いとなみ

婚約破棄 クレプトマニア

「あーあ、またやってしまった」

後悔先に立たず、

このどきどき感がたまらないのです。

止まらないやめられない。

店を出たときに呼び止められなければ、

万引き成功。

お金がないからじゃない。

クレプトマニア（くれぷとまにあ）とは、

窃盗を行う緊張感と、

窃盗後の解放感からくる精神的な起伏を好み、

窃盗を繰り返してしまう精神障害の１種。

利益目的の窃盗(万引き)とはことなり、窃盗癖ともよばれている。

どんなに、もうやめよう。

二度とやらないと思っても、

寂しかったり、不安だったり、

うまくいかない日常からはみ出しそうなとき、

気がつくとまたやっていた。

たとえば、今書いているこの小説、

昨日、アルファポリスの現代文学の1位になっていた。

自己評価がとても低いから、

いちいち人の評価がものすごく気になってしまう。

そして、それがたまりにたまっていくと

全部分投げたくなる。

どうせわたしは……。

そんな時、何故か、万引きをしてしまうのだ。

こんなことを続けていれば、会社も首になってしまう。

婚約も破棄されてしまう。

そんなことは、百も承知なのに。

ケイトウの花が艶やかに燃え盛っています。

赤、濃いピンク、淡いピンク、黄色、オレンジ色。

過ぎ行く夏を惜しむように今、この時を必死に……。

いちばん印象的で畏怖の念を抱かせる雲が，

「声を立てる」雲でしょう。それは積乱雲，

または入道雲という名称の雲です。

暗くて不吉なこの雲は16㌔余り，

もしくはそれ以上の高さに達して空にそびえています。

夏の風物詩ですね。

目黒 弥生　23歳。

九段にある大学を出て、この春、就職をした。

せっかく、何とか自立・自律できた生活ができているのに、

本当に何とかしないと……。

婚約者　広瀬 淳　29歳。

母親同士が友達で、小さなときに

二人を結婚させようと婚約が決まった。

一月に一回は、一緒にお食事に行っている。

今日は、特別にお話があるということで、

両親も同席で広瀬 淳さまとお会いする。

どんなお話なのでしょう。

両親も一緒にということなので、

とても大切なことなのでしょうが。

式の日取りを決めるとかなのかな。

少しどきどきしながら、待ち合わせの場所に向かいます。

池袋東口にある完全個室の和食のお店です。

ランチをご一緒する予定です。

賑わい松花堂（前菜6種盛り）
そばがきと野菜の揚げ出し
津軽鴨の霜降り　ごまポン酢
二八せいろ蕎麦
本日のデザート3点盛り

とてもヘルシーで彩りも爽やかなコースでした。

前菜6種盛りがカラフルでかわいく、

さまざまな味と香りが楽しめて、

和気藹々と食卓を囲めて楽しかった。

ドリンクつきなので、蕎麦湯とは別に

アイスコーヒーをわたしくしは注文しました。

すすやかな香りとフレッシュミルクの混ざり合うお色が

目を喜ばせます。

食事が終わり、突然、広瀬 淳さまは、

言いにくそうに、

「弥生さんとの婚約を破棄したいと思うのですが……」

わたくしもお父様もお母様も突然の申し出にびっくりして、

何をどのようにお話してよいものか迷っておりました。

広瀬 淳さまは続けて、

「理由は、ご家族の方々はご存じないかもしれませんが、

弥生さんには、とても悪い癖がありまして、

それを治してもらうまでは、安心して一緒に暮らせません」

と、おっしゃるのです。

まさか、わたくしの万引きの癖が広瀬 淳さまにわかってしまったのでしょうか。

もう、顔が真っ赤になって、どきどきして、胸が張り裂けそうです。

お恥ずかしい話なのですが、両親は小さい頃から、しつけがとても厳しく、

何かにつけてお互いに、

「お前のしつけがなっていないから弥生がこんなことをするんだ」

「あなたがもっと、弥生をかまってあげないから、

消極的な反応しかできない」

と、夫婦けんかになってしまうのでございます。

ですから、もしも、わたくしの万引きの癖のことが両親に知られて

それが理由で婚約破棄されたとなると、わたくしは家にいることができません。

当然そのことで、両親はいがみ合うだろうし、

針のむしろだろうと思うのです。

クレプトマニアの特徴
利益目的が全てではない
常習性が有る
他の病気との合併症が見受けられる
買えないから盗むというわけではない

「彼女の盗癖は、クリプマニアと呼ばれる病気ではないかと思うのです」

「ご家族で話し合って、きちんと弥生さんの治療をしてあげてください」

「婚約は破棄しますが、弥生さんのフォローは引き続きしたいと思います」

「わたくしの知り合いのカウンセラーがいますので、

通院をさせられてはいかがでしょうか」

父も母も、驚いて、何の言葉も出ませんでした。

あれから、一週間、父も母もわたくしと口をきこうとはしません。

あきれ返ってしまったのでしょうか。

広瀬 淳さまは、毎日のように心配して、LINEをくださいます。

クレプトマニアは、窃盗依存症。

病気が良くなったら、広瀬 淳さまとまた結婚できるかもなんですって。

一人じゃない。

わたしは愛されている。

大切にされている。

だからわたしも、自分も広瀬 淳さまも大切にできる人になりたいです。

きっと、なれますよね。