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婚約破棄 胃袋を奪われた婚約者
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「ごめん、君との婚約、破棄する」
それは、結婚式を1ヶ月後に控えた9月の初旬だった。
わたくし、細井 玲子23歳は、突然、婚約者である菅原 和久29歳から、
婚約を破棄された。
理由は……。
「彼女の料理がおいしくて……。ごめん」
と、いうのだ。
「かわいいね」
「その服、似合うね」
いつも褒めてくれていたのに。
一杯愛してくれていたのに……。
男心と秋の空ですか。
まだらなうろこ雲が季節を知らせる。
空はどこまでも高く青く。
食いにくい肉、胃に来る。
衣食住は生活の基本。
結婚生活の黄ばんだ。
あら、基盤だ。
彼女の料理がないと生きていけないというのだ。
そこまで言われたら、乾杯である。
あら、完敗である。
わたくしと、彼とは同じ会社に勤務している。
付き合って、二年になる。
身勝手すぎる恋だと
世界が後ろから指差しても♪
Official髭男dism - イエスタデイがBGMで流れる。
みるみるうちに、涙があふれてくる。
聞けば、デートのたびに彼女の家に呼ばれ、
おいしい料理をふるまわれたという。
それは、わたくしとて同じこと。
わたくしも、デートのたびに腕を振るったつもりだった。
ヘルシーでバランスのとれた食事を志してきたのだ。
隠し味に♥も添えてね。
旬と彩を織り成したつもりだったんだけどな……。
「何だろう、愛情が違うのかな」
彼は、思い出すように目を細める。
きゅといつもならあがっている口角が緩む。
思い出しただけで、口の中が唾液で一杯にでもなってるのだろうか。
わたくし、これでも彼のためにふぐの調理師免許まで取ったのに。
「たとえば、どんなメニューなの?」
「そうだな、ナポリタンとかハンバーグとかオムライスとかカレーとか」
はー?
お子ちゃま、メニュー。
わたくしの作る料理は、高たんぱく低カロリーの
豆腐を使ったものが多かった。
あなたのお父様が糖尿病だとおっしゃっていたから、
和食をたくさん学んできたのに。
まあ、それでも好きなものは好きなのだろう。
彼が幸せならそれでいい。
「そう、残念ね、今までありがとう」
「慰謝料とかは弁護士から連絡されるから。
ほんとうにすまんなー」
申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる彼。
大好きなのにな。
要するに、彼女に菅原 和久さんの胃袋を盗まれてしまったということよね。
カロリーや栄養まで気をつけていたのにな。
ええい、女々しい。
きっぱりと諦めて、祝福しましょう。
大好きな彼が幸せになるんだから。
FORTNUM&MASON(フォートナム&メイソン)
アールグレイクラシックが、フッチェンロイターの
柔らかなミントグリーンのティーカップの中で
微かに揺らぐ。
同じものがこんなに味が変わるのかと思うほど、
味も香りも楽しめなかった。
カップのボタニカル柄も、
婚約者を奪った彼女の笑顔みたいで、
好きになれなかった。
この切ない気持ちはきっと時が解決してくれるでしょう。
壁に飾られている、横田美晴先生の女の子も
いつもは優しい笑顔に見えるのに
今日はやけに空々しい。
自分の心しだいで、
すべてのものが色あせ意味のないものに見えてしまう。
あんなに紙ナプキンでさえ、はしゃいで輝いて見えていたのに。
朝の10時過ぎだというのに、気温は32度を超えている。
湿気のないまばらな雲が驚くほど速く流れている。
初秋だというのに、太陽はいつもより光を増して
ギラギラと夏の日のように照り付けている。
帰りにお花やさんで、白い菊の花束を買った。
今日は、婚約破棄された自分のお葬式。
明日からは、新しい自分。
今日だけは、布団かぶって泣きたかった。
菊の花の香りが気高く鼻をくすぐる。
小さな美しい花弁が上へ上へと伸びている。
「楽しかったよ」
୧꒰*´꒳`*꒱૭✧
あれから、10年の年月がたった。
今日は、菅原 和久さんの一周忌。
彼は、重度の糖尿病になり、
高コレステロールと高血圧、
血糖値400越えという不健康極まりない体となって、
新型の感染症で亡くなってしまった。
噛まずに食えばカマスかマスかますます分からず
彼女の料理に魅せられて婚約破棄をした彼は
彼女の料理で殺される。
ざまぁというには、わたくしはまだ彼を愛していた。
食べたいものを食べ、
飲みたいものを飲んでいたのでは
健康からかけ離れていくことを
彼を通して痛感させられる。
体は食べ物で作られる。
心は聞いた言葉で作られる。
未来は話した言葉で作られる。
惜しい人を亡くしました。
なむー。
このように,栄養失調は,栄養不足,
特定の栄養素の欠乏,栄養過多などをはじめ,
種々の不健康な状態に関係している。
そして,世界中で実に大規模に,人命を奪い,
障害を負わせ,知的発育を遅らせ,手足を不自由にし,
目を見えなくし,人の成長を阻害している。
ほら、曙草が白いお花を咲かせている。
花冠は深く5裂し、裂片には黄緑色の蜜腺溝が
2個と濃い緑色の斑点がたくさん。
いろんな人がいていろんな人生があって
それでいい。
花言葉は前向き。
食事のバランス、大切だよね。
胃袋神話、いかがでしたか。
どう思われましたか。
あなたは、「男をつかむなら胃袋をつかめ」についてどう思う?
