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婚約破棄 結納
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伊達 淳 24歳
毛利 秋 24歳
二人は、アルバイトのお弁当屋さんで知り合った。
1年の付き合いを終え、結婚を申し込まれた。
青く澄み切った空にうろこ雲がうかぶ。
チュウレンジバチがオレンジ色のおなかを見せびらかせて
何匹も飛んでいた。
「赤とんぼなら、良かったのにな」
サーと爽やかな風が世界中の秋晴れを運んでくる。
本日はお日柄もよろしく、結納である。
わたくし、秋の親の承諾を得るということも兼ねて
略式で結納を執り行う。
正式結納は、仲人に両家を行き来してもらうことで成立し、両家同士は顔を合わせないのが特徴。
略式結納は、正式結納よりもライトなスタイルで行われる結納で、料亭やレストランなどに両家が集まり、その場で結納品を納めるという形式で進められる。
・お日柄もよく
・幾久しくお納めください
・幾久しくお受けいたします
など、聴きなれない言葉が飛び交い、
略式とはいえ、人生の新しい門出と
わたくしも伊達 淳さまも心を新たにした。
無事に式も終わり、食事会となった。
わたくしの父が、
「年収は?」
「お父さんやお母さんは?」
と、聞いている。
大切に育てた娘なのだから、
仕方ないかなと思い聞いていた。
ところが、質問が進むに連れ、
父の顔が変わってく。
「ええーい、この婚約はなしだ」
ええええええええええええ。
「婚約は破棄する」
と、怒鳴り声で父がいう。
母は、黙ってみていた。
「貴様、よくも大切な娘を
そんな年収とそんな学歴と、
そんな家庭事情で結婚したいとか
ほざきおって」
なんということでしょう。
何事もなく、顔合わせをして、
快く承諾いただけると思っていたのに。
うーん、この頑固親父。
失礼、かたくななお父様。
彼は、寂しそうに食事を終えることもなく、
立ち去っていった。
ああ、これで終わりなの?
確かに、彼のご両親は彼が高校のときに
交通事故でお二人とも亡くなられている。
兄弟もいないので、楽しい家庭ではない。
でも、仕事の態度も普段の所作もどこに出しても
恥ずかしくない男性だった。
責任感もつょく、思いやりがあり、
わたくしには過ぎたお相手と思っていたのに……。
こんなに愛し合っているのに。
こんなに大切な人だと思っているのに。
世の中はなんて無慈悲なんでしょう。
わたくしは、ショックで何日も部屋にこもっていた。
1週間くらい過ぎただろうか。
涙も枯れ果てて、庭の宮城野萩をぼーと眺めていたとき、
おじいさまがそっと様子を見にこられた。
「どうした?無事に結納も終わったんだろうに、秋らしくないね」
「実は、お父様が……」
わたくしは、おじい様に今回の一部始終を報告した。
「秋、お前はまだ大切なことがわかっていないね」
「はい?」
「困ったときは、一人で悩んでいないで、
報告、連絡、相談だ。
三人寄れば文殊の知恵といってな。
一人では到底乗り越えられないようなことも、
話すことによって、思っていない解決策があるもんじゃ」
と、笑って頭をなでてくださった。
実は、アルバイトをしていたお弁当屋さんは、
おじいさまが経営しているチェーン店だった。
そして、そこで働けと命令されたのも
おじい様だった。
次の日、お父様とお母様、そして、許婚の伊達 淳さまが
おじい様に呼ばれた。
おじい様は、お父様に、
「お前もまだまだじゃのー。どうじゃ、修行しなおして来い」
と、言われた。
「大切なのは、中身じゃ」
突然のことに父は、下を向いたまま小さく頷ずいている。
おじい様は、彼に
「ふつつかな孫じゃが、よろしく頼む」
と、ふかふかと頭を下げた。
彼も、安心したのか少し笑顔で同じように
深々と頭を下げている。
お父様は、地方の営業所に修行のため転勤。
そして、彼はアルバイトをしていたお弁当屋さんで
店長見習いをすることになった。
「大切なのは、家柄でも学歴でも収入でもない。
そんなものは、どんどん変わっていくんじゃ」
と、大笑いをしている。
「心じゃ、つながりじゃ」
紫苑の薄紫のお花が風に揺れて嬉しそう。
爽やかな秋風の中、
それぞれが変化し成長していくひと時だった。
