ、一緒に調べてみよう」
雨が止んだ今 視界は良好さ
俺に立ちはだかるものが全部見えるよ
空を遮っていた雲が流れていった
眩しいくらい 明るい1日になる
一回くらい誰かを期待してみようぜ
物を減らす
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