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婚約破棄 ストリートチルドレン
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沸きおこる群雲、とどろく雷鳴。
光は走り、稲妻が天空を駆け抜ける。
ゲリラ豪雨。
大粒の雨が叩きつけるように道路を打つ。
私の名前は、山内 雅美。
9月2日、今日20歳の誕生日を迎えます。
高等学校5年一貫教育の学校に通っています。
来春卒業です。
卒業すると、正看護師の資格が取れます。
愛媛県大洲市にあるので、女子寮に入っています。
今日は、私の誕生日をお祝いしてくれるということで
婚約者が会いに着てくれます。
ひさしぶりに会えるので、とてもどきどきして楽しみです。
長田 幹夫 32歳。
不動産会社の社長さんです。
彼とであったのは、東京の池袋のサンシャインです。
家出中だったわたしは、サンシャインの中で
その日あったストリートチルドレンの仲間たちと
寝泊りしていました。
シンナートルエンのオロナミンCの瓶に入ったやつを買って
ビニールに入れてすったり、
鎮痛剤のOD。多量服用。
白い粉に手を出している人もいるみたい。
わたしはまだお子ちゃまだったから、
手をだしていなかったのだけど……。
すごく寒いときは、池袋駅の地下に行って
ホームレスのおじさんたちのダンボールの中で寝たりしていました。
デパ地下のお惣菜の残りとかすごく美味で、
自分の家にいるよりは殴られることも
義理の父にいたずらされることもないので
安心して過ごすことができました。
ちょうど5年前、15歳になったばかりの時、
昼間、サンシャインの水族館の前で
パンフレットを見ていると、
長田 幹夫さんが、いきなり
「家出でもしているの?」
と、声をかけてきたのです。
私服の刑事さんかと思ってびっくりしていると、
名刺を出されて
「せっかく、きれいな顔してるのにもったいないよ」
と、言われるのです。
物好きですよね。
てっきり、補導されて保護センターに送られると思っていたので
そうじゃないとわかると緊張が解けて、
へなへなとその場に座りこんでしまいました。
わたしはとても疲れていて、
ゆっくり眠りたかった。
もう、誰でも良かった。
どこでも良かったんです。
今が楽しければいい。
積み上げるものなんて何もないんだから。
投げやりな考え方。
親も自分も大嫌い。
そのくせ、満たされない思いでもう自分自身と折り合いがつけられなくて
どう扱ったらいいのかわからなかった。
一つだけできることがあるとしたら、
何を大切にして続けていけばいいかも霧の中。
暗中模索だったんです。
真っ暗なトンネルの中を手探りで裸足で歩いているような
危なげな足取り。
いっそのこと、かあさんの子宮に戻りたかった。
やりきれない思いでいっぱいだったんです。
少しお話をして、サンシャインのプリンスホテルに連れて行ってもらいました。
お風呂に入ったり、ルームサービスを頼んで一緒に食事をしたり
夢のような時間を過ごすことができました。
まるで、シンデレラみたいですよね。
ネットでお洋服を探して、
バーバリーのお洋服とバックと靴を揃えてくださったんです。
あのお決まりのタータンチェックがかわいい。
その当時、中学校3年生でした。
でも、学校にはほとんど行っていないから
「高校に行きたくないの?」
と、聞かれても勉強着いていけるわけもないと思っていたのです。
半年間、家庭教師をつけてもらって猛勉強をしました。
病院にも連れて行ってくださって、いろんな検査をしました。
ラッキーなことに何の病気にもかかっていないことを確かめると、
愛媛県大洲市にある学校に5年間行って、卒業できたら
結婚しようといってくださいました。
夢ならば、このまま覚めないで欲しい。
絶対に無理だ。
どうせいられなくなって、また家出してしまうと思っていたのですが、
何故か奇跡のように続いています。
しかも、いじめもなく青春を謳歌できているんです。
わたしはまるで、お金持ちのお嬢様のように
必要なものはすべて手に入れることができて、
文具も洋服も日用品も有り余るほど与えられていました。
実の親とも連絡をちゃんと取ってくださっていて、
はばかることなく日々を過ごすことができたのです。
心から感謝しています。
彼がいなかったら、今頃はストリートチルドレンで
体でも売って、性病になって悲しい秋を迎えていたかもしれません。
郷土料理のお店に連れて行っていただきました。
とんくりまぶしという釜飯のようなものをいただきました。
栗と豚肉がとっても濃厚なお味。
栗はあまーくぽっくりしてる。
帰りがけに、長田 幹夫さんはぼそっと
「卒業するまではお金を送れるけど
その後は、どこかの病院の寮にでも入って
お金をためてアパートを借りてくれ」
と、言われたのです。
「どうしたんですか」
「新型感染症で、オリンピックがなくなって
タワーマンションが売れなくなって、
会社が倒産したんだ」
「長田 幹夫さんの生活は大丈夫なんですか」
「いや、大丈夫じゃない。