「その通りだと思う」……70.6%
「そうは思わない」……29.4%
それは、結婚式を1ヶ月後に控えた9月の初旬だった。
わたくし、細井 玲子23歳は、突然、婚約者である菅原 和久29歳から、
婚約を破棄された。
理由は……。
「彼女の料理がおいしくて……。ごめん」
と、いうのだ。
「かわいいね」
「その服、似合うね」
いつも褒めてくれていたのに。
一杯愛してくれていたのに……。
男心と秋の空ですか。
まだらなうろこ雲が季節を知らせる。
空はどこまでも高く青く。
食いにくい肉、胃に来る。
衣食住は生活の基本。
結婚生活の黄ばんだ。
あら、基盤だ。
彼女の料理がないと生きていけないというのだ。
そこまで言われたら、乾杯である。
あら、完敗である。
わたくしと、彼とは同じ会社に勤務している。
付き合って、二年になる。
身勝手すぎる恋だと
世界が後ろから指差しても♪
Official髭男dism - イエスタデイがBGMで流れる。
みるみるうちに、涙があふれてくる。
聞けば、デートのたびに彼女の家に呼ばれ、
おいしい料理をふるまわれたという。
それは、わたくしとて同じこと。
わたくしも、デートのたびに腕を振るったつもりだった。
ヘルシーでバランスのとれた食事を志してきたのだ。
隠し味に♥も添えてね。
旬と彩を織り成したつもりだったんだけどな……。
「何だろう、愛情が違うのかな」
彼は、思い出すように目を細める。
きゅといつもならあがっている口角が緩む。
思い出しただけで、口の中が唾液で一杯にでもなってるのだろうか。
わたくし、これでも彼のためにふぐの調理師免許まで取ったのに。
「たとえば、どんなメニューなの?」
「そうだな、ナポリタンとかハンバーグとかオムライスとかカレーとか」
はー?
お子ちゃま、メニュー。
わたくしの作る料理は、高たんぱく低カロリーの
豆腐を使ったものが多かった。
あなたのお父様が糖尿病だとおっしゃっていたから、
和食をたくさん学んできたのに。
まあ、それでも好きなものは好きなのだろう。
彼が幸せならそれでいい。
「そう、残念ね、今までありがとう」
「慰謝料とかは弁護士から連絡されるから。
ほんとうにすまんなー」
申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる彼。
大好きなのにな。
要するに、彼女に菅原 和久さんの胃袋を盗まれてしまったということよね。
カロリーや栄養まで気をつけていたのにな。
ええい、女々しい。
きっぱりと諦めて、祝福しましょう。
大好きな彼が幸せになるんだから。
FORTNUM&MASON(フォートナム&メイソン)
アールグレイクラシックが、フッチェンロイターの
柔らかなミントグリーンのティーカップの中で
微かに揺らぐ。
同じものがこんなに味が変わるのかと思うほど、
味も香りも楽しめなかった。
カップのボタニカル柄も、
婚約者を奪った彼女の笑顔みたいで、
好きになれなかった。
この切ない気持ちはきっと時が解決してくれるでしょう。
壁に飾られている、横田美晴先生の女の子も
いつもは優しい笑顔に見えるのに
今日はやけに空々しい。
自分の心しだいで、
すべてのものが色あせ意味のないものに見えてしまう。
あんなに紙ナプキンでさえ、はしゃいで輝いて見えていたのに。
朝の10時過ぎだというのに、気温は32度を超えている。
湿気のないまばらな雲が驚くほど速く流れている。
初秋だというのに、太陽はいつもより光を増して
ギラギラと夏の日のように照り付けている。
帰りにお花やさんで、白い菊の花束を買った。
今日は、婚約破棄された自分のお葬式。
明日からは、新しい自分。
今日だけは、布団かぶって泣きたかった。
菊の花の香りが気高く鼻をくすぐる。
小さな美しい花弁が上へ上へと伸びている。
「楽しかったよ」
୧꒰*´꒳`*꒱૭✧
あれから、10年の年月がたった。
今日は、菅原 和久さんの一周忌。
彼は、重度の糖尿病になり、
高コレステロールと高血圧、
血糖値400越えという不健康極まりない体となって、
新型の感染症で亡くなってしまった。
噛まずに食えばカマスかマスかますます分からず
彼女の料理に魅せられて婚約破棄をした彼は
彼女の料理で殺される。
ざまぁというには、わたくしはまだ彼を愛していた。
食べたいものを食べ、
飲みたいものを飲んでいたのでは
健康からかけ離れていくことを
彼を通して痛感させられる。
体は食べ物で作られる。
心は聞いた言葉で作られる。
未来は話した言葉で作られる。
惜しい人を亡くしました。
なむー。
このように,栄養失調は,栄養不足,
特定の栄養素の欠乏,栄養過多などをはじめ,
種々の不健康な状態に関係している。
そして,世界中で実に大規模に,人命を奪い,
障害を負わせ,知的発育を遅らせ,手足を不自由にし,
目を見えなくし,人の成長を阻害している。
ほら、曙草が白いお花を咲かせている。
花冠は深く5裂し、裂片には黄緑色の蜜腺溝が
2個と濃い緑色の斑点がたくさん。
いろんな人がいていろんな人生があって
それでいい。
花言葉は前向き。
食事のバランス、大切だよね。
胃袋神話、いかがでしたか。
どう思われましたか。
あなたは、「男をつかむなら胃袋をつかめ」についてどう思う?
「その通りだと思う」……70.6%
「そうは思わない」……29.4%
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