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春秋花壇

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婚約破棄 処暑

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 残暑お見舞い申し上げます。

葉鶏頭ににょきにょきと大きな長い塔が建って、

そこから藤色の小さな小さなお花がびっしりと咲いております。

エキゾチックなその大きな葉とは別物かと思うような

小さな控えめなかわいいお花。

陰陽兼ね備えた植物なのでしょうか。

ハイビスカスも一夜妻のようにその短い命を

必死に精一杯謳歌しています。

なんてきれいな色なんでしょう。

赤、黄色、白、ピンク、オレンジ。

まさに南国情緒たっぷり。

髪飾りにでもしたいくらい美しい。

夾竹桃が鮮やかなピンクの花弁をまとって

雲ひとつない青空に舞い上がろうとしております。

サルスベリのアワイピンクのお花もしゅわしゅわの

姿を恥ずかしそうに覗かせております。

ほら、デュランタの紫が彩りを添えて

せみ時雨と虫の音にのせて季節を奏でております。

子供たちは、残り少ない夏を惜しむように

朝から走り回っています。

ラジオ体操の会場に向かう早朝の空は朝日も艶やかに

キラキラと輝きを放っております。

皆様には、新型感染症の中、いかがお過ごしでしょうか。

首相が辞任されました。

お疲れ様でした。

ありがとうございました。

ゆっくり、療養されてください。

潰瘍性大腸炎、痛いのでございましょうね。

腸バリウム、恥ずかしい格好で検査をされたのでしょうか。

カテーテル検査もされたのでしょうか。

生検されたのでしょうか。

ポリープはあるのでしょうか。

潰瘍は深いのでしょうか。

ガンじゃないといいですね。

「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物」

と、批評した代議士のツイッターが大炎上しております。

言葉は諸刃の剣。

築き上げることもできますが、

殺すこともできます。

わたくしも塩で味付けされた言の葉を紡いでいけたらと思っております。


川島 桂子 24歳 ウエーブデザイナー

増子 祐輔 30歳 建築デザイナー

二人は、3年のお付き合いを経て婚約しております。


今日は、大切なお話があるということで、

食事に招待されております。

新しいワンピースを買いました。

水色の上品な素敵なワンピースです。

きっと、そろそろ式をあげようという楽しいお話なのだろうと

胸がときめいているのでございます。


わたくしの仕事は、在宅ワークでも続けていけるので、

結婚をしても子どもを産んでもできれば仕事は続けていきたいと

先日、祐輔さんと将来の展望をお話いたしました。

大切なことですよね。

目標、夢。

明確にして、少しずつそれに向かっていく。

素敵な家庭を築き上げられたらと思っております。

さて、お約束の時間となりました。

案内されたテーブルで、わくわくどきどきしております。

通されたテーブルの後ろの壁には、

花瓶に活けられた美しいお花の絵が飾られております。

色鉛筆で描かれたようなタッチが柔らかな照明を受けて、

場を盛り上げています。

テーブルのお花は、低く活けてあり、

手が引っかかったりしないように配慮されております。

今日はたくさんのお客様がいらっしゃるようです。

やっぱり、人気のあるお店は活気がありますよね。

人が人を呼ぶのでしょうか。

貴腐ワイン。初めていただきます。

素晴らしい香りと甘美な風味。

その希少性から「ワインの帝王・帝王のワイン」と呼ばれているそうです。

貴腐葡萄は完熟した葡萄に貴腐菌(ボトリティス・シネレア)が

ついて出来る特殊な葡萄なのだそうです。

とっても上品で甘みが強い。

木になったままで乾葡萄のような状態なのだそうでございます。

こんなおいしいものを用意してくださる祐輔さんと、一生添い遂げられたら、

ああ、わたくしの人生はなんてラッキーなんでしょう。

コンソメスープが本当においしい。

刻んだパセリの浮き身が彩りと爽やかさを連れてきます。

前菜が和テイストで、おくらとたことホタテなのですが