来春には、無事に結婚式を迎えることができます。
ありがとうございます。
毛利 秋 24歳
二人は、アルバイトのお弁当屋さんで知り合った。
1年の付き合いを終え、結婚を申し込まれた。
青く澄み切った空にうろこ雲がうかぶ。
チュウレンジバチがオレンジ色のおなかを見せびらかせて
何匹も飛んでいた。
「赤とんぼなら、良かったのにな」
サーと爽やかな風が世界中の秋晴れを運んでくる。
本日はお日柄もよろしく、結納である。
わたくし、秋の親の承諾を得るということも兼ねて
略式で結納を執り行う。
正式結納は、仲人に両家を行き来してもらうことで成立し、両家同士は顔を合わせないのが特徴。
略式結納は、正式結納よりもライトなスタイルで行われる結納で、料亭やレストランなどに両家が集まり、その場で結納品を納めるという形式で進められる。
・お日柄もよく
・幾久しくお納めください
・幾久しくお受けいたします
など、聴きなれない言葉が飛び交い、
略式とはいえ、人生の新しい門出と
わたくしも伊達 淳さまも心を新たにした。
無事に式も終わり、食事会となった。
わたくしの父が、
「年収は?」
「お父さんやお母さんは?」
と、聞いている。
大切に育てた娘なのだから、
仕方ないかなと思い聞いていた。
ところが、質問が進むに連れ、
父の顔が変わってく。
「ええーい、この婚約はなしだ」
ええええええええええええ。
「婚約は破棄する」
と、怒鳴り声で父がいう。
母は、黙ってみていた。
「貴様、よくも大切な娘を
そんな年収とそんな学歴と、
そんな家庭事情で結婚したいとか
ほざきおって」
なんということでしょう。
何事もなく、顔合わせをして、
快く承諾いただけると思っていたのに。
うーん、この頑固親父。
失礼、かたくななお父様。
彼は、寂しそうに食事を終えることもなく、
立ち去っていった。
ああ、これで終わりなの?
確かに、彼のご両親は彼が高校のときに
交通事故でお二人とも亡くなられている。
兄弟もいないので、楽しい家庭ではない。
でも、仕事の態度も普段の所作もどこに出しても
恥ずかしくない男性だった。
責任感もつょく、思いやりがあり、
わたくしには過ぎたお相手と思っていたのに……。
こんなに愛し合っているのに。
こんなに大切な人だと思っているのに。
世の中はなんて無慈悲なんでしょう。
わたくしは、ショックで何日も部屋にこもっていた。
1週間くらい過ぎただろうか。
涙も枯れ果てて、庭の宮城野萩をぼーと眺めていたとき、
おじいさまがそっと様子を見にこられた。
「どうした?無事に結納も終わったんだろうに、秋らしくないね」
「実は、お父様が……」
わたくしは、おじい様に今回の一部始終を報告した。
「秋、お前はまだ大切なことがわかっていないね」
「はい?」
「困ったときは、一人で悩んでいないで、
報告、連絡、相談だ。
三人寄れば文殊の知恵といってな。
一人では到底乗り越えられないようなことも、
話すことによって、思っていない解決策があるもんじゃ」
と、笑って頭をなでてくださった。
実は、アルバイトをしていたお弁当屋さんは、
おじいさまが経営しているチェーン店だった。
そして、そこで働けと命令されたのも
おじい様だった。
次の日、お父様とお母様、そして、許婚の伊達 淳さまが
おじい様に呼ばれた。
おじい様は、お父様に、
「お前もまだまだじゃのー。どうじゃ、修行しなおして来い」
と、言われた。
「大切なのは、中身じゃ」
突然のことに父は、下を向いたまま小さく頷ずいている。
おじい様は、彼に
「ふつつかな孫じゃが、よろしく頼む」
と、ふかふかと頭を下げた。
彼も、安心したのか少し笑顔で同じように
深々と頭を下げている。
お父様は、地方の営業所に修行のため転勤。
そして、彼はアルバイトをしていたお弁当屋さんで
店長見習いをすることになった。
「大切なのは、家柄でも学歴でも収入でもない。
そんなものは、どんどん変わっていくんじゃ」
と、大笑いをしている。
「心じゃ、つながりじゃ」
紫苑の薄紫のお花が風に揺れて嬉しそう。
爽やかな秋風の中、
それぞれが変化し成長していくひと時だった。
来春には、無事に結婚式を迎えることができます。
ありがとうございます。
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