だから、卒業しても結婚できなくなった。
婚約は破棄してくれ」
「わたしが働きます」
「今君にできるのは、ちゃんと卒業して、
資格を取るんだ、それだけを考えて」
なんてことなんでしょう。
やっぱり、夢のような生活は永遠に続かないんですね。
必ず、つらい悲しい現実に引き戻される。
寮に帰る道は、青い稲穂が風にサーと揺れ、
何もなかったかのようにキラキラと陽光が輝いています。
曼珠沙華が真っ赤な花を揺らめかせ、
燃え尽きることのない命の火を
艶かしく漂わせている。
長田 幹夫さまは、一度も私を抱くことがなかった。
さっさと東京に帰ってしまわれたのです。
まだ男を知らぬ蕾のままの私の体は
長田 幹夫さんを求めて、こんなにも
朝露にしっぽりと濡れた潤いのある植物のように
愛と感謝で満たされているのに……。
「わたしの諭しは雨のように滴り,
わたしのことばは露のように流れ落ちる。
草に降る静かな雨,草木に降る豊潤な雨のように」。
(申命記 32:2)
私のことをいつも思っていてください。
印章を胸元に下げるように,腕にくくり付けるかのように。
愛は死のように強く+,
あなただけを思う気持ち*は墓*と同じように変わることがありません。
愛の火は燃え盛る火,ヤハ*の炎+。
ソロモンの歌 8:6
どんな形で恩返しができるでしょうか。
今は、卒業まで全力を尽くしたいと思います。
この5年間で、わたしも人を愛することを少しだけ学ぶことができました。
ストリートチルドレンだったわたしを拾い、毎日のように電話やLINEで
時間と愛をかけて育ててくださった。
何度も頭をなで、愛される価値があると教えてくださった。
優しくハグして、溢れるほどに愛を注いでくださった。
残念ながらわたしはまだ、涙が出るほど感謝しているというわけではないのです。
いつの日か、心が育ってきたとき、そう感じることができるでしょうか。
婚約破棄されても悲しむことも泣くこともできないわたし。
心が育っていないわたし。
それとも、壊れた心はもう元には戻れないのでしょうか。
与えられるばかりでなく、看護のお仕事を通して、
人を愛し大切にことができるようになるでしょうか。
それとも、DQNな看護師のように
度重なるナースコールにぶちきれて、
患者さんを無碍に扱ったりするのでしょうか。
それは、毎日の私の生き方考え方によって
結果は変わるのでしょうね。
長田 幹夫さんがここまで育ててくださった。
成長させてくださった。
今度はわたしが自分を育てます。
自己肯定感を高め、折れない心に変わっていく。
あの稲穂のように、実りのある人に成長していく。
わたしはわたしを見捨てない。
いつの日か長田 幹夫さんと共に生きていけたら嬉しいです。
光は走り、稲妻が天空を駆け抜ける。
ゲリラ豪雨。
大粒の雨が叩きつけるように道路を打つ。
私の名前は、山内 雅美。
9月2日、今日20歳の誕生日を迎えます。
高等学校5年一貫教育の学校に通っています。
来春卒業です。
卒業すると、正看護師の資格が取れます。
愛媛県大洲市にあるので、女子寮に入っています。
今日は、私の誕生日をお祝いしてくれるということで
婚約者が会いに着てくれます。
ひさしぶりに会えるので、とてもどきどきして楽しみです。
長田 幹夫 32歳。
不動産会社の社長さんです。
彼とであったのは、東京の池袋のサンシャインです。
家出中だったわたしは、サンシャインの中で
その日あったストリートチルドレンの仲間たちと
寝泊りしていました。
シンナートルエンのオロナミンCの瓶に入ったやつを買って
ビニールに入れてすったり、
鎮痛剤のOD。多量服用。
白い粉に手を出している人もいるみたい。
わたしはまだお子ちゃまだったから、
手をだしていなかったのだけど……。
すごく寒いときは、池袋駅の地下に行って
ホームレスのおじさんたちのダンボールの中で寝たりしていました。
デパ地下のお惣菜の残りとかすごく美味で、
自分の家にいるよりは殴られることも
義理の父にいたずらされることもないので
安心して過ごすことができました。
ちょうど5年前、15歳になったばかりの時、
昼間、サンシャインの水族館の前で
パンフレットを見ていると、
長田 幹夫さんが、いきなり
「家出でもしているの?」
と、声をかけてきたのです。
私服の刑事さんかと思ってびっくりしていると、
名刺を出されて
「せっかく、きれいな顔してるのにもったいないよ」
と、言われるのです。
物好きですよね。
てっきり、補導されて保護センターに送られると思っていたので
そうじゃないとわかると緊張が解けて、
へなへなとその場に座りこんでしまいました。
わたしはとても疲れていて、
ゆっくり眠りたかった。
もう、誰でも良かった。
どこでも良かったんです。
今が楽しければいい。
積み上げるものなんて何もないんだから。
投げやりな考え方。
親も自分も大嫌い。
そのくせ、満たされない思いでもう自分自身と折り合いがつけられなくて
どう扱ったらいいのかわからなかった。
一つだけできることがあるとしたら、
何を大切にして続けていけばいいかも霧の中。
暗中模索だったんです。