散らしてあるいくらや菊の花びらがとってもかわいい。

牛のヒレ肉のステーキ。

オリエンタルマスタード、からしでいただきました。

ツンとした辛味と香りがとても美味です。

サラダは、さやえんどうを船に見立ててきのこやレモン、

ラディッシュ、サーモン、キャビア、丘ひじきなど

さまざまなものがデコレートしてありました。

おもてなしの心、満載ですよね。

デザートは、ノーマルなバニラアイスクリーム。

バニラの粒々芳醇な香りを引き締めます。

大好きな人とすばらしいお店で愉しい会話を交えて食事。

光彩陸離。煌く人生のひとこまでございます。


おいしい食事に舌鼓を打って、さて大切なお話です。

「大切なお話ってなーに?」

「ああ」

祐輔さんは、照れているのか言葉が出てきません。

下を向いて、ぼそっと

「別れよう」

「婚約破棄して欲しい」

え?

ええええええええええええ

わたくしは、耳を疑いました。

何かの間違い。

これは夢。

そんなことって……。

ディズニーランドの暗闇を走るスペース・マウンテンでさえ

ここまで落差があるでしょうか。

まるでエンジェルホール。

エンジェル・フォール(天使の滝)は、南米大陸のベネズエラにある滝。

 ギアナ高地のカナイマ国立公園内にあり、

979メートルという世界一の落差を誇る滝です。

感情のジェットコースター。

心臓が止まるのではないかと思うくらい、

ばくばく脈打っています。

夢ならばどれほどよかったでしょう。

米津玄師○さんのLemon が頭の中を駆け巡る。

わたくしも下を向いて、

涙がぽたぽたと落ちてまいります。

その時間の長く感じたこと。

世界中のときが凍り付いてしまったのではないかと思いました。

その場にいることがとてもつらくて、

「ありがとうございました」

と、立ち上がろうとしたその時。

大きな拍手が聞こえてきました。

え?

これもまた、何かの間違い?

これは、お芝居?

どっきり?

拍手の音はどんどん大きくなっていきます。

そこに、お店の支配人の方が見えて、

「おめでとうございます」

と、ケーキを持ってきてくださいました。

「いつもお世話になっておりますお返しに、

当店からのプレゼントです」

と、おっしゃるのです。

お店の中にいたお客様も立ち上がって、

わたくしたちのそばによってこられて、

盛大な拍手。

あの……。

別れ話なのに……。

わたくしも祐輔さんも深々と頭を下げそのお店を出ました。

꒰* ॢꈍ◡ꈍ ॢ꒱.*˚‧

月日のたつのは早いものでございます。

あれから、4年がたちました。

近い農夫が誓いのフーガ

今、わたくしには祐輔さんとの間に2人の子供がおります。

あの時、祐輔さんは突然、海外への転勤を言い渡されたそうです。

結婚をしても仕事を続けたいというわたくしを配慮して、

着いてきてくれとは言えず別れ話をされたそうです。

あの拍手のお陰で、走るように立ち去ることをしなかったわたしたちは

しっかり話し合って、一緒に赴任先に二人で向かったのです。

幸運の神様には前髪しかないそうです。

あのお店の皆様の拍手によって、

わたくしも祐輔さんも前髪をつかむことができたようです。

わたくしの仕事も、今までの働きが評価されて、

海外でも十分お仕事をいただくことができております。

案件をこなすこともできているので、金銭的にも

2倍の収入を得ることができているのです。

祐輔さんについてきてよかった。

そして、これからも着いてまいります。

死が二人を分かつまで一体なのでございます。

小説や映画ではしばしば,結婚は人もうらやむような

幸福な結末として描かれます。

しかし実生活においては,結婚は結末ではなく始まりです。

永続するものとして神様が設けられた取り決めのスタート。

縦と横の糸を大切に織り成して生きたいと思います。

「三つよりの綱は素早く断ち切ることはできない」。―伝道の書 4:12。

この異国の地で、助け合い励ましあって生きていきとうございます。

今度、日本に帰ったらまたあのお店に行くことができるでしょうか。

男は父と母から離れて妻にしっかり付き,

2人は一体となるのである。

創世記 2:24
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