真っ暗なトンネルの中を手探りで裸足で歩いているような
危なげな足取り。
いっそのこと、かあさんの子宮に戻りたかった。
やりきれない思いでいっぱいだったんです。
少しお話をして、サンシャインのプリンスホテルに連れて行ってもらいました。
お風呂に入ったり、ルームサービスを頼んで一緒に食事をしたり
夢のような時間を過ごすことができました。
まるで、シンデレラみたいですよね。
ネットでお洋服を探して、
バーバリーのお洋服とバックと靴を揃えてくださったんです。
あのお決まりのタータンチェックがかわいい。
その当時、中学校3年生でした。
でも、学校にはほとんど行っていないから
「高校に行きたくないの?」
と、聞かれても勉強着いていけるわけもないと思っていたのです。
半年間、家庭教師をつけてもらって猛勉強をしました。
病院にも連れて行ってくださって、いろんな検査をしました。
ラッキーなことに何の病気にもかかっていないことを確かめると、
愛媛県大洲市にある学校に5年間行って、卒業できたら
結婚しようといってくださいました。
夢ならば、このまま覚めないで欲しい。
絶対に無理だ。
どうせいられなくなって、また家出してしまうと思っていたのですが、
何故か奇跡のように続いています。
しかも、いじめもなく青春を謳歌できているんです。
わたしはまるで、お金持ちのお嬢様のように
必要なものはすべて手に入れることができて、
文具も洋服も日用品も有り余るほど与えられていました。
実の親とも連絡をちゃんと取ってくださっていて、
はばかることなく日々を過ごすことができたのです。
心から感謝しています。
彼がいなかったら、今頃はストリートチルドレンで
体でも売って、性病になって悲しい秋を迎えていたかもしれません。
郷土料理のお店に連れて行っていただきました。
とんくりまぶしという釜飯のようなものをいただきました。
栗と豚肉がとっても濃厚なお味。
栗はあまーくぽっくりしてる。
帰りがけに、長田 幹夫さんはぼそっと
「卒業するまではお金を送れるけど
その後は、どこかの病院の寮にでも入って
お金をためてアパートを借りてくれ」
と、言われたのです。
「どうしたんですか」
「新型感染症で、オリンピックがなくなって
タワーマンションが売れなくなって、
会社が倒産したんだ」
「長田 幹夫さんの生活は大丈夫なんですか」
「いや、大丈夫じゃない。
だから、卒業しても結婚できなくなった。
婚約は破棄してくれ」
「わたしが働きます」
「今君にできるのは、ちゃんと卒業して、
資格を取るんだ、それだけを考えて」
なんてことなんでしょう。
やっぱり、夢のような生活は永遠に続かないんですね。
必ず、つらい悲しい現実に引き戻される。
寮に帰る道は、青い稲穂が風にサーと揺れ、
何もなかったかのようにキラキラと陽光が輝いています。
曼珠沙華が真っ赤な花を揺らめかせ、
燃え尽きることのない命の火を
艶かしく漂わせている。
長田 幹夫さまは、一度も私を抱くことがなかった。
さっさと東京に帰ってしまわれたのです。
まだ男を知らぬ蕾のままの私の体は
長田 幹夫さんを求めて、こんなにも
朝露にしっぽりと濡れた潤いのある植物のように
愛と感謝で満たされているのに……。
「わたしの諭しは雨のように滴り,
わたしのことばは露のように流れ落ちる。
草に降る静かな雨,草木に降る豊潤な雨のように」。
(申命記 32:2)
私のことをいつも思っていてください。
印章を胸元に下げるように,腕にくくり付けるかのように。
愛は死のように強く+,
あなただけを思う気持ち*は墓*と同じように変わることがありません。
愛の火は燃え盛る火,ヤハ*の炎+。
ソロモンの歌 8:6
どんな形で恩返しができるでしょうか。
今は、卒業まで全力を尽くしたいと思います。
この5年間で、わたしも人を愛することを少しだけ学ぶことができました。
ストリートチルドレンだったわたしを拾い、毎日のように電話やLINEで
時間と愛をかけて育ててくださった。
何度も頭をなで、愛される価値があると教えてくださった。
優しくハグして、溢れるほどに愛を注いでくださった。
残念ながらわたしはまだ、涙が出るほど感謝しているというわけではないのです。
いつの日か、心が育ってきたとき、そう感じることができるでしょうか。
婚約破棄されても悲しむことも泣くこともできないわたし。
心が育っていないわたし。
それとも、壊れた心はもう元には戻れないのでしょうか。
与えられるばかりでなく、看護のお仕事を通して、
人を愛し大切にことができるようになるでしょうか。
それとも、DQNな看護師のように
度重なるナースコールにぶちきれて、
患者さんを無碍に扱ったりするのでしょうか。
それは、毎日の私の生き方考え方によって
結果は変わるのでしょうね。
長田 幹夫さんがここまで育ててくださった。
成長させてくださった。
今度はわたしが自分を育てます。
自己肯定感を高め、折れない心に変わっていく。
あの稲穂のように、実りのある人に成長していく。
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